もうひとりの
「…ならば、言って差し上げましょう。
ストレートに言います。あなたがそうなる理由は、あなたは本当の人の精霊使いではないからなのです」
「…ど、どういうことなのよ…」
「言葉通りの意味です。あなたは人の精霊使いではありません。現在の人の精霊使いの方は、今あなたに取り憑き、必要な時にはあなたの体を乗っ取っている、「人衣」という名の霊です」
みんな、「コイツ…何言ってんだ?」とでも言うような目で、僕のことをじっと見てくる。
それを察したあいつは、こう言った。
「実際に会って頂いた方が良さそうですね。…それでは人衣さん、どうぞ、出てきてください」
あいつがパチンと指を鳴らすと、舞衣くんは自然名動作で瞬きをしてしまった。
その間の瞳を開く一瞬の瞬間に、舞衣くんはいつの間にか人衣くんに体を乗っ取られてしまったらしかった。
その証拠に、目つきや醸し出している雰囲気が、いつもの舞衣くんとは全然違うものに変わっていた。
僕たちの間に新しい風が吹いたのを、直接肌で感じた。
「人衣」と呼ばれたその子は僕たちを見ると、可愛らしくにっこりと微笑み、自分勝手に話し始めた。
「みなさまこんにちはっ。からのはじめましてっ。先程紹介していただいたとおり、私の名前は人衣と言いますっ。人の精霊使いでぇ、趣味は人間観察ですっ。今後ともどもっ、舞衣たんのことと一緒に、私のこともお願いしますなのですっ。ハイ。…あとあとあとっ、自己紹介が遅れてしまい、申し訳ございませんでしたっ」
これはこれはまた、強烈なキャラの子がいたもんだな。
精霊使いとかになるような人は、普通ではない人生を送っているからか、キャラが濃い人が多いのだが…その中でも、さらに濃いほどだ。
あまりのキャラの強烈さに、僕を含めたみんながかなりドン引きしてしまっているほどにだ。
そんな僕たちの様子を見た人衣くんは、こう言った。
「あはっ。驚いてる驚いてるっ。めっちゃ驚いちゃってますねぇ。…あっ、さてはさては、突然のすぅごくかわいい美少女ガールちゃんの登場に驚いちゃってるんですかぁっ?んもぅっ、みなさん女の子を見る目が抜群にありますねぇっ。さすがですっ」
アホかっ。
お前にドン引きしちゃってんだよ、僕らは。
つか、自分で自分のこと、「すぅごくかわいい美少女ガールちゃん」とか言っちゃってるしっ。
もうホント、ありえないっつの。
あまりの強烈さに、もう何も言えないわ。
「おおっ。これはこれは、全概念の精霊使いがやっと勢ぞろいすることができたって感じですかぁ?それはそれは良かったですねぇっ。やっとの思いで念願叶えることができるんですねっ。おめでとうございますっ、精華たんっ」
話の最後、いきなろ僕のほうを上目遣いで見てきたからか、ついつい驚いてしまって「えっ」という声が漏れてしまった。
ていうかなんでこの人、今表面にいるのが精華だって分かったんだ?
「えへへへへっ。驚かされちゃってごめんねごめんねぇ~っ。でもでも精華たんっ、情報の精霊使いの情きゅんとかいう子と意識を共有させてんだよねぇ?」
「…ええ、そうですが…」
露、露骨に声のトーンが低くなった!
