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火の神殿 精霊都市パパンバ

少しずつ誤字脱字を修正しています。

「こんなにたくさんの人を見るの久々にゃ~」

目を丸くしながらもピンと立てた猫耳でどこか喜びを表しているリンダ。

「そうだね、こんなに人が多い町はシーマ以来かな?」

「なんじゃ?人間がこんなに寄り集まって、、、どこからこんなにもワラワラと集まって来とんじゃ?」

「そうか、ジャスパはこんな人混み初めて見るのか。ほら、逸れないようにね」

あっちこっちをよそ見しているジャスパが逸れないように手を繋いでやる。

「ご主人様!ずるいです!!!」

手を繋いだことになぜかレンに嫉妬されたので反対の手でレンと手を繋ぐ。

ふと後ろを見ると、これまた逸れないようにユイがライカの手を握っていた。

あ、そっちのほうがいいな・・・と思ったけど両手を繋いだ逸れ竜(完全に迷子一歩手前の幼子)と残念魔族(水法被に褌に地下足袋という出で立ちの一人お祭り少年)を思うと口に出すのは止めておいた。


そもそも俺達は港に上陸後火の神殿近くに宿を取ろうと、とりあえず大きな通りを歩いている。

火の神殿を中心にその周りに発展した町がある形なのはシーマと同じようなので、中心地方面へ行けば大丈夫だろうという安易な考えではあるが、あながち間違っていないはずだ。

その証拠に、今通っている道も結構大きい通りなのだがそれでも人が溢れかえるくらいだし、進むにつれて混雑は増しているのだから。

そしてこれだけの人混みだ。たくさんの種族が入り乱れている。その恰好も様々だ。

そのため、一人お祭り少年ですらあまり目立っていないのがちょっと救いかもしれない。


ジーナとリンダが先頭で人をかき分けながら進んでいるが、とてもじゃないが周りにある出店屋台なんかを覗いていける余裕はなさそうだ。


通りを歩き始めて1時間、相変わらずの人の多さに進む速度は上がらずそしてみんなの疲れも絶賛鰻上り中である。ただでさえ40度以上はある気温の中人混みの中にいるともうサウナで運動しているようなものである。なにせ風が吹くと暑いのだから体温以上の気温になっているのは間違いない。さらにこの大通りにはいくつか1メートルサイズの燭台がありそこには火が点いている。この燭台を辿って行けば火の神殿までいけそうな雰囲気がある。そんな火があるとその熱気も加わりもするし見た目にも熱そうだし。

すこし喫茶店にでも入って休もうと思うのが人の思考。そしてそれを見事に読んだように先ほどから通り沿いのお店は喫茶店っぽいお店ばかりになっていた。

ジーナとリンダも最初は人混みがどこかお祭りのように感じてテンションの高さを感じたが、今となっては形を潜め、猫耳も犬耳もショボンとなっている。


「少し休憩する?」

と一応は皆に聞こえるくらいの声量で言ったのだが、この人混みの喧騒で先を行くジーナとリンダには聞こえなかったかもしれないと、もう一度ちゃんと声をかけようかと思った。が、それは無駄な配慮だったようだ。

