瑞稀、ネコミミカチューシャを装備する
目ざとくカチューシャを発見し、牟田先生が背筋を伸ばす。注目しては可哀そうだと思いつつも、俺も彼女から視線を逸らすことができない。つい、律儀に正座してしまったぜ。
恨めしそうにカチューシャを両手で握る瑞稀。俺たちの視線はそこより上にあるのに内股になっている。顔を背けているせいで、頬が紅潮しているのが際立っていた。
これから脱げと命令しているわけでもないのに、いやが上でも心臓が高鳴ってしまう。俺が緊張したところで逆に失礼な話ではある。一番酷なのは瑞稀だから。彼女が人前でこんな仕打ちを受けるなど、俺が目の前でガクドルズの単行本を破かれるぐらいの屈辱だというのは想像に難くない。
そもそも、瑞稀がすんなりと了承するとは思えないのだが、小野塚さんは一体どんなことを耳打ちしたんだ。探りを入れると、
「カイカイのために一肌脱いでほしいと頼んだだけ」
しれっとそんなことを打ち明けた。変な取引でも持ち掛けたと思っていたから意外だった。
手に持っているのが時限爆弾かという慎重さで、瑞稀はカチューシャを頭へと運ぶ。あながち、爆弾であるというのは間違ってはいないだろう。俺の中で何かが爆発するまでのカウントが開始されていた。
瑞稀が装着するまで五秒前。四、三、二、一。
「かわええええええええ!」
おい、どうするんだ。おっさんと合唱しちまったじゃないか。でも、破壊力は抜群だった。
眼鏡をかけた真面目で理性的なイメージがある彼女に、相反する活発そうなネコミミ。互いに反発しそうな両者が奇跡的に共存できており、言い知れない可愛さ、加えてそこはかとノスタルジーを醸し出している。
馬込さんから教えてもらったおかげともいえるが、オタク文化の黎明期にこんなキャラが散見されたよな。眼鏡をかけたネコミミメイド。今では陳腐だと揶揄されかねないが、まさか古代兵器が顕現してしまうとは。そんな意外さがオタクの根幹を刺激してしまったのは言うまでもない。
さっきからパシャパシャうるさいと思ったら、牟田先生が携帯のシャッターを連射していた。太鼓の達人で風船音符を割ろうと躍起になっているのか。しかも、シャッター音に反応して瑞稀が身をくねらせているものだから、余計にエロティックだ。やばい、俺も撮影したくなった。
うっかり自前の携帯に手を伸ばそうとするが、おぞましいオーラが襲来した。俺の真横で小野塚さんが爪を噛んでいる。
「ズッキーばかり称賛されてずるい」
触らぬ神に祟りなし、だ。小野塚さんも十分可愛いけど、瑞稀の場合はギャップ萌えという追加効果が付与されてしまったからな。
疲れた指を休ませるように、牟田先生は右手をぶらぶらと振る。ようやく撮影会が終了。そう思われたのだが、再び押入れの中をまさぐる。そして、悪魔の装備品を披露した。
「次はこのメイド服を着てみてくれないか」
「調子に乗ってんじゃねえ!」
そいつはさすがに犯罪だからな。女子高生二人が本気でドン引きしているじゃないか。明らかにサイズが合わないメイド服なんてどうして持ってるんだよ。「取材のため」と弁明されても犯罪臭がプンプンするのはどうしたものか。
「俺の話が聞きたいんじゃないのか。とっとと帰ってもいいんだぜ」
こいつ、俺たちの弱みを握ってきやがった。小野塚さんと瑞稀が体を張ってくれたんだ。このまま手ぶらで帰ることになったら、こちらが大損するだけだ。
だからといって、瑞稀にメイド服の着用を強制するわけにはいかない。カチューシャだけでも目を回しそうなのに、ミニスカメイド服とか昇天するレベルだ。スカート丈がおかしいだろ。浅田真央の真似をしたらパンチラしそうだぞ。
どうにか、瑞稀にメイド服を着せるか。いや、そいつはダメだ。ならば、別の打開策を模索しなくては。前にも似たような状況になったことがあったな。あの時はノリとお面でどうにかなったけど、今回はハードルが高いぞ。
「メイド服が見たいなら、私が着る」
考えあぐねていると、小野塚さんが挙手した。そうか、彼女がいた。メイド姿を堪能したいだけなら、小野塚さんが着ても問題はないはずだ。
しかし、牟田先生は大きく頭を振った。
「うーん。君だと意外性が無いんだよ。恥じらいながらメイド姿を披露する。そんなシチュエーションにビビってこないか」
こいつ、妙なところで創作魂を発揮しやがった。分からんでもないけど、どうしても瑞稀に着てほしいということだろう。不満そうにほほを膨らませる小野塚さんをなだめ、俺は顎に手を添える。
要は、意外性が欲しいのではないか。ネコミミ瑞稀に対して興奮したことから、この先生はギャップ萌えに弱いと推察できる。ならば、爆弾級の意外性を投入してやれば突破口が開けるはず。
俺は瑞稀を遮るように堂々と手を上げた。腕を組んで斜に構える牟田先生に、俺は宣告してやった。
「瑞稀が無理なら、俺がメイド服を着てやろう」




