番外編1 風香の過去
気づいたときには、私は、たくさんの人の目を浴びていた。
誰もが、私のことを見ていた。
それが少しだけ辛くて、そして嬉しかった。
私は、ドラマに出ていた。
台本に書いてある文字を覚えて、言われた通りに、あるいは自分の思うがままに、その人を演じて、演技していた。
稽古に打ち込めば打ち込むほど、役になりきればなりきるほど、いろんな人から褒めてもらえた。
それがすごく嬉しかった。
でも一人だけ、お母さんには褒めてもらえなかった。
お母さんは、ただ淡々と、私の送迎をしたりドラマの説明をしていた。
私がお仕事をいくらこなしても、お母さんは嬉しそうじゃなかった。
だから私は、お仕事も、テレビも、歌も、頑張った。
ときどき何かの賞を受賞したときもあった。
でも、お母さんは喜んでくれたりも、褒めてくれたりも、しなかった。
私は、それが辛かった。
ある日、突然お母さんに「もうやめよう」と言われた。
泣きながら。
私はお仕事するの楽しかったし褒めてもらえるのもうれしかったから続けたかった。
でもそれ以上に、私はずっと、お母さんの笑顔が見たかった。
険しい顔のお母さんしか見たことなかったから、笑顔になってほしかった。
だから私は、それでお母さんが笑顔になってくれるならと思って、そのお母さんの提案を受け入れた。
そして私は都会から山奥に引っ越して、お母さんと一緒に畑仕事をしていた。
それでもお母さんは笑ってはくれなかったけど、でも今までみたいに険しい顔ではなかったから、少しだけ嬉しくなった。
私がした選択は、間違ってなかったと思って、安心した。
ある日、ずっと気になっていたお父さんのことについて聞いてみた。
「分からないの。ごめんね」
そう言って、お母さんは泣いた。
お母さんの涙を見たのは、二回目だった。
お母さんを泣かせるくらいなら、聞かなきゃよかったと思った。
私が十二歳くらいになったころ、突然家のドアのベルが鳴った。
普段来客なんてほとんど来ない家だったから、不思議に思った。
お母さんがドアを開けると、そこには私と同じくらいの女の子がボロボロになって立っていた。
話を聞くと、家で火事が起こって、命からがら逃げてきたらしい。
私は、その子に対して、言葉には変えがたい、何か運命的のような、神様の導きのような、そんなものを感じた。
お母さんは、なぜか私にこの子をどうするのか聞いてきた。
私は、突き放す理由もないし、何よりこんなボロボロの子を見捨てたくなんかなかったから、家でかくまうことにした。
その子と一緒に住みはじめてからは、毎日がにぎやかになって、楽しくなった。
私自身も、笑顔になる回数が増えたように思う。
お母さんも、少しだけ笑うようになった。
でも、お母さんのそれは作り笑いに思えた。
お母さんは、きっとどうやっても心から笑顔になることはできないんだろうと、そう思ってしまった。
ある日突然、あの子がいなくなった。
お母さんに聞いても「誰?その子」と言われた。
お母さんにその子の話をしても覚えてないと言う。
私は、そのことをずっと不思議に思っていた。
しばらくしたある日、今までの疑問が一気に解消された。
突然、知らない人が部屋にいた。
そして私にこう言った。
「あなたも精霊使いになりなさい」
訳が分からなかった。
でも、その人が言ったのだ。
お母さんが教えてくれなかった、お父さんがいない理由を。お母さんの過去を。
信用はしていなかったけど、思い返してみれば、その人のその言葉の通りだと仮定すると、なにかと説明がつくような気がした。
お母さんが、笑わない理由も。
そして、極めつけは、その人は「私たちの仲間にあの子がいる」と言ったのだ。
断れなかった。
お母さんを一人にはさせたくなかったけど、あの子とももう一度会いたかった。
それにお母さんは、あの子と違って居場所がわかる。
居場所がわかれば、いつでも会いに行ける。
だから、私は、その精霊使いというのになった。
ちなみに、学校には、行ってなかった、というか、学校という存在を知らなかった。
ドラマで学校で撮影したときとかはあったけど、だいたい廃校か学校に誰もいないときだったから、私くらいの人が行く場所だなんて知らなかった。
知ったのは実はつい最近、精霊使いになってからだ。
だから、読み書きができなかった。
でもそれは、あの子も同じだったから、別に何とも思ってなかった。
精霊使いになって、あの子と再会した。
あの子は、火菜と名乗っていた。
相変わらず元気で、あの子の周りはにぎやかだった。
だから私も、あの子の前では素でいられた。
お母さんのことは心配だったけど、でも精霊使いになれてよかったと思えた。
これからもあの子の隣で、笑顔でいたい。
そう思った。




