記憶という名のビデオレター
星斗がごくりと息と唾を飲み込んだのを知る。
そんな様子を見て、僕は少し緊張を溶かすために軽くにやりと笑う。
「どうだ?知りたいか?」
「はいっ。もちろん知りたいですっ。教えてくださいっ」
心なしか、星斗の目がさっきよりも輝いて見える。
僕は口から出そうになる疑問の言葉を飲み込んで、あえて突っ込まずに、真実の照明に必要な言葉を探っていくことにする。
「…お前、ほかの精霊使いの過去の話は聞いたことがあるか?」
「あり、ます…」
「じゃあお前も、そいつらみたいな過去って持ってるか?」
「…いいえ、持っていません」
「だったら、ほかの精霊使いの過去の話を聞いたときに、〝なんで自分はそういう過去をもっていないんだろう?〟とか思わなかったか?」
「…あ、はい。思いました。…なんでわかるんですか?」
「…いや、ただの予想だ」
「…そ、そうですか…。では、僕だけが助かる理由とどのような関係がっ?」
「それはだな…お前はみんなと同じようなただの精霊使いではないからだ」
「…どういう…意味ですか?」
「もちろん、言葉通りの意味だ。嘘はついていない。断言できる」
「つま…り、は…?」
「お前が精霊使いになった理由、それは…すべての精霊使いを集めたかったからだ。
お前はもとから本質的に本能的に生まれつきで、他人を自分の周りに集める力を持っていた。まるで、この地球の重力のように。…だから、お前の周りに精霊使いたちを集めさせた。精華を目覚めさせ、もう一度この世によみがえらせるために」
「…はあ」
「まあ実は、もっと一〇〇年以上前から精華は起きたがっていた。でも自分で決めた自分を起こす方法のせいで、なかなか起きられずにいたんだ。
本来あの儀式は、すべての精霊使いでおこなわなければならない。だが、それもそのはずなかなか全員が集まってくれるのは難しい。なぜなら当時は、精霊使いが世界中に散らばっていたからだ。だからまずは、世界中に散らばっていたはずの精霊使いたちを日本国内に集まらせ、精霊使い全員を日本人にした。それでも北海道から沖縄まで居場所が離れている精霊使いもいて、会うことは難しかった。だから、少しでも集まってもらえるようにと、精霊使いたちに情報集めの用途として使用してもらうための赤い冊子を配り、その中に重要な一文として〝ほかの精霊使いたちと協力して生活したり、戦ったりするとよいでしょう〟というような感じの文を入れた。すると、集まりはしたものの、いくつかのグループに分かれてしまった。もう打つ手がなくなり、どうしようもなくなってしまった僕たちは、どこからか救世主があらわれてくれることを願うことしかなくなった。そんなときだった、お前の存在とその謎の力を知ったのは。自分で自分のことを判断できるようになるのは一〇歳ぐらいだろうと勝手に考えていた概念たちは、精霊使いになれる最低年齢のボーダーラインを一〇歳に設定し、早いものには一〇歳から変わってもらうことにした。
…まあ、お前が星好きだったからちょうどよかった」
「…そ、そうですか。ではなぜ、僕もほかの人みたいに変な技とか使えたりするんですか?」
「それは、お前は本来、精霊使いになるべき人ではないからだ」
「…というと?」
「先ほどから伝えている通り、お前は本来の精霊使いとは違う、精霊使いとは本来、存在しなければよかったような人や生まれてくるべきではなかった人たちに存在意義をあたえているから成り立っているんだ。だから、体内を概念に変えられる。だから、身体を張らせて仕事をさせられる。でもお前は、存在するべき人で、生まれてきてよかった人だ。だから、むやみに傷をつけることができない。そんな理由から、星の概念による力というものをあたえさせていたんだ。
お前の体内は、ほかの精霊使いと違って、いたって普通のまま保たせておいて、元の場所に戻さなければならない。だから、存在を消すことも安易にやってはいけない。あくまで〝借りるだけ〟なんだから。
…以上が、お前だけが生き延びることのできる理由だ。理解できたか?」
「…な、なるほど。たぶん、できたと思います」
「そうか。…まあ今は、それでいい」
「…そう、ですか…」
…あ。
なんか不覚にも、重苦しい雰囲気をつくってしまったらしい。 すまん、星斗。こんなつもりではなかった。
何とかこの重苦しい空気を少しでも明るくすることができたら…。
そう思って僕は、もう一度いつもの仮面をかぶりなおした。
「ん…星斗くん。どうしたのだ?なんだか顔がいつもより暗いのだ…」
僕はうつむきがちの彼の目をじっと見て、そう言ってみた。
「別に、何でもないです。気にしないでください」
星斗はそう言うと、少しひきつった感じの明らかに無理して作り笑っているのがバレバレの笑顔で、申し訳なさそうに言った。
そんな彼を見ていると、なんだか僕も申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
星斗は無理をする必要なんてないのに、僕のせいで…。
そんなとき、僕に何の魔が差したのか、だんだん「なんでこいつさっきからこんな無理してでも笑おうと必死になって頑張ってんの?意味が分からなすぎる…」と思ってしまった。
でもそのあとに、そう思ったことをひどく後悔すると同時に、そんなことを少しでも思ってしまった自分をひどく恥じた。
ああもう、さっきから何やってんだよ僕は。
ああもう、何でこうなっちゃったんだよ僕は。
本当にもう、僕は何がしたいんだ。
…そんなの、もうとっくに決まっている。
いわばこれは、〝記憶〟という名のビデオレターだ。




