浬たち、肝試しのペアを決める
ところ変わって集合したのは雑木林。昼間に遥と初めて邂逅した場所だ。湯上りに夜風が当たり身震いするぐらいである。鳥肌が立つのは外気温のせいだけではないかもしれない。遠方で灯る旅館の明かりが唯一まともな光源となっており、まさに黄昏の語源を体感しているようであった。
「全員そろっておるかの。さっそく、ルールを説明するのじゃ」
いきなり懐中電灯が照らされ、ぼんやりとよーこさんの顔が浮かび上がる。瑞稀が「ひゃ」と小さな悲鳴をあげていた。一瞬柔らかいものが触れた気がしたような。
「この雑木林は昼間、ランニングコースにもなっておるようじゃ。そして、道中には祠が設置されておる。その祠にボールを置いてきたのじゃ」
「うちの自前の七つ集めると神龍が出てくる球なのだ」
多分、ゲーセンのプライズ品ですよね。ガチャピン人形が無理やり胸を張らされている。
「早い話が、ビビらずボールを取ってくればクリアってことだ」
「一人ずつ行っても面白くないから、ペアで挑戦してもらうのだ」
「ペア」という言葉が発せられた途端、女性陣が身を乗り出していた。この場に居るのは九人。あれ、九人?
「ペアを作るなら一人余りますよね」
ぼっちで肝試しするなんて色々な意味で嫌だぞ。
「心配ないのじゃ。うちはお化け役に回るのじゃ」
「僕と牟田さんもお化け役を務めさせてもらいます。おっさんが肝試しに挑戦したところで誰も得しないですからね」
誰しも納得してしまうのが悲しいところだ。それにしても意外だな。よーこさんのことだから肝試しに挑戦する側を選ぶと思ったのに。
ここで、遥がまっすぐに挙手した。学校の先生よろしく発言を促すよーこさん。
「お化け役が三人しかいないんだけど、物足りなくない」
そう言えばそうだな。挑戦するのが六人に対して、お化け三人では役不足だ。すると、よーこさんは不敵な笑みを浮かべる。
「問題ないのじゃ。お化け役はアウトソーシングしておいたのじゃ」
うん、嫌な予感しかしない。よーこさんがアウトソーシングと言う時はロクでもないと変態おっさん妖怪で学習済みだ。
それに、本物の妖怪であるよーこさんがお化け役を務めるのだ。無事にクリアできると考えない方がいいだろう。
不安しか残らないが、ペアを決めるくじ引きに移る。百均で売っていそうな正方形のパーティーボックスの中には赤、黄、緑の玉が二個ずつ入っている。同じ色の玉を引き当てた者同士がペアというわけだ。
まずは誰が引くか。こういうのはレディーファーストだろう。そう思っていたが、なぜだか視線は俺に集中している。首元を指さすと、美琴と瑞稀は首肯した。
「がっつくのも卑しいし、あなたに先行を譲ってあげるわ」
極めつけに遥がはっきりと宣告を下す。職場見学の時のくじ引きじゃないんだし、どれを引いたところで特に支障はない。
俺は特に祈りを込めることもなく、箱の中に手を入れる。そして、奥の方に入っていた玉を引き出した。
「黄色か」
懐中電灯に照らされ、怪しく光る。黄色だけに満月みたいだ。なんか女性陣が生唾を呑んでいるが、肝試し本番まで取っておいた方がいいのではないか。
次に臨んだのは茜さんだ。鼻歌混じりに箱の中をまさぐり、
「赤、ね」
赤色の玉を取り出した。直後、八子先生もあっさりと赤を引き当てる。
「茜と八子でペアじゃな」
「君と絡むのは初めてかもしれないのだ。よろしくなのだ」
「こちらこそよろしく」
朗らかに握手を交わす。この二人のペアってどうなるんだ。皆目見当もつかない。
残るは女子高生三人だ。この中の一人と組むことになるのか。探り合いをしているのか、なかなかくじを引こうとしない。肝試しのペアを決めるだけなのに、駆け引きをする必要はないと思うが。
「どうしたのじゃ。早く引くのじゃ」
焦れたよーこさんが催促する。ようやく、遥が一歩前に進み出た。
「グズグズしているのなら、私がさっさと引いちゃうわよ。あんたたちのお目当てをゲットしても恨みっこなしね」
軽快にウィンクをしてみせる。反論しかけた両名だったが、遥はとっとと箱の中に手を入れてしまった。
執拗に箱の中身をかき乱している。玉を取り出すだけにしては時間がかかり過ぎだ。手の感触だけで特定の玉を引き当てようとしているとでもいうのか。
そして、堂々と掲げたのは緑の玉だった。盛大に舌打ちをしたのが普通に怖い。箱を睨みつけたところで、諸悪の根源は運だからな。
残ったのは瑞稀と美琴だ。箱の中身は操作されていなければ緑と黄色。二人のうちのどちらかとペアということになる。
「瑞稀、先に引いていいわよ。残り物には福があるというでしょ」
「いいえ、譲ります。私は残り物でいいですから」
「そう言われると私が残り物をもらいたくなっちゃうな」
「そんな、急に心変わりしないでください」
不毛な言い争いを繰り広げており、一向にくじを引く気配がない。このまま夜が明けてしまいそうだぞ。
「ぬしら、全然肝試しを始めれんではないか。迷っておるなら、二人同時に引けばどうじゃ」
よーこさんが地団太を踏み鳴らす。狭苦しいが、二人同時に手を突っ込んでも平気なほどの余白はある。同時であれば二人とも文句はないだろう。
ほぼ同じタイミングで美琴と瑞稀は箱の中に手を入れる。暴れまわる箱を制御するのによーこさんは苦戦しているようだ。ややあって、箱の暴走が止まった。美琴の腕がまっすぐ伸びたままになっているということは、球を掴んだのだろう。そして、瑞稀の腕も止まる。互いの命運を決定づける球が空高く提示される。




