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地球の原材料  作者: 海那 白
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風香の過去

 とりあえず、星斗が無事でよかった。

 私は、星斗だけでも無事でいてくれるなら、それでいい。


 それにしても星斗、午後になってから、全然元気がなかった。

 バイト中も、ずっと上の空だったし……。

 私が話しかけた時も、「いえ、大丈夫です。何もありません」って返された。

 私、「星斗、レジの打ち方って分かる?」って言ったんだけど……。

 まあどうせ明日には退院できるんだから、帰ったら聞いてみよう。


 ……星斗は、私には……私だけには相談してくれるよね?

 星斗の教育係は火菜さんだったよね……。

 そういえば風香さんがお昼休憩の時、少しだけ火菜さんのことを話していたような気が……。


 そう思って私はその時の風香さんとの会話を思い出す。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「お疲れっ、水樹ちゃん」

「お疲れ様です、風香さん」

「まさかこんな私が誰かにものを教えるような日がくるなんて……あの人が知ったら、クッソ怒るんだろうな……」

「……あの、人……?」

「私の母親のこと。聞いてくれるか?こんな私の話」

「……もちろん、ですっ……」

「ありがと」


 風香さんはそう言うと、ゆっくりと話しはじめた。


「私の母親は、昔は芸能人だった。顔立ちが良く背も高かったから、モデルの仕事をしながらタレントをやっていて、テレビによく出ているような人だった。

 でも、あまり人気が出なくて、全然売れなかったなんだ。だから私の母親は、結婚を言い訳に芸能界から姿を消してしまった。

 まだ歳も若くて、ここまで聞けばただのかわいそうな人に聞こえてくるんだけど、本当は全然違うんだ。本当は、結婚なんてしていなかった。他の人には嘘をついていたんだ。


 それから母は、名前を偽って、年齢を偽って、その顔立ちと体格を利用して、売春をやった。売春を始めてしばらくした頃、ちょっとしたトラブルが起きちゃって、その……お客様との間の子が、母のお腹にできちゃったの。

 それを知ってしまった母は、急いで売春をやめ、その売春で貯めたお金やモデルやタレントをしていた時に稼いで貯めたお金を、その生まれてくる子に注ぎ込むことにした。……そんなこんなで生まれてきたのが、私。


 大学どころか高校を中退していた私の母は生活費のためになんとか働こうとしたけど、マトモな仕事は全然見つからなかった。

 私の母は頭を悩みに悩ませた結果、私でお金を稼ごうと思ったらしい。だから当時生後三カ月私だった私は、母が昔いた芸能界に入らされたの。


 私は、母とは逆に、年月が経つに連れてどんどん有名になっていった。それと同時に、子役や歌手としての仕事も増えていって、どの分野でも評価されてきて、どんどん売れていった。それだからか、私が八歳の時には、私を知らないという人はいないくらいの、日本全国民の常識くらいにまでなっていった。

 でもそれを私の傍らで見ていた母は、最初はたくさんの収入が得られたからって喜んでいたけど、後になってくると、だんだん「私の方が明らかに頑張っていたのに、あの子の方が有名になって、しかもこんなに売れやがって、ずるい。うざい。理不尽だ。なんで売れたのは私じゃなくてあの子なんだ」と愚痴を言い始めてしまった。

 私、ちゃんと言われた通り何か間違っちゃったかなぁ?私、何か悪いことでもやっちゃったかなぁ?

 私は、母がなんでこうなっちゃったかは分からないけど、なんだか私のせいでこうなちゃった気がした。だから、私にできることを、仕事も、仕事以外のことも、いつも以上に精一杯やった。それと比例するような形で、どんどん収入が上がった。


 そんなこんなで約二年の月日が流れていったある日、やっと私の気持ちを理解でもしてくれたのか、母はついにこう言った。


「……もういい。……もういいから……お願いだから……もうやめて……」


 私の腹の辺りに顔を埋めて、泣きながら私に、必死にそう訴えかけてきた。


「……ねえ……私のために……ここ最近は…頑張ってきて……くれてたん、でしょ?……だから……もう、いいの…。もう、あんたが……必死になって……働いている……ところを……見るのは……私も……辛いのっ……。だから……もう……働いてくれなくて……いいから……。これからは私がつ……私がなんとかして……頑張るから……。お願いだから……もう、やめて……。いい?……分かったわね?」


 この人がこの時流している涙は、嘘だ。

 本当に悲しくて泣いている時は、呼吸が正常じゃないはず……。

 本当に悲しくて泣いているのならば、マトモに喋ることができないくらいにしゃくりあげているはずだもん。

 きっと、この人本当は、「さっさと仕事やめろよ、クソガキ。目障りだから消えてくれ」とでも思っているのだろう。


 でも、どうしてもやめようとは思わなかった。だって、私にできることは、モデルと、お芝居と、歌って踊ることと、家事をすること以外は全くできないんだもん。

 ただ、今母に「嫌だ。やめたくない」と言っても聞いてくれないことは分かりきっていたから、変に挑発しても無駄に怒られてしまうことは知っていたから、私は、ただただ頷くしかなかった。


「…分かりました、お母様」


 それから母と一緒に、土地が安いど田舎に新しい家を建てて、引っ越した。山も一部切り開かせてもらって、農家も始めた。私はもうすでに一生を生きていけるだけのお金は稼いでしまっていたから、文句はないが……。心残りとしては、もっと芸能界で働いていたかった……。


 引っ越してきてからしばらく経ったくらいに、宅急便を頼んだわけでもないのに、ドアのチャイムが鳴った。誰かと思って母がドアを開けてみると、傷だらけの、私と同じくらいの歳の少女が立っていた。その子には、名前がなかった。その子はのちに、火菜という名前を持つことになった。

 火菜は、最初はまだ表情が硬かったんだけど、時間が経つに連れてどんどん柔らかくなっていった。今ではもう、表情が柔らかくなりすぎちゃったっていうか……あはははは……。


 ……って、ごめんね、こんな私の話に付き合わせちゃって……。つまんなかったよね?」

「い……いえ……。と、とっても……興味深い……お話……でし、た……」

「ほ、本当?あ、ありがとー。えへへっ。……じゃあ、そろそろバイトに戻らなきゃねっ」

「そ、そう….….です….…ね。戻、戻りま……しょう……」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ……ていうかみんな、それぞれ好きなものの精霊使いになったわけじゃないんだな……。


 慣れない環境だからか全然眠りにつくことができなかった私は、ずっとベッドの上でうだうだと過ごしていたが、トイレに行きたくなった私は、自分の病室から出てすぐそこにあったトイレに用を足しに行った。

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