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地球の原材料  作者: 海那 白
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長い長い物語 4

 そしてその後も、人の概念の行動はエスカレートしていきます。


 勝手にその土地に名前を付けられました。

 勝手にその土地をむさ掘りました。

 勝手にその土地の中のものを取り出し、使用しました。

 勝手にその土地がある人のものにされていました。

 勝手にその土地は、気づいた時にはもう、変わり果てていました。

 勝手にその水に謎の気体や液体や固体が入れられていました。

 勝手にその水を飲まれていきました。

 勝手にその水の所有権を決められていました。

 勝手にその水が移動させられていました。

 勝手にその水は、気づいた時にはもう、水ではなくなっていました。

 勝手に、勝手に、勝手に勝手に勝手に…!


 人の概念は、いつも自分勝手に荒らしていきます。

 大地や水だけではありません。

 風も、植物も、虫も、音も、例も、動物も、鳥も、火も。

 人と、人が生み出した以外のものを、全部…です。

 これらは全て、人の概念のものではありません。それぞれの概念のものです。

 他の概念の方の気持ちも全く考えずに、好き勝手やりたい放題にやり散らかし、荒らし、いい迷惑…。

 他の概念たちは、ずっとそうやって思っていました。

 特にそう思っていたのが星の概念でした。

 今までの事柄から見て分かるように、星の概念は、概念たちの中のリーダー的存在になりかけていました。

 そんな星の概念は、あの日精華が語っていた言葉を信じて信じて信じ続けて、そうやって自分で自分をなだめているような状態でした。

 他の概念の人にも、「そんなことはないはずだ!考えを改めろ!」と言ってなんとかなだめていました。

 それでも、被害はどんどん広がっていきます。

 そのことを知っても尚、他の概念たちの心を、自分の本当の心を欺いて、理性をなんとか押さえて見守ることに徹していました。

 ですが、そんな星の概念の努力を嘲笑うかの如く、厄災は遠慮なく堂々とやってきてしまうこととなります。


 西暦二一五八年八月某日。

 第三次世界大戦と名のついた戦争も幕を閉じ、ほっと一息つけるくらいになった時の頃でした。

 最初は、小さな地震からでした。

 この時は、まだ、「よくあることだから気にするものでもないだろう」とでも思っていました。

 …おそらく、人の概念全てが。

 ですが、この自信はとても奇妙なものでした。

 実はこの地震は、全く同じ時間に全く同じ大きさで、世界一○○七ヶ所ものバラバラの地域でも起こっていました。

 人々がそれに気づくのは、だいぶ後になってからでしたが。

 そしてその地震は、時が経つにつれてだんだん大きくなっていきます。

 震度一、震度二、震度三、震度四、震度五、震度六…と。

 当たり前ですが、震度が大きくなるにつれて被害も大きくなります。

 さらにその地震は、時が経つにつれ、時間の間隔も狭くなっていきます。

 三時間、一時間、三〇分、一〇分、五分、一分、三〇秒…と。

 当たり前ですが、時間の間隔が狭くなっていくにつれて、人々の恐怖心も増していきます。

 そして震度八の一秒後、震度九の地震が起きました。

 全ての建築物が倒壊し、海から押し寄せる津波は荒れ狂い、山からは土石流が流れ込み、地盤には亀裂が入っています。

 人々は必死に安全なところへ逃げ込もうとしていましたが、もはやもう、安全な場所なんてところはありませんでした。

 その結果、世界の人口の九割もの人が亡くなり、運良く生き残ることができた人も、何らかの形で怪我をしていました。

 精華はいち早くその事態に気づいたものの、ここまでの大規模かつ強烈な地震はかつて起こったことが全くなく、全くもう全ての概念にとっても未知の領域であり、このような事態はどうしたら終止符を打つことができるのか、どの概念も知らなかったため、概念の方たちには聞くことができず、自分でも考えてはみましたがなんの案も策も浮かばず、ただただ見守ることしかできるようなことはありませんでした。

そして気づいた時には…そう、なっていました。

 精華にとって、概念の中でも人の概念のことが一番好きでした。大好きでした。他の概念にはたくさんの迷惑をかけてしまっていましたが、それでもずっと大好きでいました。

 でも、そんなにも大好きで、だからこそ大切な概念を守りきることができませんでした。

 その行為は正に、彼女にとって裏切りの行為と同じでした。

 そう考えているからこそ、後悔し続けていました。

 なんで自分は守ることができなかったんだ…と。

 概念たちを守ることこそが、私という生命体の存在意義なのに…と。

 この〝後悔〟という名の苦しみは、使命を果たすことのできない私への罰なのか?…だとすれば、私はこのことについて一生考え続けなくてはいけない。きっとそういう義務なんだ。後悔という感情に兼ね備えられている、義務なんだ。

 そう説いてしまった精華は概念たちをなんとか説得し、長い長い眠りにつくことに決まりました。

 ですが、眠りにつくため、このような条件を出されました。


 一つ目、それぞれの概念を守る後継者を決めること。

 二つ目、自分の記憶を他の誰かに受け継がせること。

 三つ目、他の誰かと意識を共有させること。

 四つ目、必ず誰かが見守っている、安全な場所で眠りにつくこと。

 五つ目、絶対に誰かが起こすことができるような形で眠りにつくこと。

 そして最後に、今後、絶対に起きること。


「このような条件を守れるのなら、眠りにつくのを許す」と言われました。

 なので精華は、それぞれの概念を守る後継者は、それぞれの概念が作ってプレゼントしてくれた生命体たちに継がせることにしました。

 自分の記憶を受け継がせるのは、人の概念には覚えておいてもらいたいのを理由に、最近生まれた人の子供に継がせることにしました。

 自分と意識を共有させるのも、先ほどと同じ理由で、記憶を受け継がせた女の子の双子の弟と共有させることにしました。

 見守る人や眠る場所は誰でもどこでも良かったから、概念の方々に決めてもらうことにしました。

 その結果、不老不死にした西瓜内科の医師に見守ってもらい、眠る場所、西瓜内科に地下を作り、その中にある大きな水晶の中になりました。

 そうと決まると、彼女はすぐに準備を終わらせました。

 なので、その報告と今から眠りますの挨拶を概念たちにしました。

 すると星の概念の方から、「なにか言い残すことは?」と聞かれました。

 ですが精華は、「言い残したいことがありすぎて、それらをうまく表現することはできないので遠慮しておきます」と言って断りました。

 本当は言い残したいことはないらしいですが…。

 そして彼女は、いつもの大きさだと水晶の中には入れないので人の姿に変身し、静かに眠ることにしました。

 水晶の中に入って楽な姿勢をとると、とても落ち着きます。

 すごく安らかで、だんだん体の疲れがとれていくのを感じます。

 それと同時に、今まで重かった肩の荷が軽くなっていくような感覚に陥り、なんだか自然と心が楽になっていきました。

 ああ、これが〝休む〟ということなんだ…。

 今まで休む暇もなく守るのに必死だった彼女は、始めてそう知ることができました。

 気づいた時にはもう、瞳が閉じられていて、意識がどこか遠くへと落ちていきました。

 最後に彼女は、優しく、心の中で唱えました。


 おやすみなさい…。


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