俺が声を発した瞬間に犬耳と猫耳はピョコッと立ち上がり驚く速度でこちらを振り返ると秒で俺のパーソナルスペースの内側までやってきたのだった。

そして満面の笑みで

「「賛成!」にゃ!」

と賛同してくれたのである。

「じゃあどの店にしようか?」

俺が辺りをキョロキョロとしていると

「こっちこっち!」

すでに目を付けている店があるようでジーナが先導していく。

俺達も遅れずに付いて行くと、通り沿いにある屋台の隙間からちゃんとした建物の軽食屋へと入っていくのだった。


「いらっしゃいませ~」

店に入り入り口のドアを閉めた途端に外の慌ただしい雑音が消え、快適な温度の空間に皆で安堵した。


「7人ですがいいですか?」

「はい、では奥のテーブルへどうぞ~」

そういって女店員さんが席へと案内してくれた。

そこは大人が8人掛けれる席だったため子供7人の俺達は結構ゆっくりと座れた。


「その様子だとお参りですね?2日目ですか?」

ウエイトレスというには少々布地が足りていない服装だけど、丁寧な接客態度は日本でも十分通用しそうな好感の持てる対応だ。

「お参りです。でも今日この町に着いたところです」

「ああ、そうなんですね!子供やお年寄りの人は3日位かけて神殿まで行かれる方が多いので。初日にここまで来られてお疲れでしょう?ゆっくりして行って下さいね」


「ありがとうございます。ちなみに、この店のお勧めってなんですか?」


「そうですね、食べるものでしたら串焼きが、飲み物でしたらヤーシの実ジュースがお勧めですよ」


「じゃあそのヤーシの実ジュースを人数分お願いします」


「はい、少々お待ちくださーい」

注文を受けるとそそくさと厨房に入っていった。


「なんだか感じのいい人だね。それはそうと、皆はヤーシの実ジュースって飲んだことある?」


「ない、たのしみー」

もちろん俺もはじめてなんだけど、、、。

何となく予想がつくよーな。


「はい、お待たせしましたー!ヤーシの実ジュースです」


そこには全くもって予想を裏切らないヤシの実が鎮座していた。


ですよねー。

でもここは異世界、味は違うかも!


早速切れ目を入れてくれている所から一部をもぎ取り中の水分を口に含む。


あーこれは!!

見事なまでにヤシの実と同じだ。


せっかくの異世界なのに一緒ってのはちょっと損した気分になるのは贅沢かな?


「変わった味にゃーー」


独特の甘みがあるヤシの実に反応はそれぞれだった。


「これ、確か水分補給に適していたはずだから丁度いいね」

そんな話をしながら少し休憩も出来たところでこの後まだあの人混みを進まなくてはならないのかと思うと、もうちょっとゆっくりしていこうかと考えてしまう。


そこで、店員さんにこの町について聞いてみることにした。


「すみませーん、神殿までどの位あるんですか?」


「そうですね、このまま進めば神殿の入り口まで行けますよ。途中疲れたらうちの店みたいに休めるお店もたくさんありますし、一つ裏通りに入れば宿がありますからゆっくり行かれるのがいいですよ。」


「もう少し、さっと行ける方法はありませんか?」


「初めての参拝でしたら、この通りをゆっくり進みながら途中にある聖火でお清めしながら行くのが普通です。でも急がれるのでしたら宿のある一本裏通りに行けば馬車で行くことも出来ますがあまりお薦めはできません」


「何でですか?」


「私達くらいの庶民にはお高いのもありますが、参拝するためには聖火でのお清めが必須です。より沢山の聖火でお清めされてから行く方がより正確なお告げがあると云われています」


なるほど、そんな話があるのか。


「では町の人達が参拝するときもそうするの?」


「私達は普段から聖火でのお清めはしていますから、参拝するときに聖火を回ったりはしませんね」


「なるほど。ちなみに聖火でのお清めってどうやるの?」


「基本的には聖火の熱を感じられるくらい近づけばオーケーですよ!信心深い方はそこでもお祈りをしています」


なるほどな。この町としてはそのほうが参拝客が長期間滞在してくれるから消費も増え町は潤うってことだ。町が潤えばその分人の出入りも増え神殿への崇拝者も増える。

たくさんの聖火でお清めして時間をかけてこの町に滞在し神殿でありがたいお告げを頂く。結構じゃないか。


だが断る!


だって、精霊でのお告げってその人をスキャンして潜在能力とかをちょっと教えてくれるもんでしょ?

