ブレーメン四天王、中途半端に集結する
海遊びもひと段落したところで、青々とした水平線に赤みが差し掛かる。赤と青の絶妙なコントラストはいつまでも眺めていたくなる。けれども、腹の虫が傍観を許さなかった。
「そろそろご飯にするのじゃ。宿には宴会場とやらがあるそうじゃからの。しかも、うちが作らんでもご飯が出てくるそうなのじゃ」
宿の料理人が作っているというだけであろう。地元の特産物をふんだんに使った特製コースらしい。言葉の響きだけでよだれが出てくるぜ。
ご飯が待ち遠しくあるが、どうにも気がかりなこともあった。結局、遥とはうやむやになったまま別れてしまった。俺がおっぱいを触った変態だと思われたまま別れるのは癪だし、どうにか誤解を解いておかないと。でも、都合よくまた会えるなんてことはないよな。
諦めかけていたのだが、ひょんなことから再会を果たすこととなる。おまけに予想外の面子までくっついてきていた。
着替えが終わり、さっそく宴会場へと赴く。五十メートルプールが易々と入りそうな大広間に、とにかく長い机が設置されている。お座敷ゆえに、整然と座布団が並べられていた。
入室した俺たちを出迎えたのは、
「おお、君たちも来ていたのか。待ちくたびれたのだ」
どこかで見たことがある女性漫画家だった。
えっと、どうして彼女がこんなところにいるのでしょうか。しかも、隣にはこれまたどこかで見たことがある豚漫画家までいる。既に酒瓶が数本転がっており、豚さんが景気よくゲップをした。ねえ知ってる。肉を美味しくするために酒を飲ますことがあるんだよ。
さっきから失礼極まりないことばかり言っているので、真面目に紹介しておこう。先客はブレーメン四天王のメンバーである八子先生と牟田先生だったのだ。
早山奈織の情報を得るために接触した現役売れっ子漫画家と元アニメ化したことがある漫画家ではあるが、どうしてこんなところにいるのか。本来ならば都内で仕事をしているはずである。
「八子先生に牟田先生。どうしてここに」
俺の疑問を先に口に出したのは馬込さんである。元蛮蛮太郎としてブレーメン四天王の一員だった。まさか、四天王三人が集結しようとは誰が予想できようか。
「夏休みの慰安旅行で重井沢までやってきたのだ」
「作品の取材だっていきなり拉致されたんだよ。まさか、蛮太郎と鉢合わせするなんて思いもよらなかったけどな」
そう言いながら酒をあおる。まさか、本当に偶然で再会を果たしてしまったというのか。あまりにも出来過ぎていて、第三者の介入を疑いたくなる。空耳かもしれないが、どこかで猫の鳴き声が聞こえた気がした。
「いやあ、お久しぶりです。こうして一緒になるのはいつ以来でしょうね」
「常翔社の新年会依頼じゃねえか。蛮太郎は相変わらずほせぇな」
「牟田さんは立派に成長しましたね」
「そうなのだ。近いうちにドナドナするのだ」
「俺は牛じゃねえよ」
他愛ない身内話に花を咲かせる。予想外の同窓会に俺たちは完全に蚊帳の外だ。
「写真を撮るなら撮ってもいいのだ。ブレーメン四天王が揃うのはエクゾディアを揃えるより難しいのだ」
「あれって、案外簡単に揃いませんか」
レアハンターに一ターンキルされるぐらいだし。
「実際に撮ったら、肖像権で百億万円な」
「いや、撮りませんし」
八子先生はともかく、酔っぱらっている豚の写真なんて需要ないだろ。
ちなみに、ブレーメン四天王はもう一人いるのだが、彼は本気で忙しいのでまず会えないだろうと話していた。チキンレーサーを描いている白湯先生だっけな。他の四天王が奇人ばかりなので、あまり期待を持てそうにない。
「まったく、酔っ払い共と同室にいる私の身にもなりなさいよね」
ふてくされながら飲んだくれる少女もいた。断っておくが、彼女が飲んでいるのはジンジャーエールだ。アルコールは入っていない、はず。
そして、彼女にもまた見覚えがあった。まさか、こうも早く再会することになろうとは。
「あべの、ハルカス」
「ハルカス言うなし」
ガルルと吠えられ、俺は足がすくんでしまう。瑞稀と美琴があさっての方向を向いているし。
入り口付近で棒立ちしていると、遥はコップに注がれていたジンジャーエールを飲み干した。
「別にあのことは怒ってないわよ。事故でしょ、事故。いつまでも根に持つほど恨みがましくないわ。ほら、どうせ相席になるんだから、とっとと座れば」
お行儀悪い恰好で手招きをする。スカートを履いていたら大事なものが丸見えになっていたところだ。残念ながら、彼女が履いているのはジーパンだ。薄手の白いシャツから黒いブラが透けているのは指摘しないでおこう。
彼女の言う通り、他にも宿泊客がいるために相席する他ないようだ。俺たちが腰を下ろすと、「まあ、飲みなよ」と中身が半分ほど空になったジンジャーエールを勧められる。事務的にコップに注がれる黄色い液体。大騒ぎしているあちらと比べると完全にお通夜だった。
どうにもピリピリしているのは、美琴が同一空間にいるからかもしれない。互いにけん制しあっているのが傍目からでも分かる。瑞稀なんか委縮しちゃって、ちびちびジュースを飲んでいるもんな。少しでも空気を和らげないとやっていけない。
「えっと、遥は、どこから来たんだ」
「大阪よ」
「ああ、だからハルカス」
「ハルカスちゃうわ」
出身地大阪とか確信犯だろ。
「あまりなまっていないのですね」
「大阪人がみんなこってこての大阪弁を使うと思ったら大間違いよ」
「確かにそうだな。瑞稀も秋田出身だけどあまりなまっていないし」
「そだらこと、ねえです」
瑞稀さん、わざとなまらなくてもいいです。案外可愛かったから許す。
「ここへは観光でいらしたのですか」
「まあ、そんなとこね」
うそぶいてオレンジジュースに手を伸ばす。さすがに本来の目的は言えないか。強大な妖怪なんて本当に復活するのかな。全く気配はないし。気配を察知出来たらそれはそれで問題だ。
なんとかして会話を続けようとしても、ぽつりぽつりと途切れがちになってしまう。あっちは座布団を利用して勝手に大喜利をやっているし。赤い服を着ていただけで山田君にされた茜さんはご愁傷様です。




