デートへの誘い
前のような感じが戻ってくるような感覚がした。
なんだろう、何ともいえないこの感覚。
〝僕〟の方が表面に出てきたのかもしれない。
そう思った僕は、少し試してみることにする。
まずは右手から。親指、人差し指、中指、薬指、小指。
同じく左手も。親指、人差し指、中指、薬指、小指。
それらに順に力を入れつつ、指を折り曲げてゆく。
…できた。
ということは、やっぱり表面に出てきたんだ。
そう実感した瞬間、今まで自分の世界に閉じこもってしまっていたことに初めて気が付く。
慌ててしまった僕は一度自分を落ち着けるために咳払いをして見せ、のちに口を開いた。
「…えっと、僕の話はこれで以上なのだっ。終了したのだっ。…だからその、一度解散した後に各々昼食休憩をとることを提案するのだっ。実は僕、さっきからずっとおなかすきっぱなしだったのだっ」
僕がそう言うと「確かにおなかすいてきたよねー」「わらわもおなかと背中がくっつきそうだって、さっきからおなかが唸り声をあげて泣いちゃってるにゃー」というような声が聞こえてくる。
そのような様子を見て、ついさっきまで主導権を取り戻そうとして慌てていたからか、火菜さんは
「それでは決まりですね。…では今から一度解散してお昼休憩へとしましょう。再集合は一時間後といたします。…それでは、解散っ!」
と終わらせてしまったらしい。
そして、この火菜くんの合図と同時に、みんなが一斉に動き出してしまった。
そのことに気づいたときにはもう遅く、火菜くんは悔しそうな表情を見せたが、僕からの視線に気が付くと、一瞬でいつもの作り笑いに戻ってしまった。
みんなの自分に対してのイメージを、一ミリたりともずらしたくはないのだろうか…。
…まあいいや。僕には関係ないしっ。
そんなことより僕は、自分の仕事をしなきゃ。
僕はなぜだか、そんな目的意識に駆られて、思わず動き出してしまう。
こんな衝動が起きてしまうのも、すべてあいつのせいなのだろうか…。
まあ、とりあえず僕は、自分の職務を全うするだけだ。
「…ねぇ、星斗くん」
「…?」
「ちょっと来てもらえるのだ?」
「…?はい…」
「…その、君だけには話しておきたいと思ったのだっ!」
その後、僕は彼に背を向けた後、顔だけを振り向かせてから、少し低めの声のトーンで言い放って見せた。
「…おいで」




