小さなエゴイスト
武器を持っているものはそれらを具現化し、武器を持っていない者は、水晶に向かって手を広げ、そこから力を発していた。
精霊使いたちが発した地からは精霊となってきらきらと浮かび上がっていき、しばらくの間宙をさまよい続けて、やがて水晶へと吸い込まれていく。
目を閉じているはずなのに、なぜだか視線がまぶしかった。
きっと今目を開いたら、星空に寝転んでいるかのような感覚に陥るんだろうな…。
僕は身勝手にも、そんなことを考えてしまっていた。
僕は「精霊使いになるべきではない人」らしいから、ほかの精霊使いたちと違って、身体の外部からも精霊が集められているらしい。
だからか、このような行為に痛みも苦しみも何も感じない。
しいと言えば、ずっと手を上げ続けているため、肩が付かれるくらいだ。
だから、ほかの精霊使いたちの気持ちを、僕は全くと言っていいほどわからない。
もしかしたら、全身全霊の精霊を使うことって、痛くて、苦しくて、辛いことなのかもしれない。
もじかしたら、全身の精霊を使っても、何も感じないのかもしれない。
もしかしたら、全身の精霊を使うと、一時的に内蔵の機能が停止しているのも知れない。
もしかしたら、全身の精霊を使うことによって、健康状態がよくなるのかもしれない。
もしかしたら、全身の精霊を使うことは、気持ちが悪くない行為なのかもしれない。
もしかしたら、全身の精霊を使うことが、気持ちよくなる行為なのかもしれない。
分からない。分からない。僕にはわからない。
だから面白い。
いろんな人がいてもいいはずだ。
いろんな思想があってもいいはずだ。
いろんな価値観があってもいいはずだ。
いろんな人生があってもいいはずだ。
いろんな世界があってもいいはずだ。
この世界には数十億人もの人がいて、数千億匹もの生物がすんでいて、数十万個もの星がある。
その中で僕は、どれくらいの人と出会い、何匹もの生物を見つけ、いくつの星を知ったのだろうか。
僕はまだきっと、この世界のほんのわずかな存在たちにしか出会うことができていない。
でも僕の人生は、まだ始まって十年余りしかたっていない。
まだ、まだ、道のりは今までの何倍も長い。
そんなにも長い道のりを、どう歩いて行こうか。
その答えは、いまだに一つも思い当たらない。
いつか僕にも、人生の目標というものが見つかるといいな…。
そんな淡い期待を胸に、僕は日々を過ごしていった。
…でも、見つかることはなかった。
僕には、本当にやりたいことがなかったのかもしれない。
「〇校に行け」と言われたから行った学校。
「友達になろう」と言われたからなった友達。
「これを着て」と言われたから着ている服。
僕はあまり、自分で何かを選択することはあまりなかった。
だから今も、こうなってしまっているのかもしれない。
マニュアル通りに動くような僕に。
腕が痛い。疲れた。眠い。僕はどうしたら…。
僕の中に、そんないろんな感情が、交差し、絡み合い、混ざり合い、限りなく黒に近い色へと変化していった。
心の中にどす黒い感情が、溶け込み、満たされ、埋め尽くされ、限界まで来ると、耐えることができずにあふれかえってしまう。
なんだか、自分の手から〝平和〟という二文字が遠ざかってしまっているような気がした。
手をどれほど伸ばしても、届かない距離までもに…。
でも今は、そんなことなんかどうでもいいと思ってしまう。
だって〝今日〟がなくては〝明日〟は存在しない。
では今一番重視すべきものは何なのか…。
そんなもの、決まっている。…〝今〟だ。
今この瞬間が大切なんだ。
何よりも、どんなものよりも。
そうじゃなきゃ、この時間はとてつもなくもったいない。
今を、玄奘を、どうにかできるのは、今しかないんだ。
それ以外のものなんか、もう…どうでもいい。
ただ僕は…後悔はしたくない。
決定的なものではなく、はっきりとした定義はないが、もしかしたらそれが、僕の人生の目標なのかもしれないな…。
…たまに僕は思うんだ。
なんで今僕は、生きているんだろう…って。
どうして、こうやって二本足で立っていて、こうやって言語を話し、思考をしていられるんだろう…って。
でもすぐに、答えが出てしまう。
この疑問には、いかなる場合も、それが正しいと言えてしまう回答は一つしかない。
決まっている。…生きたいからだ。
僕は、生きたいから生きているんだ。
こうやって二本足で立ち、こうやって言語を話し、こうやって思考する。
その中の一つでもすることができれば、それはもう、はっきりとした、自分が生きている証拠だ。
それが分かった瞬間、いつ僕は、二本足で立つ足に力が入り、誰かと言語で話したくなり、そのためにいろんな思考をする。
そうやって、僕は〝生きている〟ってことを実感する。
過去形ではなく、未来形でもなく、現在進行形で。
そしてそのたびに、嬉しくなる。
もっと生きたいって思える。
…でも、今はどうなんだろう…。
そんな時、コツ、コツ、という音がした。




