出立
「「…ごちそうさまでした!」」
そんな元気のいい声をいつもより元気よく水樹とともに発した。
だって水樹との、最後の昼食なんだから。
もうあと三〇分後には例の儀式をしに西瓜内科へと行く。
みんなと別れなくてはいけないという、この悲しい悲しい気持ちを打ち消すかのように、今日はいつも以上にもりもりと食べてしまった。
だから今は、胃が重くて重くて吐きそうだ。
でも、悲しい気持ちをかき消すためだっ…と自分に精いっぱい言い聞かせるが、それでも悲しい気持ちをかき消すことはできなかった。
悲しい気持ちを消し去ろう!…と思っている限り、この悲しい気持ちはなくなるわけではないんだろうな…と思ってしまっている自分もいる。
何バカなことをやっているんだろうな、僕は。
本当に…本当に情けなさすぎるよ、僕は。
あぁ、ごみ捨ててこなくては…。
そう思って立ち上がろうとすると、胃の中にたまっているものがごろりと動き、水分が喉の奥からこみあげてくるような感じがした。
こ、こりゃだめだ。
そう思った次の瞬間、考える暇もなくあお向けにぶっ倒れた。
なんだか、気が動転しているようだった。
パニック状態に陥っている脳神経と思考回路を何とか落ち着かせるため、大きく何回か深呼吸をした。
その様子を最初から最後まで見ていた水樹は、近くによって、僕の顔色を心配そうに伺いながら言った。
「大丈夫?星斗。なんかあったの?」
「いいや、大丈夫だ。何でもない」
「そっか。私に何かできることがあったら、何でも言ってね。あ、あとそのごみ、私のと一緒についでに捨ててきてあげるよ」
「ありがと、水樹。助かる」
そう言って僕は、水樹の優しい気づかいに本気で感謝しながら、右手に持っていたゴミ入りのビニル袋を掲げた。
本当は「だったら今日、死なないでよ」と言いたかった。
でも今このタイミングでそんなことを言ったら、絶対に怪しまれる。
だから僕は、しぶしぶ言わないでおくことにした。
ちなみに、今日水樹たちは、なぜ死んだのか、どうやって死んだのか、それすらもわからずに気づいたときには死んでいたという感じに死んでいくらしい。
なんだかかわいそうすぎて、息ができなくなりそうな感じがした。
「気にしなくていいよ、全然。これは私がしたくてしていることだし、私が星斗にできることといえばそれくらいしかないし。…だから、ね?」
そうやって水樹が僕に微笑みかけてきている姿を、水樹には悪いが、見苦しくて、見るのが辛くて、なんだか見ていられなかった。
その場から立ち去っていく水樹の後ろ姿から、思わず目をそらしてしまう。
なんだか、ごめんなさい、水樹。
そうやって謝罪せずにはいられなくなる。
「…ん、ただいま、星斗」
「…水樹。なんか、ごめんなさい…」
思わず僕は、水樹が帰ってきて早々「おかえり」よりも「ありがとう」よりも先に、謝罪の言葉を口にして、頭を下げてしまった。
それを見た水樹は、最初は少し驚いたような様子を見せていたが、だんだん納得してきたかのような顔をし、今度は少し呆れたような顔をして、言った。
「だからぁ、さっきから言ってんじゃん。これは私がしたくてしていることなんだから、全然気にしな
くていいんだって」
な、なんか勘違いされている…。
でも、この誤解は絶対に解いてはいけない誤解なのだから、これはこれでいいのだと思う。
…ううん。そうじゃなきゃ、僕が困る。
まあ、結果オーライって感じだ。こんな僕をさっきからじいっと見つめていた水樹がぽつりとつぶやいた。
「なんだか星斗、星斗らしくない。いつもの星斗となんか違う。…なんか、変」
その声は、なんだか拗ねているかのように聞こえてきた。
もしかしたら、本当は彼女にはそんなつもりはないのかもしれない。
もしかしたら、そう聞こえてきたのは僕の気のせいなのかもしれない。
でも、こちらを見ている水樹の目が「それは事実だ」と告げている。
「星斗が変だと私まで変になっちゃいそうになるんだから、気を付けてよねっ、星斗っ」
「う、うん。…わ、分かっ…た」
顔を赤くしてそういう水樹に、僕はしどろもどろと曖昧に返事をしてしまったことを、僕は今になって悔やんでしまった。
「…ほら、立ち上がりなさい、星斗。集合時間に遅れちゃう」
…うん。そうだよ。そうなんだよ。
あの「精華」とか言うやつの性で、僕は、水樹は、精霊使いは、こんなことをする羽目に…。
なんで僕たちがそいつの手となり足となり駒とならなければいけないのだろう。
なんで僕たちがそいつの支配下に置かれ、思惑通りに動かなければいけないのだろう。
なんで。なんで。なんでなんでなんでっ。
これならまだ、事故死か病死̠か戦死か焼死か自殺か他殺か、その他もともとでの死に方の方が幸せだと思う。
…いや、まだこっちの方が安楽死することができるのか?
…分からない。
そんな時、突然視界が真っ暗になった。




