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地球の原材料  作者: 海那 白
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ボイスレコーダーは語る

「あぁっ、やっと見つけたわぁ…私の水樹ちゅあんっ。私ったら少しでも長く水樹ちゅあんと一緒に過ごしたくって、もう水樹ちゅあんと会えなくなってしまうと思うといてもたってもいられなくってぇ。…会いにきちゃったのっ!もちろん、水樹ちゅあんのぉ、た・め・に・ねっ」


 ぞわわわわっ。


 やだ。気持ち悪い。こっちくんな。

 やっとこいつから逃れられると思っていたのに。

 もう、二度と会うことはないと思っていたのに。


「あぁあっ。やっぱこうやって会えたのも運命だわっ。私と水樹ちゅあんは運命の赤い糸で固く結ばれちゃっているんだわっ」


 ぞわわわわわわわわっ。


 地獄だ。コイツの隣は地獄だ。

 もうやだ、コイツ。一生会いたくない。


「んまぁあっ。今日は他の天使さんたちもいらっしゃるのねぇっ。嬉しいわぁ、すっごく嬉しいわぁ。もうここは天国なのかしらっ。私は天国にいるのかしらぁ~っ」


 ぞわわわわわわわわわわわわっ。


 あなたはもう、早く死んで地獄に落ちてください。

 そうすればここは、地獄から地球へと戻ってくれるので。

 あと、私たちはあなたの天使なんかじゃありません。

 あなたのようなものを天国へと連れて行きたくはありません。

 こちらから願い下げさせていただきます。


 もうこいつなんか気にせずに、さっさと行こう。

 話をしている時間がすんご~ぅく無駄だ。

 それに、コイツの話を聞いているだけで、どんどん頭が悪くなっている気がしてならない。

 とにかく、コイツの半径一メートル以内に私は長い時間いたくない。

 そう思って私はスタスタと歩き始める。


「あぁーん、待ってよう、私の水樹ちゅぁあんっ。水樹ちゅあんのぉー、いーじーわーるぅーっ。でもでもでもぉっ、そんなところもかんわいいイィっ」


 ぞわわわわわわわわわわわわわわわわっ。


 おえぇぇぇ…。


 もうやだ、本当に…。

 コイツの声聞いているだけで吐き気までしてくるわぁ…。

 本当にもう、看護師としては最悪最低だな…。

 この病院も、なんでこんな看護師なんかを採用しちゃったんだろぅ…。


 …知らなかったのか、コイツの本性がこれなんだということを。

 そう思うと、なんだかこの病院もかわいそうに思えてきてしまった。


「あぁんっ。待ってぇぇ、私の水樹ちゅあぁんっ」


 そうやって、何度も何度も叫び続けながら追いかけてくるやつを見ると、だんだんイラだってきてしまう。

 ていうかもう、そうしてまで追いかけてくる体力と、何をどう言われても屈することのない精神力に、イライラを通り越して、感嘆までもをしてしまいそうなほどだ。

 そんなこんなを考えているいると、もう出入り口の自動ドアの前に行き着いてしまっていた自分がいた。


 …あ、追いつかれた。


 いつの間にかそいつは、私の真後ろに仁王立ちし、荒く息をハアハアとさせていた。たまに、じゅるっというよだれをすする音も聞こえた。

 まるで、獲物を目の前にした獣ようだ。

 事実、そうかもしれない。

 私はもうこいつを撒けないと分かり、諦めて後ろを振り返った。


「もうっ、いい加減やめてくださいっ…!」


 本当に嫌だった。本当に嫌いだった。

 本当に隣に来られて、苦痛で苦痛で仕方なかった。

 だからもう、終わりにするんだ。この退院を機に。

 この人は、私以外の人にも嫌な気持ちにさせていた。

 そのような行為は、きっとこれからも続けていくのだろう。

 だから私は、次来た人がそんな気持ちにならないよう、私自身が次来た時に不快な思いをしないようにさせたらと思う。

 そのためには、今やっているコイツのこのような行為を終わらせる必要がある。

 今までの人は、みんな優しくて我慢強かったから、なんとか我慢し続けられたのかもしれない。

 でも私は、そんな優しいわけでも我慢強いわけでもない。

 私のこれは善ではない。偽善だ。

 全ては私のために。これからの私を守るためにやることだ。

 だから、私は偽善者なんだ。


「自分でそんなことをして、そんな言動をとっていて、恥ずかしいとか思わないんですかっ。やられる側の気持ちも、考えてくださいっ」


 私は言った。

 ついに…ついに言ってやったっ。

 さて、あいつはどんな反応をしてくるのか…。


「…っ!」


 うざったらしそうな顔で絶句していた。


 やっぱりかっ。


 こう言うやつには無駄には高いプライドがあるというのは昔から人間観察を趣味にしていた私の経験上で知っていたが、まさかこれほどとは…。

 だが、私の発言はあまりにも的を射てしまっていたのか、全然言い返してくる様子は見受けられない。

ただただウザそうに、こちらを睨んでいた。

 他の五人の精霊使いたちはあいつが登場してきたあたりからずっと呆気に取られていたが、どうやら私が怒鳴ったあたりでハッとしたらしい。

 でも一応、それまでの一連の流れは見ていたはずだ。

 その証拠に、五人の精霊使いたちの中の一人である、風香さんが口を開いた。


「私が見ている限りでは、水樹ちゃんに嫌がらせをしているようにしか見えません。なので、これ以上続けたら、訴えさせてもらいますっ」


 よかった、風香さん。味方に就いてくれたんですね。ありがとうございます。

 さすがです風香さん。よく分かっていらっしゃいますね。

 昔は子役をやっていて、今では毎日のように火菜さんと口喧嘩を繰り広げている風香さんがこういう時に味方に就いてくれると、とても心強いです。

 風香さんの言葉を聞いたあいつは、最後の最後に残った、ほんの少しの勇気をやっとの思いで振り絞り、ヤケクソ気味に口を開いた。


「だって…だってぇえ、私、みんなが好きなんだもんっ。だから、みんなにその気持ちを伝えたかっただけなんだもんっ。私がみんなのことを愛してるって知って欲しかっただけなんだもんっ。

