名もなき行為
真昼の暑苦しく照らし続ける真っ赤な太陽の下。
それによって発生するヒートアイランド現象が、僕たちを纏った空気をさらに蒸し暑くしている。
上を見上げると、雲が一つもなく、からりとした快晴で、どこまでもどこまでもきれいな群青色が広がっている。
その色は深く透き通っていて、どこか切なげにも見えた。
そんな中、たたずむ精霊使いたちは最後を迎える。
…ただし、僕を除いて。
申し訳ない…と思いつつも、しょうがない…と、自分で自分に言い訳してしまっている自分もいた。
午後一時の空の下、異常に元気よく発せられた声があった。
「…それではっ、レッツゴーなのだっ」
その声の主は、今現在右手を高々と掲げてハイジャンプを繰り出している、情報の精霊使い張本人だった。
そして彼は、周りの様子をうかがうこともなく、まっすぐに西瓜内科の正面玄関口を目指して歩きだしていった。
…まったく、空気を読めない人だなぁ…。
それを見ていた僕以外の精霊使いたちは、まるで操られているかのように彼の後について行った。
その様子はどこか不思議で、どこか怖かった。
僕は大きなため息を一つつくと、仕方なくみんなについて行くことにした。
その時、偶然なのか意図的になのか、僕の前を歩いていた記憶の精霊使いの方が「クスクス…」と笑っていたのがやけに耳に残った。
受付の人に軽く一礼をしつつ、関係者出入り口の先にある階段を静かに下りて行った。
前に来た時は、こんなところにこんなものがあるなんて気が付かなかったから、驚いた。
緊張のあまり、自然と体がこわばっていた。
階段は、思ったより長く、一段一段下るごとに疲れが増してくる。
…まあ、目的の場所はここの地下三階と言っているのだから、当たり前と言えば当たり前だし、当然と言えば当然なことなのだろうが。
奥へ奥へと歩を進めるうちに、緊張はだんだんと高ぶっていく。
しばらくしてみんなの歩みが止まった。
どうしたものかと先頭にいるであろう情の方を見てみた。
情は何もない壁の前に立ち、右手を壁の前へとかざした。
情はぶつぶつと何やら呪文のようなものを唱え始めた。
「openthewindow , openthe door,star,earth,water,wind,pleant,insect,sound,spirit,animal,bird,fire,people,character,clock,memory and information are by the door……get up,seika.」
気づいたときには、情の右手の前の壁に、青白く光っている文様のようなものができていた。
情は呪文を唱え終わると、右手の指でパチンという音を鳴らした。
すると、さっきまで青く光っていた文様が消え、それと同時に、木造のシンプルな感じのドアが形成されていた。
情さんは迷うことなくドアのノブを回し、ドアを押し開けると、こちらに向き直って微笑んで言った。
「…どうぞなのだっ」
僕は思わず、息をのんだ。
だって、ドアの向こうが真っ暗だったから。
みんなは少し戸惑いつつも恐る恐る入っていく様子を見て、僕もみんなと同様に入らなきゃと思ってしまう。
これは集団心理の一種なのだろうか…。
僕も流れに乗ってドアを通過していく。
その時、情さんが申し訳なさそうな顔をしていた。
中に入ってみると、案の定真っ暗だった。
各地で「きゃあっ」「こっ、こここ怖いのです…」「くっ、暗い…な」とビビっているかのような声が聞こえてきた。
そしてその声を黙らせたのは、情さんだった。
情さんはまず、バタンとドアを閉めると、さっきと同じ文様をまた浮かび上がらせた。
またもや青白く光っていたので、さっきよりもだいぶ目立ってしまっていた。
この部屋を埋め尽くすほどの光力だった。
情さんはまたぶつぶつと呪文を唱えた。
「openthewindow,closethe door,ster,earth,water,wind,pleant,insect,sound,spirit,animal,bird,fire,people,character,clock,memory and information are in yor room……hello,seika.」
そして、パチンという音が響き渡った。
すると、部屋の中央部分であろうというところにある巨大な水晶のようなものが光っているのが見えた。
そのおかげで、だいぶ周りの様子をうかがえるようになった。
各地から「あ…赤?」「し、白いな…」「く、黒いですよ?」「み、緑…なのか?」「ピピピ、ピンクいにゃ…」というような声が聞こえる。
ちなみに僕には黄色く見える。
もしかして、精霊使いによって見える色が違うのか?
そう考えていた時、前にいた舞衣さんが振り返って「きゃあっ」と悲鳴を上げているのが見えた。
それを聞くと、僕もあわてて振り返った。
さっきの情さんの行為でか、僕たちが入ってきたドアがなくなっていた。
僕たちは頬に冷や汗が静かに伝っていくのを感じる。
なるほど、逃げられないように閉じ込める気かっ!
僕たちの反応に気づいてしまったらしく、最後尾にいた情さんはこう言った。
「…みんな立ち止まって血相を変えてこっちを見て…どうかしたのだ?みんな、早く前に進んでほしいのだ…」
そんな風に平然とした顔で言ってのける情さんが、少し怖かった。
それでみんなは、コイツを敵に回すとまずいっ!…と本能的に悟ってしまったのか、前を向いて操り人形のように歩きだしていた。
とりあえず僕も、それについて行くことにした。
意外と水晶のあるホールは、縦にも横にも広かった。
なんか装飾とかが取り付けていたりすることはなく、ましては壁に模様や凸凹さえもなかった。
なぜだか、こう…落ち着きがなくなってしまう。
少し歩くと、すぐに水晶の目の前まで行くことができた。
そこまで行ってやっと、その水晶の大きさがとてつもなく大きいと分かった。
ぱっと見、直径五メートルぐらいなのか…。
よく見ると、水晶の中に人影のようなものが見えた。
僕たちがあまりの大きさに若干感動して見とれていると「そんなことなんかしてないでさっさと動けよクソたちが」とでも言うかのように情さんが言った。
「着いたのだ!…それではさっそく始めるとするのだっ。
まずはその水晶を中心にして、みんなで大きな円をつくるのだっ」
とりあえず、情さんの言うとおりに水晶を中心とした大きな円をつくるような立ち位置へと行った。
いつのまにか、水樹が隣にいて、僕に微笑みかけていた。
だから僕も、軽く水樹に微笑んで見せていると、この雰囲気を見事にぶち壊してきた人がいた。
…そう、情さんだった。
「…あっ。みんなみんな~、隣の人とは両手間隔に広がってなのだ~っ」
僕はしぶしぶ両手を肩の高さにまで上げて広げ、少しずつ後ずさった。
もう独り言らしきことをぼやこうというような人は、誰一人としていなかった。
「…広がったのだ?
…っではっ、これより儀式を始めるのだっ。やり方は、目を閉じて、水晶に向けて自分の力を発揮する…。ただそれだけのことなのだっ」
これを聞いたみんなは「…あら、意外と簡単なのねぇ…」という、よくそこら辺のおばさんたちがぼやいているようなことでも言いだしそうな顔をして、じっと前にある水晶を見つめていた。
「よーい…」
そう言われて、慌てて力を使う時と同じように構えた。
みんなも、慌てて構えたのは僕らと同じらしかった。
その様子を見てにやりと笑った情さんは、始まりの合図を高らかに言い放つ。
「どんっ!なのだっ」
後の「なのだっ」をみんな揃ってさわやかに無視し「どんっ!」の合図で一斉に力を使い始めた。




