牟田先生と馬込さん、クオリティが低すぎる
待機している間、会話らしい会話はなかった。弾ける花火の音が虚しく響く。とりあえず、話題を探さなくては。美琴と共通の話題。ここまで来てライダーの話をするのは無粋だろう。俺が付いていけないし。そうなると、差し当って危機が迫っているというアレか。
「美琴、復活しそうな妖怪の気配は察知できているのか」
「まだね。そもそも、本当にここに妖怪が眠っているかどうかも怪しいし」
美琴の親父さんが警告しただけだからだ。でも、本家から陰陽師が派遣されている辺り、虚言でも無さそうである。どさくさに紛れて遥が討伐していないよな。逆にそうしてくれるとありがたいが、美琴の面目が潰れるか。
「もし、本当に復活したのなら私が祓ってあげるわよ。父上の顔に泥は塗りたくないし」
そっと陰陽師の護符を取り出して握りしめる。その眼はどことなく虚ろだった。なんとなくだけど、教科書を音読している調子だったのは俺の思い過ごしだろうか。
八子先生たちが一気に数本の花火に同時に火をつけて、盛大な火花をまき散らしている。よいこはやっちゃダメだぞ。うるさいぐらいの花火の音をBGMにして佇んでいたところ、遥と瑞稀のペアが戻って来た。
「張り切っていたようだったけど、大したことなかったわね。ほら、例の玉よ」
転がされたのは星が三つ刻まれているオレンジ色の玉。瑞稀も一つ刻まれている玉を抱きかかえていた。八子先生と茜さんが持ってきたものも合わせると四つ。あと三つで願いが叶う。この場で「ギャルのパンティおくれ」と願ったら誰のパンティが飛び出してくるのだろうか。あまり試したくない。
ようやく俺と美琴のターンだ。待ち受ける雑木林はどこまでも深淵が続いている。懐中電灯の明かりが心もとない。そっと美琴が手を差し出してきた。「プリキュアか」と茶化したら、「馬鹿」とデコピンされた。
「難易度は低いからとっととクリアしてきなさいよ」
遥に尻を叩かれる。こういう場面の定番って、主人公が挑戦する時だけ難易度が跳ね上がるんだよな。よーこさんのことだから、尚更不穏な予感が漂う。
俺たちは生唾を飲み込むと、恐怖のダンジョンへと足を踏み入れるのであった。
昼間来た時と同じ雑木林のはずだが、全く別の場所へ迷い込んだみたいだった。野生動物も寝静まっているのか、俺たちの足音がひときわ大きく響く。せめて、フクロウでも鳴いてくれれば心が休まった。秘境すぎてフクロウすら生息していないということはないよな。
歩き始めて五分ぐらいは特にトラップは無かった。やはりイージーモードだったのか。胸をなでおろしたその時だった。
「わりぃごはいねぇが」
あ! やせいのなまはげがあらわれた。いや、なまはげではない。二体の珍妙な生物は必死に威嚇しているが、俺は白けた態度で指摘した。
「沙悟浄と猪八戒?」
冷静に分析できたのはコスプレのクオリティが低かったからだ。
豚鼻をつけただけの牟田先生と頭に皿を乗せただけの馬込さんなんて、誰が驚くんだよ。なまはげの真似をするのなら、せめて鬼のコスプレをしてほしい。
「できれば驚いてもらえないですか。こんな年になって河童の真似をしていて虚しくなります」
妖怪もどきから懇願されたぞ。牟田先生なんて、自ら豚鼻を外しているし。装着していてもしなくても変化が無いのはすごい。
話によると、最初のペアはゲームの話をしていてガン無視。次のペアは「子供だましね」と一蹴されたらしい。まさに踏んだり蹴ったりされたわけか。ご愁傷様です。
いつまでもおっさんの相手をしていても致し方ない。別れを告げると、馬込さんはグッドラックをしてきた。
「頑張ってくださいね、浬くん。止まるんじゃねえぞ」
河童のコスプレでそのセリフって、プリキュアの敵幹部の河童を意識していますよね。ノットレイにされるのは勘弁なので先を急ぐことにした。
クオリティが低すぎるコスプレに驚けという方が無理だ。やはり、肩透かしではないか。いや、油断してはダメだ。ゲームでも最初の敵は弱いというのが定石。これからが本番なのだろう。
俺の嫌な予感は的中してしまったようで、どこからともなく不気味な声が聞こえてくる。「みゃー、みゃー」と酔っぱらった茜さんじゃないよな。ただ、やけにリアルな鳴き真似だ。おまけに、木の上に謎の光源がちらほら。まさか、鬼火か。
不穏な想像は連鎖していく。立ち止まっていると、謎の鳴き声がひときわ大きくなった。美琴がポケットをまさぐっている。俺は武器が無いので徒手空拳で構える。そして、木の枝がしなった。天空から小さな物体が落下してくる。親方、空から、空から、
子猫が降って来た。