水の神殿にて一度教えてもらってるし。それに精霊ってウンディーネみたいなのの火バージョンだと考えると・・・崇拝?なにそれ?美味しいの?状態じゃないか。


「なるほど、分かりましたー。ありがとうございました!」

親切に教えてくれた店員さんにお礼を言うと、改めて神殿へのルートの作戦会議だ。


「で、みんなどーする?」


「え?聖火でお清めしながら行くんじゃない?」

教えてくれた事を素直に従うつもりだったライカ。


「うーん、ほら俺達は一度水の神殿でお告げは受けてるからさ。今回はサクッと行ってもいいと思うんだよね」


「お告げとはなんじゃ?」

そういえばとばかりにジャスパが興味を示してきた。


「5歳とか10歳とか、5年に一度参拝してお告げをもらう慣習があるんだよ。でもジャスパは・・・あれ?そういえばジャスパも10歳か!?」


「そうじゃの。そのお告げとやら行ってみたいぞ」


「うんうん、まぁみんなで行くんだけどね。その方法なんだけどここに来るまでの通りで十分聖火でのお清めはされたと思うのよ。だからこのあと一旦宿を取って一泊、明日改めて馬車で神殿まで行くのはどうだろう?」


「でもたくさんの聖火でお清めしたようがいいみたいに言ってたよ?」

ライカの純粋な目で尋ねられた。


「まぁそうかもしれないけどさ。もし仮に今回お清めが足りなかったとする」

ここで改めて考えをまとめる。それを聞いて皆も頷き、先を促された。


「お清めが少ないからといってお告げが無いわけじゃなさそうだったからとりあえずお参りすることには意味があると思う。そもそも俺達の目的はお告げじゃなくてウンディーネを他の精霊に会わせればいいんだし。お告げの最中にウンディーネを呼び出せればいいんはずでしょ?」


「じゃが、ワシはお告げとやらを聞きたいぞ?」


「まぁジャスパはそのままお告げを聞いたらいいよ」


「うむ、なれば問題ない」


「最悪、お告げの内容がサッパリ分からないものだったら諦めて町中全部の聖火を回ってからもう一度行けばいいしね」


「それなら問題ない・・・のかな」

疑問形に近い形で納得の言葉が出て来たライカ。しかし、言質はとったぜ!


「というわけで、次は裏通りで宿を確保しようよ。いっぱい汗もかいたしお風呂はいりたい」

というと、お風呂の誘惑に全員が敗北したようで見事に全会一致で宿に行くことになった。


ふふ・・・お風呂便利。

ここまで皆をお風呂好きに仕立て上げて正解だったな、と内心で思う。


「ありがとうございましたー!」

店を出てまた人混みに紛れて少し進むと横道があったのでそこに入る。

メインストリートよりは人気が減ったがそれでもそれなりに人はいる。

少し行ってメインストリートと並行にある通りを進んでいると宿があった。

というか、見える範囲でいくつかある。裏通りには建物5つに1つは宿っっぽい。


確かにメインストリートの人混みを見る限りかなりの宿がないと収容不可能だろうし、裏通りは宿通りってことなのかな。どの宿を選ぶにしても何の情報もない。とりあえず見た目でテラスっぽいのが部屋にある宿がおしゃれそうだったのでそこに決めた。


「ようこそ、炎の海豚亭へ。おや?これは可愛いお客様ですねぇ」

迎えてくれたのは執事服が似合うナイスミドルだった。

「こんにちは、今夜一泊お願いしたいのですが部屋はありますか?」


「今空いているのは、参拝者用ダブルの部屋が二つに貴族用二間続きの部屋が一つですね。子供7人なら参拝者用の部屋二つに分かれても入れますがどうしますか?」

こういう時どうしても子供だからお金持ちには見られないんだよね。それでも丁寧に話してくれるこのナイスミドルには好感が持てる。


「貴族用の部屋に子供7人は入れますか?」


「ベッドを追加して入れれば大丈夫でしょう。少々お値段が張りますがよろしいですか?」


「はい、ではお願いします」


「畏まりました。ではベッドを追加しますので少々お待ちを。追加でお湯などは・・・先にお支払いですが・・・」

料金も先払いで支払い追加のお湯は断り朝食は付けてもらうようにしてチェックインを終わらせた。


ベッドを入れている待ち時間の間に今夜の夕食をどうしようかと話していると、ナイスミドルから宿の地下に食堂兼居酒屋がありそこがお勧めだと聞いた。いろんな肉の串焼きがメインのお店らしい。そういえば途中で寄った喫茶店っぽい店でも串焼きがお勧めとか言ってたからこの辺ではポピュラーな料理なんだろう。

