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地球の原材料  作者: 海那 白
18/72

初めての唐揚げ作り

 まだ厨房にいたりするのかなー……とか思いつつ厨房に行ってみると、まだ火菜さんはそこで仕事をしていた。

 さっき一樹さんに


「仕事が終わったら火菜さんのところへ行き、早速仕事をもらってこい」


 と言われたからここまできたのだが、余りにも真剣そうな顔つきで唐揚げを揚げているから、とても話しかけづらい。

 でも僕は、か弱い勇気を振り絞って足を踏み出し、火菜さんの方へと駆け寄っていった。


「あ、あの、火菜さんっ」


 変に緊張しながらも、僕はなんとか声をかけることができた。

 とりあえずはほっとした。


 ビクビクビクッ


 時間差で火菜さんが反応した。

 びっくりしたのか、体中に電流が走ったみたいな感じになっていた。

 その反応を見ていたこっちもびっくりするくらいだ。

 火菜さんは右手でトングを握り締めつつ、恐る恐るこちらを向きながら僕に問いかけた。


「な、何……?どどどうしたの……星斗、くん?」


 僕はその様子にクスクスと笑いながら答えた。


「いや僕は、僕の教育係である火菜さんに仕事内容を教わりに来たのですが……。他の用件でもあるとお思いで?」

「えっえっ、いやあの……え?」


 その反応に僕はもう一度クスッと笑い、


「すいません。冗談です」


 と言っておいた。

 まあ、半分ぐらいまで本気だったがな……。


「よ、よかった~……」


 火菜さんはそう言って胸をなでおろした。


「火菜さんって、実は面白い人だったんですね」


 そこまで固くない人だって分かって、少し安心した気がした。


「ま、まぁ……そそそそういうことだから、とりあえず仕事始めよ?ね・無駄話ばかりして店長に見つかっちゃうと、怒られて給料減給されちゃうから……ね?とととととにかく……仕事、始めよ?私がいつもやっている仕事、教えなきゃだし……ね?」

「は……はい」


 とりあえずここは従ったほうがよさそうだ。


「それじゃあ、厨房内の仕事から教えておくね」

「よ、よろしくお願いします」

「そんなにかしこまらなくてもいいのに……」


 火菜さんは、困ったような呆れたような顔をしてそう言った。


「そういえば星斗くんは、料理とか得意なの?」


 そう言われて、僕は母に奴隷のようにご飯を作るのに手伝わされていたことを思い出す。


「……そうですね、得意か不得意かは分かりませんが、母の料理を手伝っていたことはありました」

「そっか。じゃあなんとなくは分かるかな?」

「……?」


 火菜さんはしゃがみこみ、調理台の下から袋入りの冷凍の何かを取り出した。

 どうやらその調理台の下は冷蔵庫にでもなっているらしい。

 火菜さんは冷凍の何かが入っていた袋をビリっと破り、中から五~一〇センチくらいの丸っこいものを取り出す。


「これはね、このコンビニの本社から毎週届く、唐揚げの揚げる前までの工程を済ませて冷凍したものなの。それで私たちはこれを、自分たちのお店で揚げて、お客様に販売してるの。驚いちゃった?」

「い、いえ……」


 正直、驚くというよりショックでした。

 まさか、自分たちがよくコンビニで買っている唐揚げが冷凍だったなんて思わなかった。

 春巻きやアメリカンドッグまでもがそうじゃないといいけど……多分それも冷凍なんだろうな。

 唐揚げは、一応店で揚げているだけマシってとこ……か。


「えっとじゃあまず、唐揚げを揚げていくんだけど……」


 と言いながら火菜さんは中華なべと油を取り出し、中華鍋は調理台の上にあるコンロに置く。


「この鍋の中に水と油を入れて中火で一五分くらい揚げるの。初めてだと思うから、一緒にゆっくりとやっていこっか」

「は、はいっ」


 いきなり揚げていくのか。

 緊張するなー。


「あ、星斗くん。一応ここにあるマスクと手袋はつけてね」

「あ、は、はいっ」


 僕は慌ててそばに置いてあったマスクとゴム手袋を見つけ、つける。

 大人用だからか、少々ぶかぶかだ。

 気を付けないと、たまに落ちてきそうになる。

 火菜さんはそんな僕の様子を見てクスクスと笑ったあと、さっきの中華鍋を僕に持たせながら言った。


「そこの水道でこの鍋の中に、この鍋の三分の一から二分の一くらいまで水を入れてね」


 そう言われたから僕は、厨房の隅の方にある水道に中華鍋を持っていき、水を出して見せた。

 鍋の中にはメモリが書いてあり、そのメモリを目安にしようと思ったら数字が消えかかっていて分かりにくかった。

 メモリを目安にするのは難しそうだなと思い、メモリに頼ることは諦めることにした。

 しょうがなく僕はなんとかここらへんかなーと思ったところまで水を入れてみた。

 その様子を火菜さんが確認し、次の指示を出す。


「うん、それくらいでいいかな。じゃあ次は、この油を大さじ十杯入れてね。入れてかるーく混ぜたらコンロに置いてくれればいいよ」

「は、はいっ」


 僕は鍋の中に入っている水をこぼしてしまうことがないように、慎重に、丁寧に、でも少し急ぎながら、調理台の上に置いてあるコンロの横にそーっと置いた。

 隣に油が置いてあるのを確認し、大さじを用意~……はっ!

