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地球の原材料  作者: 海那 白
地球
69/72

この地球の原材料は

 目が覚めると、僕は、自分の家のベッドの上で寝ていた。

 ベッドわきにあるカーテンを引き開けると、薄暗くなりつつある、晴れた日の夕方の空が見えた。

 時計を見ると、ちょうど四時を回ったところだった。

 机の方へと目をやると、星についての本が出しっぱなしになっていた。


 …星。


 僕は…なんで…ここに…いるんだ?

 分からない。なにか理由があるのだろうけれど、思い出せない。

 なぜだろう。

 なんか、ついさっきまではすべてを知っていた気がする。

 でも今は、それらが全くと言っていいほどわからない。

 なんだか今は、何もしたくない気分だ。

 なんか、今死んだら楽に死ねる気がする。

 でも、なぜだろう、死んではいけない気がする。

 それに、今は死にたくない気分だ。

 僕はふらっと立ち上がると、そのままの足取りで一階にあるリビングへと向かう。

 寝起きだからか、なぜだか視界がぐらぐらとする。

 今まで寝ていたはずなのに、なぜだか疲労感がたっぷりだ。

 重い足でゆっくりと階段を下ると、リビングには母親がいた。

 恐る恐る扉を開けて入っていくと、母親が驚いた顔をしてこちらを見た。

 僕はなぜだか、母親に向かってこう言ってしまった。


「ただいま」


「?いきなりどうしたの、星オタク」


 あれ?僕、なんでこんなことを言ったんだ?

 てか、星オタクはひどいと思う。

 そうやって僕のことをからかってくるの、嫌だ。

 いいかげん、やめて。うざい。

 僕は慌てて目をそらす。


「別に…なにもない」


 少しやけくそになって言ってみた。

 目をそらした先には、水入りのペットボトルが置いてあった。


 …水。


「なんだ、まだ眠いのか?寝坊助。それともまさか熱でもあったりするのか?熱すけ」


「ねえ…そういうの、いいかげんやめてよ」


「はいはい、分かったよ、バカ息子」


「全然わかってないじゃん…」


 そう言いつつ僕は、玄関に行き、少しきつめのスニーカーを履く。

 なんだか漠然と、どこかに行きたかった。


「…ちょっと、出かけてくる」


「五時までには帰って来いよ。じゃないと家に入れてやんねーからな」


「はいはい」


 僕はスニーカーのひもをきゅっと結びなおすと、ドアを開ける。


「いってきまーすっ」


「んー。いってらー」


 やる気のなさそうな返事だった。




 まずは、家の近くにある〝エイトマート〟というコンビニエンスストアに行ってみた。

 やけに名前に聞き覚えがあるのは、頻繁に通っていたからだろうか。

 そのコンビニは、駐車場がこれでもかというほどに広く、店舗自体も少し大きめのものだった。

 そして隣には、よくある物置が置いてあった。

 そよそよと吹く風が、なんだか心地よかった。


 …風。


 何かを燃やしてでもいるのか、どこからか火の焦げ臭いにおいも漂ってきた。


 …火。


 コンビニの自動扉の前に立つと、ギギィ…というような、明らかに老朽化している感じの音がした。


 …音。


「「いらっしゃいませーっ」」


 いかにも、店員一同お客様大歓迎アピールをしているかのような挨拶だった。

 一番手前のレジにいる、若い高校生くらいの店員さんの顔が、なんとなく見慣れているかのような気がした。

 カチ、カチ…と、時計の秒針の揺れる音がする。


 …時。


 何も買わないで立ち去っていくのもなんだか失礼な気がして、少ない僕のお小遣いで、二〇円のチロルチョコを買っていくことにした。

 会計のときに店員さんが打つレジの方法を、なぜだか僕は知っている気がした。

 コンビニを出ると、前方には、車のクラクションの音が鳴り響いている大きな道路が東西にのびていた。

 僕は、コンクリートの大地を踏みしめて歩き出した。


 …大地。


 途中にちょこんと生えている植物たちを踏んでしまわないように、気をつけて歩いた。


 …植物。


 この世界には、いろんな人がいると思った。


 …人。


 だから、面白くて、興味が尽きない。




 僕は〝西瓜内科〟という文字が書かれた看板の下のドアの前で立ち止まった。


 …文字。


 やけに見覚えのある景色だった。

 近くから、犬やら猫やらの動物のなく声が聞こえた。


 …動物。


 電線には、鳩やら雀やらの鳥がとまっているのが見えた。


 …鳥。


 僕はとりあえず、歩を進めた。

 病院の中に入ると、すぐそこに受付があった。

 適当な嘘をついて、僕は特別に関係者出入り口へと行かせてもらった。

 白く光る蛍光灯が、この場所の寂しさを感じさせる値段が、下へ下へと続いていた。

 地下一階は、物置だった。

 患者さんのカルテとかが大量に置いてあるのを理由に「入っちゃダメ」と言われた。

 まあ、個人情報だもんな。

 地下二階は、遺体安置室だった。

 少しだけ中を見せてもらった。

 死んだ人の腐敗集を嗅いだのは、これが初めてだった。

 なんだか幽霊とかが出てきそうで、怖かった。


 …霊。


 なので、早めに退室することにした。

 まだ階段は、下に続いていたような気がした。

 まだあると思ったのは、僕の気のせいだったか。




 僕は病院の外に出た。

 なんだか、僕、大事なことを忘れている気がする。

 心にぽっかりと穴が開いたような感覚。

 なんだっk…。

 ゴンッ。

 そんな鈍い音と同時に、僕は不可にも、硬いコンクリートの地面へと顔面ダイブしてしまった。

 痛っ…。

 びっくりしている頭を何とかなだめつつ、起き上がると、膝のあたりが僕の血で赤く染まっていた。

 痛い…。僕、痛いんだ…。

 その事実が、なぜだか嬉しく思えた。

 だって、生きていなきゃ、こんな風に痛みは感じられないんだから。

 生きているから痛いんだ。

 この痛みは、生きているからこそ感じるんだ。

 僕は、生きてる…生きてるんだっ。

 ちゃんと自分の足で立ち、正常な呼吸をして、こうやって思考することができている。

 僕が生きている、証拠。

 僕は、生きたい。今も、これからも。

 初めて、そう思えた瞬間だった。

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