出立への運び
「よっし、なんとか終わったぞ。忘れ物はもうないな?」
「はいっ…」
「そんじゃ準備完了っと。…水樹、帰るぞ」
「は、はいっ…」
風香さんは、ずっと立ち止まったままでいる霊子さん、文子さん、情さん、憶さんの四人に気づいたからか、声をかけた。
「あいつらに会いたいんだろう?」
四人とも、我に返ったのか、慌ててコクりと頷く。
それをしっかりと目で見て確認した風香さんは言う。
一瞬、ニヤリとあざとい笑みを浮かべてから。
「なら、もたもたしないでついてこい。そこでずーっとボーッとつっ立っているやつには会わせてやんねーぞぉー」
「「「「は、はいっ」」」」
すごい。見事なハモリ具合だ。
そう思った私は振り返ることはせず、そのまま風香さんの背についていった。
私の後ろに四人がしっかりとついてきているのを、後ろから聞こえてくるバラバラな足音で確認する。
おそらくは風香さんも、私と同じように確認しているのだろう。
さっき以降、後ろを向いた様子がないから、きっとそうだ。
ううん、絶対そうに違いない。
私は心の中でクスッと笑った。
なんだかおもしろい。楽しい。
やっぱ、こういうのって、いいな。こういう感じって、いいな。
「水樹、今、心の中で笑ってたなっ」
ニヤリとした顔で風香さんにそう言われ、図星を突かれる。
エスパーかっ、この人はっ。
そんな私の驚いた顔を見た風香さんは
「あたりだっ」
と言って、少し嬉しそうに頬を赤らめてみせた。
でも、そんな顔をあまり人に見られたくなかったのか、一瞬だけ私に見せてから、慌ててドアの方に向きなおしたらしかった。
照れくさかったのかな…何かかわいいな。
ていうか、私はOKなんだー…。
そう感じた私は、少し嬉しくなってしまった。
そんな私の様子を背に、風香さんはいつの間にか目の前にあってしまったドアを静かに開けようと試みたらしかったが、それでもまあまあ大きな音が出てしまい、驚いたのか、かラダをビクリと震わせていた。
その様子を目撃してしてしまった私は、内心で「ダッサ」とか思いながらも、見て見ぬフリをすることを決意する運びとなった。
他の四人は見ていたかどうかは知らんけど、もし見ていたとすれば、きっと同じ気持ちになり、同じような行動をとっていたのであろう。
そんなこともすべて含めて、私は見て見なかったフリを続けることにした。
風香さんは、自分の後ろ側がそんな状態下にあることも知らずに、みんなが出てきたのを確認すると、ドアを閉めようとする。
が、なぜかどうかは本当に分からないが、どうにも押戸と引き戸を間違えたらしく、こけそうになっていた。
そんな様子を見てしまった私はなんとか笑いをこらえつつ、風香さんに対して「ごめんなさい」と内心呟いてしまった。
おそらく、他の四人も、だ。
さすがの風香さんも、それには気づいてしまったらしく、申し訳なさそうなはにかみ笑いを私たちに見せてきた。
そして、今度は間違えずにしっかりと病室のドアを丁寧に閉めていた風香さんだった。
やっと落ち着いて歩き出せる。
そう思った矢先、予期もせぬ落ち着けない出来事が起きた。
…そう。〝アイツ〟が来たために…。




