よーこさんと瑞稀、心理戦を繰り広げる
こいつはいわば、小学生の間で永劫に語り継がれている命題、「う〇こ味のカレーを食べるか、カレー味のう〇こを食べるか」に等しい。冷静に考えてみると、う〇こ味ってどんな味だよ。コアラに聞けばいいのか。あいつ、母親のう〇こを食べて育つらしいぞ。
う〇この話はどうでもいい。どちらに分かれるべきかを相談しなくては。安全をとるなら間違いなく馬込さんだよな。醜聞されるのを許容できれば一択すらある。
他の三人は苦悩しているようだ。あまりにも痛すぎる馬込さんの車に乗るのは抵抗があるのだろう。だからといって、もう一方は富士急の絶叫マシン並みのスリルが待ち受けているかもしれない。各々、思考の泉に浸っているようだ。
「私、馬込さんの車にしようかしら」
「うちは馬込とやらの車に乗るのじゃ」
先んじて立候補したのは瑞稀とよーこさんだった。差し合わせたかのように、同時に手を挙げる。まさかの馬込さん大人気だと。俺と合わせると三人が集結してしまったことになる。誰か一人が脱落しなくては。
すると、俺の頭に柔らかいものが押し付けられた。この温い谷間、よーこさんか。
いや、違った。艶めかしくポニテを弄んでいるのは茜さんだった。
「浬く~ん。お姉さんさみしいな~。君なら乗ってくれると思ったんだけど~」
「い、い、色仕掛けで誘っても、ダメですから」
「乗ってくれたらガクドルズのグッズあげたのにな~」
ガクドルズのグッズだと。大抵のものは持っているが、茜さんもまたオタク文化を嗜んでいる。もしかすると、俺が未所持のお宝が出てくるかもしれない。あふれ出る生唾を飲み込んでむせる。
「お、俺、茜さんの車に乗ろうかな」
「じゃあ、私も乗ります」
「うちも乗るのじゃ」
おい、今度は馬込さんがぼっちになったぞ。俺だけ抜ければ万事解決なのに、どうして追随するんだよ。
「美琴はどうなんだよ。どっちに乗りたいんだ」
「私は、どっちでもいいというか」
なんだか煮え切らない返答だった。
「俺が茜さんの車に乗るんだってば」
「いいえ、私が乗ります」
「うちが乗るのじゃ」
「そこまで人気なら私もそうしようかしら」
「どうぞどうぞ」
「あんたら、ダチョウ倶楽部のギャグをやってるんじゃないわよ」
美琴が憤慨するのは無理からぬことだが、ハメ技により彼女を茜組に編入させた。そういえば、よーこさんはどうしてこのネタを知っていたのだろうか。テレビでたびたびやっているからその影響だとは思うが。
話がややこしくなりそうだし、茜さんには悪いけど当初の予定通り馬込さんの車に乗ろうかな。そうなると、瑞稀とよーこさんが問題だ。俺が馬込さん側につくと、とっさに意見を変更してくるし。堂々巡りになりそうで埒が明かない。
「馬込さん、こういう時どうしましょうか」
「ホビーアニメならデュエルで決めようと言えるのですが」
世界の命運すらカードゲームで決めようとするからな。このためだけにゲームで対決するというのも馬鹿らしい。手っ取り早く白黒つけるとなると。
「公平にじゃんけんすればいいんじゃね」
俺の提案に、二人は即座に臨戦態勢に入った。よーこさんはともかく、闘志をむき出しにしている瑞稀は珍しい。
「瑞稀よ。時には譲れぬ勝負というものがあるのじゃ。ぬしには悪いが勝たせてもらう」
「私だって負けるつもりはありません」
えーと、これじゃんけんだよな。波動拳でも発射しそうな雰囲気があるぞ。無駄に溜めがあるせいで緊張感が増幅されている。
「この前テレビでパーッと行こうと言うておったのじゃ。じゃからパーで行こうと思う」
よーこさんは手のひらをひらひらと揺らす。まさかの陽動作戦か。額面通りに受け取るのならチョキを出せば勝てる。しかし、裏をかいてグーを出されたらアウトだ。
出される可能性が高いのはパーかグー。ならば、瑞稀の最安定の手はパーである。裏切ってグーを出されたら逆転できるし、そうでなくともあいこに持ち込める。
だが、そこまで読んでよーこさんがチョキを出して来たりしたら……。こうして考えていくと思考は堂々巡りになる。まして、当事者である瑞稀は負けるとスタンドエネルギーを吸い取られるなんて緊張感で戦っているだろうな。果たして、よーこさんがどこまで裏をかいてくるか。
「勝負です、よーこさん。最初はグー、じゃんけん」
「ポンなのじゃ」
合図とともに二人は同時に手を出す。瑞稀が出したのはグー。そして、よーこさんはパーだ。
その場に崩れ落ちる瑞稀。じゃんけんで燃え尽きた人なんて初めて見たぞ。おそらく、裏の裏をかいてよーこさんがチョキを出してくると読んだのだろう。
「不思議なことをするのう。うちは素直にパーを出すと言うたのに」
よーこさんは合点がいかないといった呈で手のひらを見つめている。まさか、何も考えずに素直にパーを出したんじゃないだろうな。そうだとしたら陽動作戦もへったくれもない悪手である。どこまで読んでいたかは俺の与り知らぬところだ。
敗北した瑞稀はゾンビ化して美琴の胸に収まる。色々な意味でご愁傷様だった。ともあれ、これで車の割り当ては決まった。最大の懸念だった交通の足が解決できたことで旅行の準備はとんとん拍子に進む。そして、あっという間に旅行当日を迎えるのであった。