なのに…なのにこんな乗ってヒドイよっ。…うえぇぇえぇんっ」


 そいつは言い終わったかと思うとその場にしゃがみこんで、大声をあげて手のひらの中に顔をうずめて、分かりやすく泣き出したのだった。

 なんであんたはそんな被害者ぶってんだよ。私らが悪者みたいじゃんかよ。

 いつ見てもどう見ても何度見てもこっちが被害者であんたが悪者じゃんか。こっちに罪を擦り付けてくんなよなァ…おい。

 さすがにあいつが大声をあげて泣き出したせいで、何事かと思って駆けつけてきた人が、たくさん集まってしまった。

 そんな中、私はあいつの方をチラッと見てみた。

 あいつは、手のひらの中にうずめていた顔がニヤリと笑っていた。

 やっぱり、策だったんだな。

 私は感じた、先ほどの行動から。

 でも私も結構大きめで、いつもの一〇倍近い声で話していたし、風香さんの声も、話し声の三倍く

らい大きかった。

 それに、あいつの素性がヤバイのは病院内でもとても有名で、知らないのは主治医だけらしい。

素性を知らない主治医はあいつのことを気に入ってしまっているから、周りの看護師さんもあんまり口出しすることができないらしい。

 でも今回は、どうやら違うらしい。

 なぜなら、駆けつけてきた人の中のひとりの看護師さんが、第三者代表として口を出したことからだ。


「何が起こったんですかぁ?」


 そう聞かれて、真っ先に口を開いたのは、やっぱりあいつだ。


「い、今…私…脅迫されてたんです…そ、その子たちに…。「私たちについてこい。さもなくば、ここで殺すぞ」と、私にナイフを向けてきて…それで…っ」


 にっこり。


「そうだったんですかぁ」


 そう言った直後、看護師さんの顔つきが、目つきが、変わった。


「…嘘つき」


 その言葉を聞いたあいつは、「えっ?」とでも言いそうなマヌケな顔で看護師さんを見た。

 スタスタと看護師さんはあいつの前まで歩いていき、立ち止まる。

 そして、表情を何一つ変えずに上から睨みつける。


「ばっちり聞こえていましたよ、最初っから、全部。夢中になってのめり込み過ぎると周りが見えなくなる。昔からですよね、まだ治ってなかったんですか?」


 うんうん…って、昔からなんだ。


「「嘘だっ」っとでも言いたげな顔ですね。でも残念。真実なんですよ。その証拠にでもと、私、さっきまでの会話を録音しておいたんです。よかったら、みんなで聞いてみません?」

「やめろぉっ」


 看護師さんが自身の胸ポケットからボイスレコーダーを取り出した手を、あいつは、反射的に掴んだ。

でも掴みどころが悪かったからか、再生ボタンがピッという音をたてて押されてしまった。

 あいつは、それを知ってしまった時点でもう遅い。

 まあ私は、一向に構いませんが。

 ボイスレコーダーは、しっかりと私たちとの会話を繰り返す。

 あいつの顔が、心なしかだんだん青くなっていく。

 ふっ…ざまあみろ。


「…さて、証拠もつくれたところで、川山先生(主治医)に報告してきますね。それではさようなら。後は自由に言い合いでも取っ組み合いでもなさってください。」


 そう言った看護師さんはその場に立ち上り、スタスタと歩き始めた。

 もうこれ以上反論しても無駄だと思ったのか、反論できるほどの気力がもう残っていないのか、あるいはその両方なのか、あいつはただ下を向いてうなだれているようだった。


「…あと、うるさくして他人に迷惑をかけることはやめてくださいね」


 看護師さんは言うのを忘れていたのか、ハッとこちらを振り向いてそう言った。

 そして顔を赤くして、その場から立ち去っていった。

 みんな(私も含めて)、ポカンとしながらその人を目で追っていた。

からの、つかの間の沈黙。

 この場で何かを言い出せるような勇気がある人は、はたしているのだろうか。

 少なくても、私は無理そうだ。

 

 うーん…。でもどうしよう。ずっとこのままという訳にはいかないし…。

 あぁぁ…星斗。早く帰って会いたいよ…。

 誰か…誰か助けてくれぇっ。


「お騒がせして申し訳ありませんでした。…帰ろ、水樹」


 ありがとうございますっ、風香さんっ。誠に感謝いたしますっ。


「は、はいっ。…わ、私もっ…すみませんっ、でし…たっ」


 やったっ。よかったっ。これでやっと、本当に逃げられる。

 

 私は内心でガッツポーズをし、風香さんの後ろについて行く。

 それを見た、他の精霊使い四人も私の後ろについて来た。

 そしてみんなで一緒に、この病院を後にした。

 ちなみにあいつは、他の立ち去ってからもずっとうなだれていた。

 こうして、私の、一日にも満たない入院生活は幕を閉じた。

 あっ。勝手に約束取り付けちゃったけど、良かったかな…?

 まあ、いいや。


 思ったよりは、充実した楽しい入院生活だった。

 あとこれで、星斗がいてあの人がいなければ完璧だったのにな…。

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