 大さじはどこだっ。

 大さじはどこにあるっ。

 僕は火菜さんから教わってなかったゾッ。

 教えてもらわなきゃですっ。


「ひ、ひひひひひ火菜さんっ……」

「ななな何?どどどどどしたの、ふぉほほほ星斗……くんっ」

「あっ、あのあのあのっぅおをうぉお、おおっ……!」


 このままじゃ真面目に話ができない。

 一旦落ち着こう。

 とととととりあえず、ししししんこしん深呼吸深呼吸……そう、深呼吸を……。


「スー……ハー……スー……ハー……」

「?」

「スー……ハー……スー……ハー……スー……」

「?」


 そうだ、気を引き締めるために顔を思いっきり叩こう。


 ……パァンッ。


「……よしっ」


 僕は決意を固めて背筋を伸ばし、カッと目を見開いて、真っ直ぐに火菜さんを見据えた。


「火菜さん、大さじってどこにありますか?」

「ああ、それならシンクの中にあるから自分で洗って使ってね。ごめんね、さっき使ってから洗ってなくって……」

「いえいえ、火菜さんが謝る必要はないですよ。それじゃあ僕は、その大さじを洗って持って来に行ってきますっ」

「うん、いってらっしゃい。

 ……ぁ、ねぇねぇ星斗くん」

「はっ、はいっ。なんでしょうっ」


 なんだ。

 どうした。

 まだ何かあるのか?


 火菜さんはそんな僕の気持ちを汲み取ったのか、にっこりと笑って笑顔で言った。

 その顔が少し怖くて、少しだけ嫌な予感がした。


「星斗くんって、意外と天然なんだね」

「……くすっ。たまに言われます」


 ……この時星斗は、火菜さんが、星斗の行動に複雑な気持ちで見ていたことを知らなかった。

 もちろん、知ろうとも思わなかった。


 そんなこんなでなんとか出来上がった、僕が作った(本当は揚げただけ)唐揚げは、初めての割にはおいしそうに出来上がった。

 まあ、初心者でも簡単においしそうにできるように作られたものだから(予想)、こんなものといえばこんなものなのだろう。


「よかったら食べてみたら?店長には秘密にしといてあげるから……ね?一個だけ、こっそりと……どーぞっ」


 と火菜さんが言うので、僕は一個だけそーっと、こっそりと、静かに、口の中に入れてみた。

 サクッという音がでるほどのサクサクな歯ごたえのある食感が最初にあり、その次に中の肉の柔らかい食感がくる。

 それと同時に、ジューシでおいしい肉汁が口の中に広がった。

 これはさすがに、「うまい」以外の何物でもない。

 初めてでも、こんなにうまくできるとは思わなかった。

 確かにいつも食べている唐揚げの味だが、自分で作ったからかいつもより格段にうまかった。

 そんな僕の様子を見ながら、火菜さんも、僕の作った(本当は揚げただけ)唐揚げを口の中に入れた。


「……ふごふご、ん、ふはい……ふぐふぐ、ふん、こふぇふぁら……はふはふ、店頭ふぃ出ひても……はぐはぐ、良さそう……もごもご、だねっ……ごくんっ」

「……はふはふ、火菜ふぁん……もごもご、食ぶぇながら……ふぐふぐ、ふぁぶぇらないふぉおが……ふごふご、良いでふよ……ごくんっ」

「くすっ、星斗くんこそっ」

「くすっ、そうですね、火菜さん」

「それじゃあ、さっそく店頭に並べてみよっか」

「えっ。もうですか?早くないですか?てかさっきふごふご言ってたことってガチだったんですか?」


 さすがに早すぎる!


「うんそうだよー。だって売っちゃわないともったいないじゃんっ。それに、せっかく星斗くんが作った唐揚げ、お客様に食べてもらいたいんだもんっ」


 はぁ……そすか……。


 納得できるようなできないような理由だったけど……まあ、いいや。

 とりあえずそんなことはおいておこう。


 そんな時、このコンビニの制服を着た、僕の見知らぬ人(火菜さんにとっては見知っている人らしい)が小走り気味に来た。

 そして、少し急ぎ気味の様子で言った。

 でも表情は少し余裕そうだった。


「あ、あのっ火菜さんっ。レジ交代の時間なので……お願いしますっ」

「あっはい、分かりました。わざわざ教えてくださり、ありがとうございます。それではあなたはとりあえず、この唐揚げを並べといてもらえますか?」

「はいっ、了解しました。任せてください」


 しゃべっている途中、その人の目が僕の方へ泳いできた。


「と、ところで火菜さん、そちらの方は……新人さんですか?」

「ああ、はいそうです。今日から入ってきた新人の子です。私がこの子の教育係をやらせてもらっているんです。……星斗くん、挨拶して?」

「初めまして、今日からこのコンビニでバイトを始めた星斗と申します。よろしくお願いします」

「そうなんだ。よろしくね、星斗くん。俺は夏芽と申します。浜松北高校一年生です。学校からは少し遠いけど、家はここから近いからここにしたんだ。……星斗くんは……何年生?」

「えっと僕は……一〇歳です」

「へー、ちっちゃいのにすごいんですね。俺も見習わなきゃ。頑張ってバイトしなきゃ」


 「ちっちゃい」って言うな。

 地味に僕はコンプレックスに感じてるんだぞ。


「おっ、お互い頑張りましょうっ」

「そうだな。お互い頑張りましょうっ、星斗くん」

「さっ、お二人共そろそろバイトの方へ戻りませんか?」

「そっ、そうですねっ……戻りましょうっ」

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