初めてのレジ打ちと爆笑い少女
「ありがとうございましたー」
そう言った火菜さんの一言により、僕は我に返る。
「こんな感じでお客様の応対をしながらレジ打ち、お会計を進めていくの。大体の商品にはバーコードがついているからそれをここにあるスキャナでスキャンして、バーコードがついていない揚げ物とかの商品は、このレジの中に商品が書いてあるボタンが表示されているからそれをタップして、個数を入力するとその商品の合計金額が出てくるから、その金額を他の商品の全額にプラスしてね」
「はいっ」
なるほど。
非常に分かりにくいが、あのレジの操作方法は非常にわかりやすく簡単である。
僕のような機械音痴っぽい人でも安心して使うことができそうでなによりだ。
「それでお客様への対応の仕方なんだけど、商品を受け取るときには「お預かり致します」、温められるような商品を買おうとしていたら「こちら、温めますか?」、お帰りになられる際には「ありがとうございました」……この三つは必須ね。それで慣れてきたらお客様になんでもいいから「今日はいい天気ですね」とかでもいいから話しかけてみてね。そうすることでお客様との距離が近づいて、また来てもらえるようになるから。でも混んでる時とかには話しかけないようにしてね。レジ待ちのお客様がイライラするし、そういう時間に来ている人たちはだいたい急いでいる人が多いから、注意してね」
「は、はいっ」
一気に言われると、全部覚えきれるかどうか心配だな。
……てか、すでにだんだん怪しくなってきちゃったし。
「じゃあ、とりあえず一回練習してみよう!お客様役は私がやるから、星斗くんは、私がさっきやったみたいにやってみて」
「はいっ」
どうしよう。
さっき火菜さんがレジ打ってる時ぼーっとしてたから、どういうふうに対応していたのか分からない。
ええい。
もうどうにでもなれだ!
とにかく、やってみるしか選択肢はない。
「い、いらっしゃいませー……」
火菜さんが前からつかつかと歩いてきているのに気づいたため、僕は、慌ててそうやって挨拶し、ぎこちなく微笑んで見せた。
火菜さんはあっという間に僕が居るレジの前にたどり着き、かごを持って無表情で仁王立ちした。
「しょ、商品をお預かりいたしまーす……」
そう言いつつ僕はかごを受け取り、商品を順調にスキャンしていく。
そ、そうだ。
なにか話題を……。
なにか、なんでもいいから話さないと……!
「そ、そういえば……ウチのコンビニの制服を着ていますよね。ど、どこの店舗で働いていらっしゃるん……ですか?」
なぜだー!
なぜ今こんな質問をしてしまったんだ!
相手は火菜さんだぞっ。
同じ仕事場なんだし、今は勤務時間中なんだから同じコンビニの制服を今着ているのは当たり前だろっ。
アホか僕はー!
さ、さすがに引かれちゃったかな……。
そう思って火菜さんの方を恐る恐るチラッと見ると、今にも吹き出しそうで笑いをこらえてプルプルと震えていた……が、
「……プッ」
ついに吹き出してしまったらしい。
「ははは……あはは、あはははは……や、やっぱ、星斗くんって……面白い……ね。ぷっ……ふふふふふ……クスクス」
僕は笑われてしまい、どんな反応をすればいいのか分からなくなってしまった。
それだからか、僕はその場に立ってマヌケにもポカンと口が開きっぱなしになってしまった。
もう僕は、どうしたらいいのか分からない。
僕はどんな行動をするべきなのか考えているうちにも、火菜さんはずっと笑い続けていた。
つか火菜さんって、こんな笑い方をする人だったんだ。
知らなかった。
ううん。
知りたくなかった。
逆に僕の方が引いてしまいそうだ。
と、とりあえず……雰囲気を変えよう。
別のことを話したら、少しはこの爆笑い少女の笑いを止められるかな……。
ちょうど良く火菜さんが持ってきた商品の中にはちょうど中華丼があり、レンチンOKのシールが貼られていた。
そんな奇跡に僕は感謝しつつ僕はこんな雰囲気をぶち壊してやろうと思い、ひとにぎりの勇気を振り絞って言ってみることにしてやった。
「く、くぉ……くぉちらのし……商品……あ、あたっ……あたたっあたっあたたたたためむままますかくぁくぁか……?」
くそっ。
なんでこんな時に限ってカミカミになっちゃうんだよ……もう。
そしてさっき僕が噛んでしまったせいか、この爆笑い少女の笑いはさらに爆発していた。
……そう。
火菜さんは今もなお、
「ぶわははは……ぎゃはっ、ぎゃははははっ……うひっ……も、ももももう……ダメ……ふふふ腹筋が……ふぉふぉふぉほーかい……するっ……くはっ……くはははははっ!」
笑い続けていた。
……もう、女の子の笑い方じゃないだろ、これ。
だんだん僕はイラついてきた……。
だんだん僕から目の光が失われていく……。
表情が、消えていく……。
さっきまではなんとか我慢をしていたがもう限界が来てしまったらしく、僕の頭の中で堪忍袋の緒がプツンと切れる音が響き渡ってしまった。
「ぅいつまで笑っていやがんだよこんちくしょぉが!……うっせーんだよ、いつまでもゲーラゲラゲーラゲラ笑い転げやがって、やられた相手、どんな気持ちになるか分かっててやってんのか?あ?」
僕が言い終わると同時に、あたりがシーンと静まり返ってしまった。
……んな、なんか、もっと雰囲気を悪くしちまったみたいで……なんか、ごめんなさい。
僕のせいですよね、ごめんなさい。
そんなどうしようもない沈黙を破ったのは、こうなった元凶でもある火菜さんだった。
「な、なんかスイマセン……。んも、申し訳ありませんでした。……その、その中華丼……あたっ……あたたたっ……温めてもらっても……いい、ですか?」
レジの横にあるレンチンOKの中華丼を指で指しながらそう言った、ついさっきまで爆笑い少女になっていたその少女は、白くなって、感情のこもってない声でそう言い、ガタガタと小刻みに震えながら立ち尽くしていた。
もう、さっきまでの爆笑い少女の面影もない。
……そう、ただの小心者の小娘に変わり果てていた。
なんだかだんだん、この人の扱い方に慣れてきた気がする。
慣れてきてしまったからだろうか、なんか面白くなってきた。
僕は満面の笑みで
「……では、確かに承りました。こちらの〝六種の海鮮と二種の海藻のゴロゴロ野菜たっぷり中華丼♪(←品名)〟を、あちら左奥右下のレンジにて五〇〇Wで約一分三〇秒五一ほど温めて参りますので少々お待ちください」
とイヤミったらしく言ってみせた。
すると、さっきまで真っ白になってガタガタと震えながら立ち尽くしていた小心者の小娘とは思えないくらいに、カラフルに色がつき、手を胸の前で合わせ、目をキラキラと輝かせて真っ直ぐに僕を見つめ、感情の無駄にこもった声で言った。
「お……お願いしますぅ……。ほ、本当に……本当にありがとうございますっ。誠に感謝を申し上げさせていただきますっ」
やっぱり火菜さんて面白い。




