霊と文字と情報と記憶
あれから彼女は遺体安置室の鍵を受付へ返しに行ってきたあと、強引にも私の病室へと四人全員が押しかけてきてしまった。
私的には不本意なんだがな……。
しょうがなく入れてやることにする。
「……すまんな、そなたの病室に失礼させてもらって……」
「い、いえ……お……おか……お構いなく、です……」
ほぼ強制だったじゃんか!
彼女は全員が私の病室に入ってきたのを確認すると、改めて口を開いた。
「……そ、それでは……コホン……いきなり質問で悪いが、そなたも〝精霊使い〟ということで間違いはないな?」
「は、はい……そうですが。……それより……お、お名っ……お名前を……うっ、うかっ、伺っても……いい……です、か……?」
「あっ。すまん、これは名乗りもしないで失礼した。私の名前は霊子だ。霊の精霊使いをしておる。よろしくな」
「わ、私は文子と申しますの。文字の精霊使いの仕事をさせていただいておりますの。今後とも、どうぞよろしくですの」
「僕の名は情といい、情報の精霊使いなのだ。よ、よろしくお願いします……なのだっ」
「私は記憶の精霊使いの憶ですわ。どうぞ、よろしくですわ」
「あ、えと……わたっ……私の、名前……は、み……水樹……です。よ……よろしく、お願い……します」
「うむ、よろしくだっ」
「水樹さん、よろしくですのっ」
「水樹くん……か。よろしくするのだっ」
「水樹ちゃん、よろしくお願いしますですわっ」
「はっ、はいっ……。よろしく……ですっ」
「ところで水樹、また質問で悪いんだが、私ら以外の精霊使いを知っているか?」
「……あっ、はいっ」
「……ほう。なんという精霊を使っている人なんだ?」
「……星……と、火……と、風……です」
「……なるほど。私らも会ってみたいな。てか、会わせてくれ」
「聞いて、おきま……す」
「うむ、お願いします……だっ」
「久しぶりにほかの精霊使いと会えるのですね?お姉様!もう今から会うのが楽しみですの!早く会いたいんですのっ」
「僕もなのだっ。僕もその精霊使いくんたちと早く会って、たくさんお話して、どんな人たちか知りたいのだっ。とってもとっても楽しみにしてるのだっ」
「私もですわっ。……水樹ちゃん、新しい精霊使いちゃんたちと一刻も早く会えるのを、と~っても楽しみにしていますわねっ」
「……は、はいぃ……」
ついさっき出会ったばかりの人たちの強すぎる圧に押されてしまい、私は少し……いや、かなり引いてしまった。
これは「ごめんなさい」というべきか否か……。
「すまんな。私からの話は以上だ。水樹からは、質問とか話しておきたいこととかあったりするか?」
「……あり……ま、す……」
「……そうか。ならば、遠慮せずに言って良いぞ」
「……あ、あの……地下で……何、を……して……いたん……です、か?」
「ああ、あれはな、私の、霊の精霊使いの仕事のひとつだ。除霊をし、その死者の霊を私の武器であるこの扇子に宿らせるんだ。そうやってこの扇子に力を蓄えておくための儀式のようなものだ」
「じ、じゃあ……最後の、人……は?」
「……あれは、この間亡くなられた星の精霊使いの星奈だ。精霊使いが亡くなられたときは、こうやってみんなで手を合わせに行ってるんだ。……そういえばさっき、星の精霊使いを知っているとか言ってたけど、名前なんていうか分かる?」
「……星斗、です……」
「知らない名前……ということは星奈の次の、新しい人なんだな。ますます会うのが楽しみになってきた」
「名前からすると、男の子なんですの?会えるのが楽しみですのっ」
「僕と同じ男の子なのだな?男の子の精霊使いは久しぶりだから、嬉しくなるのだっ。ますます、たくさんお話してみたくなったのだっ」
「そう、男の子なんですわね?……ふふふふふっ。早く会いたいですわっ」
「……はぁ……」