皆で夕食はそこにしようと話していると、ベッドの追加も終わったようで部屋へ案内してもらった。




「うわー!素敵なお部屋ー!」

ライカの第一声に全員が賛同した。さすが貴族用というだけあってそれなりにお値段もしたが、広々としたリビングには絵画や置物などがシンプルかつ素敵に散りばめられていた。そこからさらに奥の部屋は寝室だったが、キングサイズのベッドがどーんと置いてあり、その横にエキストラベッドが追加されていた。

リビングからはテラスに出ることもでき、そこからの眺めは絶景!とまではいかなかったが決して悪くはなかった。



何だかんだと部屋で少し休憩したあと夕食に出かけ、間違えてジーナとリンダがお酒を飲んでしまいフラフラの二人を何とか部屋まで連れて帰ってきたのは日付が変わる時間帯だった。


因みにこの世界、ケンの知っている限りではお酒は二十歳からなんて法律はない。が、子供にとってお酒は美味しいものでもないので自分からは飲まないし、対して問題もなかったりする。逆に種族によっては年齢で区切ると不平等が発生したりするので今のところそんな法律が出来そうという気配もない。


ジーナとリンダが飲んでしまったのがお酒だと気付いた後は、ジャスパも飲みたいと言いだし、奪うようにしてカブカブお酒を飲んだが竜は酒では酔わないらしいくいつもと同じ様子だった。

まぁ、竜がなのかジャスパだからなのかは不明だけどね。

ジャスパは部屋に戻り次第最速で布団に飛び込んでいたので少しは酒の効果はあったのかもしれない。


寝室でジーナとリンダを甲斐甲斐しく介抱していたライカとレンだったが、先ほど疲れからかそれともベッドの心地よさが原因かは不明だがコロッと寝入ってしまった。


俺はユイと二人でテラスに出て夜空を眺めていた。その手には葡萄のお酒をもっていた。

「結局皆力尽きたからお風呂入ってないんだよねー」

「俺達だけでもはいろうか」

「そうだね。お風呂で飲む酒と言えば日本酒だけどね」

「手に入ったのがこれだったから贅沢言わない」

「だねぇ。よし、お風呂作るか」

俺達はサクッと服を脱ぐと以前にも作ったように魔法板(マジックプレート)で透明な湯船を作ると水魔法で温めのお湯で満たすとお酒を片手に湯船に浸かる。


「「ぷはぁぁ~~~~」」

どうしてもこの声が出てしまう


この世界に来てからお酒を飲む機会はなかったし、元々嗜む程度しか飲んでなかったけど、このシュチエーションで飲む酒はまた格別だった。


「この体だからか、酔いがわまるのが早い気がするね」

「でも夜空が見える風呂で飲むと旨くてつい進んじゃうね」

そういいながら自分とユイのグラスにも酒を注ぐ。


いつの間にか二人で用意していたボトルを飲みきってしまい、心地よい酔いを湯船に浸かりながら楽しんだ。


違和感を感じたのはそんな時だった。

何だろうと?とテラスから下を見ると大通りとは反対の住宅街が広がる方向の通路で、暗闇の中僅かに動く人影があった。

一瞬月の光で見えた姿は、黒装束に黒頭巾、両手には赤子?を抱いてコソコソと移動している小さな人影だった。


「あれは!?誘拐か!?」

「間違いない!すぐに捕まえよう!」

そういうと俺達はテラスから飛び降りると浮遊魔術を使って誘拐犯の目の前に着地した!


つもりだった。


が、浮遊魔術の制御がうまく効かなかった為、見事に二人そろってズッコケた。


「な・・・なんだぁ!???」


「いててて・・・」

腕とか擦りむいちゃったけど、それどころじゃない!


「やい、ゆうか・・」

「ギャーーー変態だーーーー!!!」

誘拐犯っ!って言う前に叫ばれた。


「え?」

ちょっと事態が飲みこめずユイを見た。

あ、こいつ素っ裸じゃん。


露出狂かな?


