昼食中の過去話(火菜さん編)
「よぉーっし、そろそろお客さんも減ってきたことだし、一度お昼休憩にでもしよっかー」
「はっ、はい」
一日の中でもお客様が特に多いこのお昼の時間帯も、一三時半を持って終わりを告げてくれた。
ちなみに僕の唐揚げは、めでたく完売してくれたらしい。
このコンビニストアの従業員は何故か多いのだが、それでも「人手不足、人手不足」と言っている(らしい)ため、さっき教わったばかりのレジ打ちを早くも急いで実践させられたからか、僕は、未だ収まりきらあない焦りと、いきなり教わってからすぐに実践させられるという労働からの疲れで、体が満ち満ちてしまっていた。
一応労働基準法とかいうのは守られているらしいから、ダメな行為ではないとは思うんだけど……。
まあいいや。
そんなめんどくさいことに頭を使う必要はない。
今はとにかく……疲れた。
とにかく休みたい。
そう思った僕は、休憩所兼ロッカールームに入って変に新しめのソファを見つけるなり、火菜さんが座るより先に、真っ先に頭からソファへとダイブした。
その様子を見た火菜さんは、さっき僕に怒られたせいか無反応だったため、僕は謎の罪悪感を感じることとなってしまった。
少しだけ寝っ転がっていたらさっき手に入れた昼食を思い出し、起き上がった。
その様子に気づいた火菜さんは、強引にも僕の横に座ってきた。
そして僕にこう言った。
「隣……いい?」
それ、普通は座る前に言うべきセリフだろ。
昼食のドリアの蓋を開けつつ僕は口を開き、今までずっと気になっていた質問は声に出してみることにした。
「そういえば火菜さんは、なぜ火の精霊使いになったんですか?」
すると火菜さんは、少し難しそうな顔をして語りだした。
「……私ね、火に助けられたんだ」
「……と言うと?」
「私ね、物心ついた時から……ううん、物心つく前から、両親に暴力を振るわれていたの。
……ていうかもともと、家庭の事情が複雑で……両親は元ヤンキーで、ふたりとも一五歳で私を産んじゃったの……。
一五歳だと籍も入れられないし。
……てかもともとは、私の父親が無理やり私の母親のお腹の中に子供を作っちゃって……それで私の母親は、「せめて責任とって私と同居してこの子を養えっ!」って言ったらしくて……。
でももともと付き合っていたわけじゃなかったらしいし……。
気の合わないふたりで一緒に暮らしているとイライラしてくるらしくて、それでストレス発散として、私に暴力を振る舞い始めたらしいの……。
最初は軽く殴られる程度だったんだけど、だんだん虐待がひどくなってきて……しまいには服はTシャツ一枚しか着させてもらえなくて、ご飯は残飯や野菜の料理に使わない部分とかで、学校にも行かせてもらえなくて、テレビも本も娯楽も全部なくて、小学校高学年くらいの歳になってくると発育が始まるからそれをいいことに、父親の前では服を着させてもらえなかったの。
助けを呼ぼうとしても両親以外の同居人はいなかったし、貧乏だったから安くてクソボロい山奥にある古い一軒家に住んでたから、周りには誰もいなかったの。
そんな、精神的にも肉体的にも死にそうな日々が続いたある日だっだの、奇跡が起こったのは……。
その日はいつもとは何一つ変わらない普通の日だったの。
それでその日の夜も、両親はいつもどおり喧嘩を繰り広げていたの。
そうしたら、母親がガスコンロの火を消し忘れたせいで近くに置いてあった紙が燃え出しちゃったの。
それでその火はすぐにいろんなところに燃え移り、あたりはたちまち火の海になっていたの。
私はすぐにそれに気づき、すぐに逃げ出そうと思った。
その時、私はいつもより壁が柔らかくなっていることに気づき、試しに思いっきり蹴飛ばしてみたの。
そしたらちょうど私がv通れるくらいの大きさの穴が開いたからそこからすぐに脱出し、山奥だからすぐに燃え広がってしまうだろうと思ってできるだけ遠くに行けるように走り出したの。
もちろん裸足で。
私は、走り続けたの。
両親と自分以外の人が見つかるまで、ずっと。
そんな時私は、明かりの灯った一軒家を見つけたの。
私がいた家よりもずっと新しい、綺麗な家だった。
周りには他の家もなかったし、私がもともといた家からもう随分と離れていたから、思い切って扉を叩いてみたの。
そしたら若い女性が出てきたから、事情を話したら快く家の中に入れてくれた。
そしてその家が、風香の家だったの。
今思い返せば、本当に奇跡のような出来事だったな。
それであのあと風香のお母さんに消防へ連絡してもらって、火を消してもらったの。
そしたら中からふたりの死体が出てきたって聞いてめっちゃ喜んだら、不思議がられたのをよく覚えてる。
それから私は火が大好きになり、常にポケットの中にマッチかライターを入れるようになったの。
実は今だって……ほら」
そう言って火菜さんは、制服のエプロンの右ポケットからライターを取り出してみせた。
「……こんなだから、火の精霊使いになっちゃったのかも。変な私の話に付き合わせちゃってごめんねっ。……さー、さっきの話は置いといて……さっさと冷めてしまう前に昼飯食うぞーっ。いただきまーっす」




