花乃さんっ
やっと視界が開けてきた。
……ていうか、ここ、どこっすか?
僕がいた場所は、一言で言うと、森の中だった。
辺りを見回しても、木しか見当たらない。
……が、僕の隣に知らない少女が出現したことで、先ほどの言葉は嘘になってしまう。
だ、誰?
とっさに出た疑問がそれだった。
でもこいつが、仲間だということだけは分かった。
緑色のメッシュが入ったうす茶色の、水樹をはるかに上回る、その子の身長よりも長い髪をツインテールにし、その左側のテールには二枚の緑色の葉っぱとピンク色の花が付いていて、その眠たそうな目は少し緑が混ざったうす茶色。
僕たちと同じ五角形の襟は白くて緑で縁どられていて、薄い布地の茶色いブレザーについている。
そのブレザーの中に来ているYシャツには襟の部分に緑色のラインが入っており、きゅっと絞められた緑色のネクタイは少し長めで、箸には白いラインが入っている。
うす茶色のハイウエストの緑の紐で編み上げがされてる白いボックススカートは、下の布とスカートの端のラインが緑になっている。
足元は、うす茶色のニーハイソックスに、白地に緑のアクセントがところどころに入ったハイカットスニーカーを履いている。
あまりにも僕がその少女のことをじーっと見てたことで、彼女にそのことがバレてしまったらしい。
その証拠に、彼女の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
その少女が顔を赤くしながら言った、最初の一言がこの言葉だ。
「んなっ、仲間だからって我のことをじろじろ見ていいわけじゃないぞっ。今すぐにやめたまえっ」
僕は仕方なく彼女から目を離す。
「わっ、我の名は花乃。植物の精霊使いだっ。君もなにかの精霊使いなのだろう?早く自己紹介してくれたまえっ」
まあそりゃ、相手が自己紹介してくれたなら、僕もそれにならって自己紹介くらいはしたほうがいいのだろう。
「僕は星斗。星の精霊使いです」
「きっ君ぃ。人と話す時くらい相手の目を見るのが礼儀だろうっ。作法だろうっ。マナーというものだろうっ」
さっき「見るなっ」て言われたから見なかったのにいきなり「見ろっ」と言ったり、なんなんだ、この花乃とかいう人は。
ちっ。
しゃーねぇ。
言い直してやるか。
僕は花乃とかいう人の方を向き、そいつの少し緑の混じったうす茶色の目をまじまじと見ながら、さっき言ったことをもう一度言ってやることにした。
「僕は星……」
「……みなまで言うな。さっき言ってたことが聞こえなかったわけではない。我はただ、これから気をつけてほしいだけだ。それより星の精霊使いということは、あいつの次なのか……」
「……あいつ?」
「君のところに「あなたは精霊使いになりました」って言いに来た人がいただろう?そいつの名は星奈といって、ついこの間まで仲良くやっていた人だったんだ。あいつは最後まで……いいやつだったよ。すごく頑張ってくれていたんだが、もう……。
そんなことより、もうすぐだぞ。木たちがざわつき始めている」
「……そうですか」
「……戦闘は初めてか?」
「はい」
「……そうか。では教えてやろう。手を胸の前に開いて出して」
僕は自分の両手を胸の前で開いて出す。
「……そうだ。そして想像しろ。今現在自転しているこの地球の姿を」
……想像。
今現在、少しずつ角度を変えている、この地球の姿。
「……想像できた?……ほんなら、ゆっくりと目を開けてみ」
僕は、ゆっくりと目を開けてみた。
言われるがままに。
すると……
僕の両手の上に、ハンドボールくらいの大きさの地球が浮いていた。
よくみると、その地球はゆっくりと自転していた。
「今星斗の手の中にあるのは、今現在の、リアルタイムの地球の姿だ。一分一秒〇一たりとも遅れてはいないはずだ。両手の幅を広げれば、もっと遠くの宇宙も見ることができる。もちろんその星星に触れることもできるが、触れると現在に反映されてしまう。例えば、ある星をこの手の中で移動させると、その星がこの手の中で移動させた位置に移動させられる。地球の自転を止めることもできてしまうのだ」
……そ、それは大変だ。
「それと、見たい場所に人差し指と親指をおいて縦に広げると、その部分をズームして見ることが出来るんだ。言うならば、いつでもどこでも誰がどこで何をしているか知ることが出来る、監視カメラみたいなやつだ」
……なるほど。
それは便利だな。
……なんか、僕、神様にでもなったみたいだ。
「ところで君が見れる宇宙の中で、不審で怪しい動きを見せている星、または地球に向かって動いてきている星なんかはあったりするか?」
僕は両手の間隔を広げ、注意深く観察した。
すると確かに、地球の方へ動いてきている星を見つけた。
「……あったか?そしたらその星をつまんで、地球がぶつからなさそうなところへ移動させるんだ。……それができたら、おそらく今回の任務は完了というところだ。今回は我の出番はなかったが、完了できてなによりだ」
僕は言われるがままにその星を移動させてしばらくすると、温かい手が差し出されてきた。
見るとそれは、花乃という人の手だった。
「よく頑張ったな。君のおかげだ、星斗よ」
僕は差し出されたその手を、そーっと握ってみた。
温かい……。
花乃さんのぬくもりを感じ、僕はついはにかんでしまう。
「ありがとうございます、花乃……さん?」
「花乃でいい。それに、礼をすべきなのは我の方だ。……ありがとうな、星斗」
「い、いえ……」
「……ところで、星斗よ。一緒に生活したり、よく一緒に行動したりしている精霊使いはいたりするのか?もしいたら、紹介してくれないか?我も会ってみたいんだ」
「分かりました。伝えておきます。ところで、いつどこでやりますか?」
「明日の朝八時頃そちらに向かいたいんだが、拠点としている場所はどこだ?」
「遠州鉄道西ヶ崎駅から徒歩五分くらいの場所にある、〝エイトマート〟とかいうコンビニエンスストアです」
「分かった。ありがとうな」
……って僕は、こんなことをしている場合ではないっ。
だってあのままじゃ、水樹が……水樹が!
「すみませんっ。お先に失礼いたしますっ」
「うむ。またな」
僕は目を閉じ、ついさっきまでいたエイトマートを思い出す。
できるだけ忠実に、頭の中で再現していった。
すると、なんとなく体がふわっと軽くなった気がした。
僕はそのまま流れに身を任せた。