って、俺もか!?


「ちっ違う!!変態なんかじゃない!」


「どっからどう見ても変態じゃないかーーー!!」


「違うって!!お前こそ誘拐犯だろ!大人しくしろ!」


「露出狂なんて相手にできるかっ!」

そう言って何かモゴモゴ言ったかと思うと、誘拐犯の姿が見えなくなった。


「【認識疎外ミラージュ】か!」


俺達が勝手に光学迷彩と呼んでいるこの魔法は相手がほぼ見えなくなる。完全に見えなくなるわけじゃなくて境界線とかよく見たら分かるんだけど、この暗闇で使うとほぼ認識できない。


が、実体が無くなるわけではないことを俺達は知っている。


「【照光シャイン】!」

慌てて誘拐犯向けて光を放ち続ける魔法を貼り付けた。

なぜか想定以上の光量になってしまったけど、俺とユイから放たれた光魔法は相手の頭部と腕にしっかりと貼り付ける事に成功した。


「なんだ!?クソッ!変態のくせに厄介だな!!だが今は忙しいんだ!」

そう呟く声が聞こえたと思ったら俺達が貼り付けた光が移動し始めた。

しかも、普通の人が走る程度の速度じゃない。目で追うのがやっと、というレベルで細かく動き俺達の横をすり抜けて行った!