「あっ、そういえばさ、活動拠点ってどこに置いてるんだ?」
「きょ……てん……?」
「拠点というのは、物事を行うときの拠り所となるところのこと。……いわば、主に活動をしている場所のことを言いますの。これくらいのこともご存知ないんですの?」
「……す、すいま……せん……」
「い、一旦落ち着けって……な?文子」
「お、お姉様がそうおっしゃるのなら……そうして差し上げますのっ。感謝なさい」
「……で、それでそこはどこだ?水樹」
「……え、えっと……エイトマート……ってい、う……コンビニ?……で、……に、西ヶ崎駅……ってい、うて……赤い電車、が……よく、通る……駅……が、近く、に……あった、と……思……い、ます……」
「……なるほど。私は聞いたことない地名だが……。情、そなたは知っておるな?」
「もちろんなのだっ。この情報の精霊使いである僕の手にかかれば、一瞬で分かるのだっ。安心して任せてくれなのだっ」
「そうか。ならよかった」
「あ、あのっ……!てっ、提案っ……なん……ですけ、ど……」
「「「「?」」」」
「あ、明日の……朝、八時半……くらい、に……ここ、に……きて……く、くだ……されば……あのっ、そのっ……その時、退院……なの、で……一緒に……ほかの……せっ、精霊使いたち……と、一緒に……行け、ますが……どう……します、か……?」
「……!いいな、それっ!ぜひ乗らせてもらいたいっ。どうだ、みんな?」
「お姉様がそう言うのなら……その話にのりますのっ」
「僕もそれがいいと思うのだっ。賛成するのだっ」
「私もそうすればよろしいかと思いますわっ」
「うぉっし、その話、乗らせてもらうな、水樹」
「……ふ、ふぁ……ふぁいっ……」
「じゃあ、会いたいって話もその時に、直接私がすれば問題ないな?……よし、決定だ。その通りにさせてもらう」
「あ、ありがとう……ござい、ます……」
「ははっ。やっぱ君も、面白い人なんだな。……うっし、話は以上でいいか?ほかに聞きたいことはないか?」
こくり。
「そうか。それでは私たちはそろそろ失礼する。お邪魔したな。ありがとうな、水樹」
「お邪魔しましたっと、ありがとうございましたっ、ですのっ」
「し、失礼しましたなのだっ。……あと、ありがとうございましたなのだっ」
「失礼しましたっのお邪魔しましたっですわ。……その、あっ、ありがとうございましたっ……ですわっ」
「じゃあまた、明日朝八時半頃にまたここで……な。じゃーな、水樹」
「ご機嫌ようですの、水樹さん」
「バイバイなのだっ、水樹くん」
「さよならですわ、水樹ちゃん」
「……ま、また……あした……です」
日本語には、意味が少しずつ違えど、こんなにもたくさんの「さよなら」があるんだ。
私はふと、そう思った。
やっぱ日本語って、なんだか面白い。
なんだか人が一気にいなくなってしまったせいか、急に寂しさがこみ上げてきて、なんだか涙が出てきてしまいそうになってしまった。
でも目を閉じて星斗のことを思い出すと、それすら止まってしまった。
私の隣で笑う星斗。
少しだけ目を細めて優しく微笑んだ時の顔が好き。
私の話を聞いて、優しい言葉で返してくれる星斗。
声変わり前のまだ少し高い、聞くとホッとするような温かみのある声が好き。
私を嫌な気持ちにさせないようにと、頭の中で選んでくれた、オブラートに包まれた優しい言葉が好き。
私が隣にいるときに漂ってくるいい匂いを持つ星斗。
隣にいる私までもを包み込んでくれる、やさしい木の匂いが好き。
そうやって星斗のことを思い出すと、なんだか心が温かくなってくる。
それと同時に、星斗がそばにいると勘違いしてしまいそうになり、安心感があるとさえ思ってしまう。
ということで謎の安心感に浸りながらベッドに横たわってみると、不覚にもだんだんと意識が遠のいていってしまった。
さすがは星斗だ。




