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馬込さん、痛車を披露する

 自家用車を紹介するということで、駐車場へと案内してもらうことにした。職場の近くに住んでおり、遠出する際に必要だから月極駐車場を契約しているらしい。馬込さんの愛車は俺も初めて目にするな。果たして、どんな車だろう。意外と高級車に乗っていたりして。それはないか。オタクの性として、趣味以外のことには無頓着になりがちだ。隠れ車オタクでもなければ、できる限り安物で済まそうとしているに違いない。


 俺の考察通りと言っては悪いが、紹介されたのは四人乗りの軽自動車だった。青の車体のコンパクトカーといえば変哲が無い。しかし、女性陣は全員絶句していた。俺も息を一瞬だけ息を詰まらせたぞ。

「馬込さん。本当にこれが愛車なのですか」

「そうですよ」

 ごく普通とばかりに車体にもたれかかる。俺はまだ抗体があるけど、一般人からすると許容しがたい代物であった。


 車体の所狭しに描かれている美少女キャラクター。それも、(オタク界隈では)誰しも知る人気キャラだ。フロントにはゲームセンターのクレーンゲームで入手したであろう人形がひしめき合っている。言葉を濁していても詮無きことだから断言しよう。


 そこにあったのは痛車だった。


 主にプライベートで使っているとはいえ、職場近くに愛車である痛車を停めるなど、個人事業主でないとできない蛮行だ。すごいな、これ。イベント会場で目にしたことはあるけど、町中でお目にかかったのは初めてだ。これが都会の魔力というやつか。


「どうしたんですか、これ」

「僕の友達にカーペイントを趣味でやっている人がいまして、施工してもらったんですよ。本当はバンバローのキャラを描いてもらいたかったのですが、『そんなの知らん』と言われてしまいましてね。仕方なく、彼も好きなアニメのキャラをお願いしたのです。名付けて、『ご注文は痛車ですか?』」

 描かれているキャラからして納得できる作品名だった。なるほど、いつも頭にアンゴラウサギを乗せているあのキャラがお気に入りですか。俺は彼女に姉ができたと誤解して「ヴェアアアア」と叫んでいたキャラ派だ。


「なんか色々とすごい車ですね。まかりまちがってもロボットに変形しませんよね」

「嫌すぎるトランスフォーマーね。デストロンも逃げ出すわよ」

「あながち冗談じゃないかもしれないわ。非公認戦隊だと痛車がロボットになっていたし」

 女性陣の会話を聞いていると本当にトランスフォームしそうに思えてくる。変形、しないよね?


「最近の車は派手な模様をしておるの。これがトレンドというやつか」

「絶対に違いますから、よーこさん」

 町中が痛車で溢れかえるなど、公道をマリオカートもどきで走る以上の珍事だ。他の女性陣が辟易する中、よーこさんだけが興味津々のようで、馬込さんは浮足立っていた。


 外装はともあれ、交通の足は確保できた。と、思いきや重大な問題が発生した。

「この車は四人乗りですよね。どう考えても一人余るのですが」

 瑞稀の言う通りだ。旅行に行くのは陽湖荘の四人。誰も運転できないから別に一人運転手役を加えることになる。そうなると、スネ夫じゃないけど、「残念だったなのび太」状況が発生してしまうのだ。


 道路交通法違反になるが、無理やり五人乗るという手がなくはない。しかし、全員の荷物も載せるとなると、どう考えても容量不足だ。

 せっかく移動手段が見つかったのに、暗礁に乗り上げてしまうのか。


 どんよりと肩を落とす一同に、瑞稀はあたふたと上半身を動かす。別に彼女は悪くない。遅かれ早かれ指摘されるべきことだ。誰しも意見を出せずにいると、茜さんが腰に手を当てて進み出た。

「どうやら私の出番ってわけね。まさか、こいつが役に立つ時が早くも来るとは思わなかったわ」

「まさか、秘策があるのですか」

 馬込さんが瞠目している。もったいつけながら、茜さんは財布の中を探る。のび太ではないけど、否応上に期待が高まってしまう。未来の便利な道具は出てこないはずだ。


 提示されたのは一枚のカードだった。友情テレカかな。そもそも、テレカ自体古代の産物と化している。

「茜さん、いつの間に取得したのですか」

 正体を察した馬込さんが驚き、訊ねている。

「バイトの合間にちょっくらね。これこそ、とれたてほやほやの普通自動車第一種免許よ」

 新鮮な野菜みたいに言わないでもらえますか。でも、渡りに船とはこのことだった。車を運転できると公的に証明できる資格。そいつが茜さんの手中に収まっていたのだ。


 もう一台車を用意できれば、三人ずつで無理なく乗車することができる。ここまで引っ張ってきて今更ではあるが、

「馬込さんと茜さんも俺たちの旅行に参加することになっていますが、いいんですか」

「僕は構いませんよ。店の夏休みに気分転換したいと思っていました」

「私もオールオッケー。学生の夏は長いからね。少しぐらい旅行したって支障はないわ」

 信じられるか。大学生は八月と九月は丸ごと休みなんだぜ。それだけ聞くと早く高校を卒業したくなる。大学まで卒業すると休みが極端に無くなるというのは目をつぶっておこう。


 送迎運転手という名目で茜さんと馬込さんの参加が決まり、旅行は盛り上がるばかり。だが、ここで現実的な問題が発生した。

「それで、誰がどの車に乗るのじゃ」

 よーこさんが発した疑問に、俺たちは押し黙った。


 運転手である二人はいいとして、俺たち四人は重大な選択を迫られることになる。それに、はっきりさせておかなければならないことがある。

「茜さんって車を持っているのですか」

「持っているわけないじゃない。免許を取ってまだ一週間よ」

 更なる不安要素が付与されてしまった。車はレンタカーを借りると言ってはいるが、問題はそこじゃない。どう考えても運転技術は手綱を任せられるようなレベルではないのだ。


 茜さんはカードゲームとか将棋のような頭脳戦が要求されるゲームはめっぽう強い。一方で反射神経が要求されるゲームはクソ弱いのだ。この前、中古のマリオカートの動作確認のために二人で対戦したことがある。結果は俺の全勝。茜さんはコンピューターの最弱レベルにすら苦戦するという有様だったのだ。


 レースゲームの腕前を実際の運転と結びつけるのはナンセンスではある。だが、それを差し引いても免許を取って一週間のペーパードライバーというのは安心できる要素は微塵もない。


 つまり、俺たちは究極の選択を突き付けられているのだ。確かな運転技術を持つ者が運転する痛車に乗るか、下手くそが運転するごく普通のレンタカーに乗るか。

ちなみに私は第1話で下着姿の泥棒さんと間違えられる軍人気質の子派です。

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