「早い!けど逃がさないよ!」

「「【身体機能強化ブースト】」」

その程度の速度ならまだまだリンダのほうが素早い。がっつり魔力を込めた【身体機能強化ブースト】で強化された俺達なら追いつくことも可能だ。

すぐに追いつく、、、と追いかけたが中々追いつけない。

追いかけながら「【土結界アースバリア】」を放ってみたけど、相手を包囲する前に魔法範囲から見事んい脱出されてしまった。

相手は光続けているので見失うことは無いけど、【身体機能強化ブースト】してるのに離されないのがやっとの速度でしか走れないでいる。

しかも相手は赤子を抱いているので下手な攻撃魔法も使えない。


せめて足を殺すか、、、と【土弾アースバレット】を放ってみたが、上手い事狙いが定まらずヒットしない。

「待てーー!誘拐犯ーーー!」

「こっち来るな変態ーーーー!」


深夜の住宅街で逃げ回る光を素っ裸の二人が追いかけまわす、そんな奇妙な光景を見た人は夢(それも悪夢の類)でも見たのかと唖然とするしかなかった。


中には光を追いかける裸の子供を見て、

「あら、かわいい♡」

なんて呟くご婦人もいるにはいた。が、そんなのを気にしてなんかいられない。

それよりも

「露出魔!?」

と言われることの方が多い。


くそぅ。風呂入っている途中だったとはいえせめて服着てくれば追いかけるのに集中できるのに。。


こっちは全力で追いかけているのに相手はかなり速い。しかもこちらは極力人目を避けるように走っているので少しずつ距離が開いて行く。



そんな追いかけっこは意外と早く終わりを告げた。

なぜならば自分にかけた【身体機能強化ブースト】が効果を消したからだ。


「あれ?」

こんなにすぐに切れる程少ない魔力じゃなかったはずなのにおかしい。

というか、あの誘拐犯への魔法攻撃もうまくコントロールできてなかった。


すっかり遠くに離れてしまった光は建物の影に隠れ、そして見失ってしまった。


「キャーーーー!!!」


振り向くとおそらく住人と思われる人がこっちを見て叫び声をあげていた。


「へ・・・へんたいよーーー!!!」


「ち、、違う!断じて違うから!!!」

と言い訳してみても、素っ裸なのに変わりはなく言うだけ無駄と思い知った。

ユイを見るとやはり同じ思いだったようで、

「行こう!」

と声を掛けて来たので頷き、走り出した。


深夜の住宅街なので少し行けば人気のない場所はすぐ見つかった。


「とりあえず裸なのをなんとかしなきゃどうしようもないね」

「この世界なら魔法でなんとかならないかな?」

「それなら・・・土魔法と水魔法をかけ合わせて・・・」

「粘土のようにドロドロになった物を火魔法で熱を加えて・・・」

「力を込めるとよく伸びる、離すと元の形に戻る・・・形状記憶要素も取り入れて・・・」

「とりあえず裸であることを隠せるように・・・それでいて動きやすく・・・・」

「暗闇に紛れるように色は黒くして・・・」

ユイと二人で試行錯誤しながら、それでも短時間で作り上げていく。


「よし、これでどうだ!」

現れたのは俺達の頭上に黒く薄い円の形をした物体だった。

「とうっ!」

俺達はその物体の上に飛び乗った。

すると物体で着地せず、そのまま俺達の体を飲みこんで伸びていく。

飲みこまれながら体をモゾモゾ動かすとしっかりと体に沿って伸び、そして張り付いてくる。

最終的には足の指先から頭の先っぽまですっかり黒く薄い素材に包まれた。

そこで気が付いた。顔面にも張り付いているから息が出来ない!

あわてて顔の部分に魔力を込めて調整、口元、鼻、目、耳の部分に穴をあけて完成した。


ユイを見ると、真っ黒な全身タイツを着た人のように見えた。

少し違うのは、暗闇の中でもツヤツヤなのが見て分かるほど黒光りしていたことだろうか。

イメージとしては某巨大ロボットの中でドモンなんとかカッシュさんとかが着るファイティングスーツ・・・だったのだが、デザインも何もなくただ真っ黒なので前世で一番近いのはフルラバーキャットスーツと呼ばれるものだろうか。


手も足も指先までしっかり五本指になって包まれているが、股間については俺は気持ちふっくらしているが形が分かるほどではない、ユイについてはツルペタなのが分かるような、なんだか微妙なエロさを醸し出していた。


「よし、とりあえず裸じゃなくなったから追いかけたいところだけど・・・・」

「ターゲットには【照光シャイン】が掛かっているからすぐ見つかる・・・かな」


とりあえず再度【身体機能強化ブースト】を掛け直してターゲットが逃げた方向に走り出した瞬間、俺達は体をギュッと掴まれた感覚に陥った。と当時に体にGが掛かったかと思うと視界から飛び込んでくる景色が上空から見下ろす景色に変わり一瞬パニックになった。


「「ちょ!何だ!!??」」


「二人っきりで何を楽しそうな事をしているのじゃ?」

そこに聞きなれた声が響いてきた。


ふと見上げると、竜化したジャスパが俺達をつかんで空高く飛んでいるところだった。


「「ジャスパ!」」


「何だかしらんが目が覚めてみたらお主達二人が見当たらぬから気配を頼りに探してみたら楽しそうな事をしておるの?」


「いやいや、遊んでるわけじゃないって!宿のテラスから町を見ていたら誘拐犯を見つけてね。それを追いかけていたところだったんだよ」


「・・・それにしては、その恰好はなんじゃ?」

全身黒のキャットスーツになった俺達に興味を持たれてしまったらしい。


「いや、お風呂中に見つけたからそのまま追いかけていたんだ。さすがに裸のままじゃ辛くなって魔法で服っぽいのを作ってみたんだけど・・・」


「人族にはそのような奇怪な衣服があるのか。。。」


いや、どうだろう。この世界ではないのかも?

でも前世では美人三姉妹の盗賊こと猫の目さんとかこんなんやったよーな。あ、でも色は3人とも違ったかな。

まてまて、それよりも追いかけないと。

「それは置いといて、ジャスパのおかげで丁度上空から町を見渡せる・・・・いた!あそこの光が移動しているヤツ!あれを追ってるんだ!」


「ぬぅ・・・はぐらかすのか?」


「そうじゃないって!誘拐犯を追いかけないと!!ジャスパ!あの光の進行方向前まで運んでよ」


「しっかりとあとで説明してもらうとして、得物を追いかけるのならば一緒に行こうではないか!」

そういうと俺達を掴んだままのジャスパはグルっと旋回すると移動している光の進行方向前方まで数瞬で運んでくれた。


「ターゲットはあやつか!」


「ジャスパ!こんな町中で竜が現れたら大パニックになるからついてくるなら人型になってよね」


「まぁ得物が小さいからその方がええかの。じゃあ行くぞ!」

と言った瞬間ジャスパは人型に変身した。


つまり、俺達を含めて落下が始まったのだ!


