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地球の原材料  作者: 海那 白
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遺体安置室

 トイレから病室に戻るまでの道をゆっくりと歩いている時だった。

 私の目の前を、誰かが通っていった。

 ただの医者や患者が目の前を通るだけなら私が気にすることはないが、今回は、医者や患者などではなかったから、私は少しばかり気になってしまい、あとをつけてみることにした。

 私が気になってしまった理由は、私の目の前を通った人は、私たち精霊使いが着ている服にはみんなついている(と思う)五角形のセーラー襟が付いた服を着ていたからだ。

 和装っぽかったから分かりづらかったけど、たぶん……ううん、絶対そうだ。


 さっきからつけてみるとか言ってしまったが、実は、私はあまりこの病院内のことを知らない。

 院内のルールから部屋の位置までのことを知らない。

 でもまあいいや。

 いざという時は転移して病室に逃げてしまえば。

 ……ううん、絶対にそうしよう。

 彼女は受け付けの前を通り、その先にある関係者出入り口のドアを開け、その下に続く階段を下っていった。

 ここって通っていい場所なのかな……と思いながら私はつけていく。

 彼女は地下二階まで下りたところのドアの前で立ち止まった。

 よく見ると地下二階にある階段の踊り場には、他にも五人ほどの五角形のセーラー襟のついた服を着ている人……つまり精霊使いたちが眠たそうに目をこすりながら立っていた。

 なんの精霊使いかひと目で分かる者もいれば分からない者までいた。

 彼女は自分の懐から鍵を取り出し、「遺体安置室」と書かれたプレートのついたドアを静かに開けた。


「……入れ」


 と彼女が言うと、他の五人の精霊使いたちも深刻そうな顔をして、言われるがままに入っていった。

 ふいに彼女がこちらを向いたかと思うと、


「そなたも入れ」


 と言ってきた。

 ば、バレてたんだ……と思いながら遠慮なく入らせてもらった。

 彼女はそんな私の様子を確認してから自分も入っていき、最後に静かにドアを閉めて鍵をかけた。

 中は真っ暗だったが、五人の精霊使いの中のひとりである、一番背が低くて彼女と同じく服が和装っぽい子が手にした懐中電灯のスイッチをつけて、彼女に渡した。


「どうぞですの、お姉様」

「……どうも」


 あたりが少し明るくなり、相手の顔を一応確認でき、足元がおぼつかない程度にはなったが、空気は暗かった。


「ついてきてください」


 彼女がそう言うと、私を含めてほかの全員が彼女の後ろについていった。

 真っ暗な部屋の中をどんどん歩み進めていくと、それと同時に、吐き気をもよおしそうになるほどの腐敗臭らしき匂いも強くなっていった。

 さらに奥へ行き、彼女は立ち止まったかと思うといきなりその場にしゃがみこんだ。

 彼女の先には三人ほどの遺体が見えた。

 腐敗ぶりから言うと、三人とも亡くなってから数日は経過しているように見えた。

 彼女はその中の一番近くにあったご遺体のそばに行き、今度は正座する。

 そのご遺体の額へ彼女が両手を差し伸べると、ぽわっと青白く光る丸いものが浮かび上がった。

 彼女はその青白く光る丸いものが浮かんだのを確認すると、自分の懐から、今度は緋色の扇子を取り出し、青白く光る丸いものの下で広げてみせた。

 すると、青白く光る丸いものが、まるでその扇子に吸い込まれていくかのように、消えていった。

 そんな調子で、二人目にも一人目と同じ行為をした。

 でも、三人目は違った。

 三人目の時は、ほかの五人の精霊使いたちもその人のそばに行き、正座した。

 彼女はそれを確かめると、自分もその場に行って正座をし、その人の顔の上に被せてあった白くて小さな正方形の布を、そっと丁寧に外す。

 その様子を見た五人の精霊使いと、その動作をした彼女は、顔の前で両手を合わせ、祈るように目を閉じていた。

 私もそれにならって手を合わせて目を閉じる。

 しばらくして彼女がゆっくりと閉じていた目をあけて合わせていた手を離すと、ほかの精霊使いも閉じていた目をあけて合わせていた手を離した。

 もちろん、私も。

 その様子を確かめた彼女は、さっき外した白くて小さい正方形の布の端の方を軽くつまんで、その人の顔の上に優しく被せると、そっとつぶやくように囁きかけた。


「……おやすみなさい、第九九代星の精霊使い、星奈」


 そしてほかの二人と同じような行為をした。

 ほかの五人の精霊使いは、その様子を温かい目で見守っていた。

 それが終わると彼女は、私の方を向いて言った。


「私はそなたと話をしたい。だから、死体を囲んで話をするのは気が引けるから、そなたの部屋で話をすることができたりするか?……ということで、とりあえずここから出よう」


 その言葉を聞いた精霊使いたちは、その場に立ち上がった。

 その様子を見た彼女も、立ち上がることにしたらしい。

 私たちの足元のみを照らしゆく懐中電灯の光しか見えないような暗さだ。

 私たちの足音だけが響き渡ってしまうほどの虚しい静けさ。

 その中を、私たち七人だけが歩み行く。

 つられて気分まで暗くなってしまいそうだな……と思っていたとき、彼女はその場に立ち止まったかと思うと、チャリンチャリンという金属同士がぶつかりあう音が聞こえた。

 見ると彼女は鍵を右手に、左手で目の前にあるドアを開けた。

 そうした様子を、私は開いたドアから差し込む青白い光と、ぶつかる金属音で知ることとなった。

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