遙、探りを入れる
俺とペアになるのは黄色の玉。そいつを手にしていたのは美琴だった。がっくりと項垂れる瑞稀。「ま、よろしくね」と遥が肩に腕を回している。
「やっとペアが決まったようじゃの。うちらは準備をするから、十分経ったら赤、緑、黄の順番で出発するのじゃ」
そう言ってよーこさんは馬込さんと牟田先生を連れ立って雑木林の中へ消えていく。いよいよ肝試しのスタートか。並び立つ美琴が耳元で「よろしくね」なんて言うものだから、俺は「お、おう」と空返事をするのに精いっぱいだった。美琴もまた、俺から顔を背けるようにして、雑木林を注視していた。
ムスカがシータたちに猶予を与えた時間の三倍が経過し、まずは八子先生と茜さんが並び立つ。これから肝試しだというのに、八子先生のテンションは完全に遠足だった。
「どんなお化けが待っているのか楽しみなのだ」
「お手柔らかにお願いしたいね」
大人のお姉さんが二人のはずなのに、引率の先生とその生徒という構図っぽいのはいかがなものか。どっちがどっちかは改めて解説するまでもない。
雑木林のランニングコースは普通に歩くと一時間近くかかる。コースは色々端折っているらしいので、二十分ぐらいで周回できるそうだ。けもの道を含んでいたらどうしようと心配になったが、地図を確認したところ、道なき道を行くということはなさそうだ。
待っている間は暇なので、茜さんが買ってきた花火で遊ぶことにした。瑞稀と美琴が七色にスパークする手持ち花火を光らせている。その隣で俺は静かに線香花火を灯らせていた。儚い灯は消えそうで消えない。いつまでも留まってほしいと願うのは当然のことだろう。
いきなり頬ツンされたせいで、必死に留まっていた花火が落ちてしまう。抗議しようと振り向くと、ほっぺをずぶりと突き刺された。
「間抜けな顔をしてるじゃん」
「誰のせいですかね」
ほくそ笑んで線香花火を掲げているのは遥だった。俺はお代わりをもらい受け、先端に火をともす。
彼女が線香花火を選んだのは意外だった。すぐそばにサイドポニーがあってくすぐったい。
「あのさ、あんたってあの二人とどういう関係なの」
いきなりつっけんどんに問い詰められた。線香花火が近い。新手の拷問かよ。
「どうって、ただの同居人だが」
「待ちなさいよ。ただの同居人って時点でおかしいわよ」
「そうか。同じ学生寮に住んでいるだけだぞ」
「ああ、そういうことね。言葉足らずなのよ」
なんか叱られた。別に同棲はしていない。していたら、どうせいっちゅーねん。
「で、なんだかんだで狙っているんでしょ」
「なんの話だよ」
「惚けちゃって。まあ、今日会ったばかりの私が踏み込むことではないけどね」
あっけらかんと言い放つ。なんだかんだで同行しちゃっているけど、遥って赤の他人なんだよな。そもそも、俺たちのイベントに参加する義理もないわけだが。
俺の疑問を読み取ったわけではないだろうが、唐突に語りだした。
「この森から一番不穏な気配が漂っているからね。あんたたちの遊びに乗りかかってあげているだけよ」
「そういえば、他に同行者はいないのか。ここに一人で来ているわけではないだろ」
重井沢は交通が不便な秘境だ。女子高生(と思われる少女)が一人で来るようなところではない。他に引率の人間がいると考える方が自然である。
遥の線香花火が地に落ちる。同じタイミングでため息をつく。
「私が何をしようと意に介せずってところかしらね。まあ、こっちとしては自由に動けていいけど」
答えになっているようでなっていない。とりあえず、陰陽師の関係者はいるということだろうか。あくまでビジネスライク的な。
「ちょっと、そこ。勝手にイチャついてるんじゃないわよ」
「別にイチャついてないし。盛りのついたメス豚とは違うわ」
「誰が豚か」
遥と美琴は威嚇しあっている。こいつら、鉢合わせると喧嘩しかしないな。もっと仲良くできないものか。瑞稀が既にお手上げをしていたので、俺も同調しておいた。
やがて、八子先生たちが戻って来たので、遥が尻に着いた土を払う。去り際にこっそり耳打ちされた。
「まあ、どっちを狙っていても構わないけどね」
堂々とした背筋はいかなる反論も封殺する威力を誇っていた。
さて、肝心の肝試しの感想であるが、
「いやあ、先生があのゲームをやっていたなんて予想外だったよ」
「あのゲームは私のバイブルなのだ。後で酒を呑みながら語り合いたいのだ」
「さっき散々飲んだばかりでしょ」
居酒屋をはしごした後のサラリーマンみたいなノリになっている。肝試しの感想としてふさわしくないぞ。
どうやら、道中で好きなゲームの話になり、偶然同じゲームを嗜んでいたことから会話が弾んだらしい。遭遇したお化けはアウトオブ眼中だったようで、
「お化けなんていたのか」
と、すっとぼけていた。ゲームの話に負けるお化けって涙目すぎるだろ。
そして、次は瑞稀と遥のペアだ。このペアもどんな展開になるか想像もつかない。
「いざ挑戦するとなると緊張しますね」
「気負うことないわ。陰陽師である私がお化けだろうが妖怪だろうが祓ってみせる」
「そういう設定なんですよね」
「設定? うん、まあ、そんなとこね」
一瞬、ガチで疑問符を浮かべていたような。大方予想通りというか、遥が攻めで瑞稀が受けだな。出発する時も遥が先導してどんどんと先に進んでいってしまう。
残された俺たちは花火大会二回戦の開始だ。まだ腐るほど花火が残っている。茜さんはどんだけ買い込んできたんだ。当人は花火などそっちのけで八子先生とゲーム論議するのに夢中だし。
「あのゲームはラスボスがコンビニで売っているのがツボに入ったわ」
「次回作で強化形態が出てくるけど、あいつはトラウマなのだ」
「バンカランのパーツを使えば楽に倒せるわよ。アピールサウンドを予め発動しておけば完璧ね」
「ううむ、その戦法を使うのは癪だから、メタビーのパーツで正攻法でクリアしようとしていたのだ」
一体何のゲームの話をしているんだ。頭を破壊すると機能停止するロボットのゲーム、だよな、多分。
ちなみに、八子先生と茜が会話していたゲームのスマホ版が配信されるみたいだよ。