「ちょ!いきなり!?」


ジャスパ一人だけ落ちてしまわないよう俺とユイが慌ててジャスパの手を握って浮遊魔法を使い落下スピードを落とす。

が、着地まじかになっても意外と速度が落ちていない。

やっぱりなんだか魔力のコントロールがおかしい。などと考えている間もなく俺達三人は地面に激突していまったのだ。


驚いたのは誘拐犯だった。

俺達の事を巻いたと思っていた矢先に上空から何かが落ちて来たのだから。


激突する瞬間に一応【身体機能強化ブースト】と【魔法板マジックプレート】を使って怪我などは無い程度には落ちることが出来たが、着地の衝撃で両足がジンジンしている。


「なんだぁ!?」


誘拐犯の前方には衝撃で土煙が立ち込め、驚きで目を丸くしていた。


「ふふっ!二人が動かないなら得物をゲットするぞ!」

着地の衝撃で何事もなかった様子のジャスパは土煙の中から光る獲物に向けて一直線で飛び出した。

誘拐犯を捕まえた!と誰もが思う瞬間、ターゲットは見事な反射神経でジャスパを避けて見せた!


「ななななんだよ!?あっぶねぇなぁー」


「避けるとは、なかなかやるのぉ?」

土煙から出たジャスパとターゲットが対峙する


「また変態が出たーーーーーー!!」


ターゲットと対峙しているジャスパは、それはもうもちろんの事素っ裸だ。

普段はジャスパだって服を着ている。が、竜化したときに木っ端微塵に破かれているのだ。その後人型になったところで破かれた服は返ってこないのは当たり前。結果、ターゲットの心からの叫びは理解できる。

人型のジャスパは俺自身がモデルになっているのでよく似ている。


「変態?確かに仲間にそう呼ばれている物はおるが・・・それよりもお主を捕まえるほうが楽しそうじゃ!いくぞ!!」


変態扱いされたことなどどこ吹く風、ジャスパは遠慮なくターゲットに飛び掛かる。

しかし、赤子を抱いているにも関わらず素早い動きでジャスパを躱すと、ジャスパから距離を取った。


「よく見たらさっきの変態とは違うヤツなのか。もう、どーなってんだ。でもこっちはそんなのに構っていられないんだよ!」


今度はジャスパが変態扱いされた・・・これでは俺達の二の舞になってしまう。

なんとかジンジンしていた足も言う事を聞き始めたので慌ててジャスパに駆け寄り、先ほど同様服(?)を作成してジャスパを突っ込んだ。

ジャスパはちょっともがいていたけど、目と口の部分を開けてとりあえず裸を回避したことを理解させる。


「よし、とりあえずこれでなんとかなったな。まだ遠くには逃げてないはずだ!追うよ!」

俺とユイは再度【身体機能強化ブースト】を使って逃げたヤツを追いかける。

今度は上手い事魔力調整も出来たようで、思った程度の強化ができ走り出した。


「ヤツの気配はこっちじゃ!」

ジャスパは光が見えなくても気配で追えるらしい。


今度は3人で追いかけているので直線的に追いかける俺と先回りするユイとジャスパという連携プレイでヤツに追いつく!


「さぁ!もう逃げられないよ!」


ヤツの前から現れたユイにビクッとするターゲット。


一瞬遅れて別の道から合われるジャスパ。


それに気付いて退路を確認するターゲット。


「逃げ場はないよ!」

そこに現れる俺。


「また変態が出て来た・・・もういやこの町」


「誰が変態じゃい!」

つい突っ込んでしまった。


「ってその声は、さっきの露出狂!?」


「だから違うって!そんな事より、誘拐犯!その子を離せ!」


「せっかく手に入れたのに変態に渡すわけないだろっ!もう来んなよ!」

またモゴモゴ言ったかと思うと存在が希薄になった。またしても【認識疎外ミラージュ】を使ったらしい。


「【認識疎外ミラージュ】を使ったところでそれだけ光っていたら見逃さないよ!」

すぐに走り出したターゲットを逃さないように距離を詰める。


そしてこっちも【認識疎外ミラージュ】を使う。

瞬間相手がこちらを認識し難くなったためできたスキを突く!