…ということは…本気でキレてるよ!精華っ。
「やっぱりやっぱりぃっ。…ごめんねぇ。勝手に情きゅんのサーバーに入り込んでハッキングして、大体の情報を見させてもらっちゃったよーんっ。前にとあるテロリストに取り憑いていた頃があってさぁ、そいつらがめっちゃハッキング行為やっちゃってたから、それを見てもう覚えちゃったんだよねぇっ。それでさっ、気になって思わずやっちゃったっ。
…ごめんねっ。
…ほらほらっ、霊っていうのは人に取り憑いて見たり聞いたり感じたりすることはできるんだけど、人には自分の存在を気づいてなんかもらえないし、気づいてもらおうとはしても自分から音を発することができないから、結果的に誰にも私の存在を気づいてもらうことなんかできないのが悲しいところなんだよねぇー。取り憑いている人の体を乗っ取っちゃえばこうやってコミュニケーションをとることは可能なんだけどね。でも私はその行為が取り憑いている人の存在の力を奪ってしまっているような気がして、本当は乗っ取りたくないんだよね。だって、私は本当は、もだこの世に存在すべき存在ではないんだけど、生きている人はちゃんと生きていると認められて、しっかりとこの世に存在すべきなんじゃん?そんなだからちゃんとこの世に、その人はその人として、強く根を張って生きて存在してほしくて、それで…。
でも私は、私に精霊使いの話がきた時に、嬉しくなったの。こんな、この世に存在するはずのない私がまだ存在してもいい気がして、まだ誰かが私を呼んでくれているんだなと思って、まだ私がこの世に必要とされている気がして。そうしたらもう一度、股この世で生きてみたいなって思って。こんなにもしょうもなくて、理不尽なこんな世の中だけど、それでもどこか、温かいから。そんな時に、気づいてしまったんです。私はこの世が、どうしようもなく大好きだったんだな…と。
…って、勝手にくどくどとすみませんっ。あれはあれはあの話は、全く聞いていなかったことにしていただいて結構ですからぁ…って、え?」
周りを見ると、みんな目を見開いて泣いていた。…まあ、僕もそうなんだけど…。
あいつは、こんな僕の姿もお構いなしに話を続ける。
…つか、あいつ、どんだけ空気を読むのが下手なんだよ…。
「…そ、そうだったんですね…。でも、だから勝手に他人のサーバーをハッキングするなんて、許された行為ではありません。やめて頂けますか?てか、やめてください。とてつもなく迷惑極まりないです」
「だからぁ、それは本当にごめんなさいって言ってるじゃーん。んもう、過去の行為をなかったことにしたり、記憶を書き換えたりすることなんかできないんだからねーっ。…まあ、それもこれも記憶の精霊使いたんを除いての人たちなんだけどねーっ」
「…あなたっ…」
あっ、ヤバい。
精華が本気で起こっていやがる…。
もう僕の未知未踏の領域にだいぶ入っちゃってるよー。
もしこの先精華が暴走し始められたらどうやって止めればいいか分かんないから、困っちゃうよー。
…てか純粋に、この空気のまま精華の怒りがヒートアップしてしまうのは、正直言って…怖い!
幸いにも僕の気持ちをあいつが理解してくれたのか、つりよがりかけていた眉が元々の形に戻ってくれたのかと思うと、あいつは口を開いた。
「…ごめんなさい、人衣さん。ついついカッとなってしまい、申し訳ございませんでした。ですが、先程まで私が言っていたこと、決して冗談などではございませんので、頭の隅っこに、少しでもいいので残しておいてくださると嬉しいです」
「えへへっ。いいのいいのー。気にしてないのー。私は私で、一瞬精華たんの素の姿が見れちゃって嬉しかったしっ。…それと、ごめんなさいです…」
人衣くんは最初ヘラヘラとしている風に言った後、いきなり犬のようにしゅん…としょげてしまっているように見えた。
各地から、まばらに苦笑いの声が聞こえてくる。
「人衣さん、用事、済みましたか?伝えたいこと、伝えきることができたでしょうか?」
「うんうんっ。私も会ったことなかった人とも会うことができたし、少しだけ楽しかったしっ。それにそれに、いろんなことを知れたし、わざわざ呼んでくれてありがとぅー。まあ、椎といえば、「お互いがんばろーねっ」ってことっ。あとあとあとっ、さっきの言葉にツッコミを入れるとすれば、「用事があって呼び出してきたんのはそっちなんじゃないか」ってことっ。
…ありがとうねっ、私のあんな話を生真面目にもちゃんとしっかりと聞いてくれてっ」
そして少しだけ間を置いて生温かい風を感じた後、人衣は明らかに無理をしているかのように、儚げに微笑みながら言った。