が凄まじい反射神経でギリギリ俺の手を回避し、そのまま俺の脇を抜けられてしまった。


「もう、何しとる!」

ジャスパからブーイングが飛んできたが仕方ないじゃないか。あいつ素早いもん。


逃げられはしたがすぐに追いつくことが出来た。前回と違って今回は【身体機能強化ブースト】がちゃんと機能しているようだ。

そして捕まえようと飛びつくがいつもギリギリで躱される。しかも、俺とユイとジャスパの三人がかりでだ。こいつの反射神経どうなってんだ!?


「くっそ、すばしっこいやつ!大人しくしろ!」


「そう言われて大人しく捕まるヤツがいるものか」

うん、確かに!

いや納得してる場合じゃない。


「えいっ!おりゃっ!」

と飛び掛かりつつ、俺とユイは密かに魔力を行使していた。


「よし、完成だ!おい、これで逃げ場はないぞ。大人しくすれば痛い目に合わなくてすむけどどうする?」

飛び掛かるのをやめ正面から対峙して降伏勧告だ。


「何を偉そうに!」

と言いながら周りを見て逃げ道を探している。俺達三人に囲まれているとはいえ持ち前の素早さならが包囲網を潜り抜けて逃げ出すことは出来るという確信があり余裕の表情だ。

そしてその確信を実行すべく俺とユイの間を素早く抜ける。


「?」


脇をすり抜けるときに俺もユイも反応しつつも微動だにしなかったことが疑問だったようだが、それはそれで問題ないと踏んでさらにダッシュをかけた。

正しくは、かけようとした。


ガンッ!


見えない壁に頭からぶつかりそのまま気絶して後ろに倒れた。


「なんじゃ?」


「まぁ、見ての通り。俺とユイで周辺に【魔法結界マジックバリア】を張っておいたんだ。もちろん物理的に何も通さないくらい協力なやつをね」


「あのやりとりの中でそんな小細工をしとったのか。相変わらず賢しい真似をするの」


それは褒めてないだろ!?


「さて、気絶しているうちに確保しちゃおうか。それに赤子も無事みたいでよかった」

「だね。でもこいつを拘束するのに縄も何もないな・・・」

「俺達の服を作った感じでそれっぽいものを作るか」

「やってみよう」


そういうと俺とユイは再度黒い塊を魔力で作り出した。それに気絶したこいつを放り込んで首から上だけだしてやる。中でモゾモゾできないので袋状になったまますこし固めて完成だ。人間ダルマ状態。


「よし、なんとかなったな」

「じゃあ赤子も心配だし一度宿に戻ろうか」

「確保できたからもう【照光シャイン】は解除しておくね」

「ジャスパ、誰にも見られないように竜化して宿まで俺達を運んでくれないか」

「ふむ、ちょうど人気もないようじゃ。今のうちに行くかの」

一瞬で竜化したジャスパは黒光りしていた。この服ならばよく伸びるので竜化しても破れたりしないようだ。その姿は漆黒の竜とか言われそうな、これはこれでかっこいい。

「いくぞ!」

と声を掛けられると両手で俺達をつかみ一瞬で上空まで上昇するとその場で何度か旋回し一気に加速、その後すぐ減速したらもう宿の上空だった。

「【魔法板マジックプレート】」

俺達は透明の足場を作り降り立つ。

「ジャスパも人化していいよ」

という言葉を聞いてジャスパは一瞬で元通り人の姿に変わった。

「降りるよー」

作り出した透明の足場をゆっくり下降させ、今度は無事に宿のテラスに降り立った。

ケンとユイがうまく魔法を使えない描写がありますが、原因は酒です(笑)

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□頭脳派脳筋の異世界転生もよろしくお願いします。
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