カジット伯爵の館9
「リンダ!いいタイミングだ!」
抜刀してラムサスと向かい合っていたリンダが一瞬俺の姿を確認してニコッとしてくれた。
「小娘が一人増えたところでどうということはない!」
そういうとラムサスは懐から小瓶を取り出すと、リンダの前方地面に投げつけた!
パリーン!と割れた小瓶の中の液体が地面に漏れ出すと同時にそこから大量のスモークが発生した。
スモークの湧き出る量が半端ないからものの数秒でこの辺り一帯を埋め尽くしてしまいそうだ。
「【突風】」
視界が無くなるとめんどくさそうなので何とかその場に追いついた俺が慌てて魔法で上昇気流を発生させ、スモークを上空に散らした。
と同時にリンダが斬りかかる!さらにジーナも同時に斬りかかっていた。
前後から挟み撃ちの形で斬りかかられたラムサスだったが、身体を半身ずらすとジーナとリンダの一撃を左右それぞれの腕で受け止めていた。
いやいや、普通この二人の一撃なら腕チョンパですよ??
よく見ると袖の下から何やら植物が見える。手甲の代わりに服の下になにか植物がいるようだ。
そのままの体制で三人が固まっていたが、袖のしたの植物がどんどん延びて手の甲から先に刃が出来上がった。それを使い二人の刃を弾くとリンダに狙いを定め両手の二刀で斬りかかる。
リンダはそれを往なしながら反撃するがそれも防がれる。
パッと見、互角に見える。剣士であるリンダと互角ってすごいぜ?
しかし、ラムサスのターゲットから外れたジーナは自由だ。リンダを攻撃しているラムサスの後方から斬りかかる。が、斬りかかった時にだけ植物の刃か籠手の部分かで防ぐ。
ジーナとリンダの猛攻を防ぎつつ、リンダに対しては反撃もしているとなると、このラムサスって人はマジで強い・・・。いや、、、ちょっと変だ。ジーナもリンダもいつものキレが無いように見える。
「不思議かい?そうだろうね。先ほどの煙を直接吸っていればその場で麻痺して動けなくなったものを、上空にばら撒いたせいで効果が一気に落ちただろうがそれでも繊細な動きはできないだろう?」
最初の一手ですでに仕掛けられてたってことか。
だが、そう簡単に思惑通りに事が運ぶと思うなよっ!
「【火結界】」
俺は切り合いをしている3人を大きく取り囲む形で【火結界】を展開した。
「ジーナ!リンダ!引けっ!」
俺の声を聴いた瞬間にジーナとリンダが通る時だけ結界を部分解除し、ラムサスを捕らえた。
以前のように火だるまになりながらも結界を通り抜けられる可能性を考慮し、炎の壁は勢いも厚みも増してある。
「さてラムサスさん、捕まえたよ?」
ラムサスを挑発するように言ってやった。と、同時に俺はライカに視線を送る。
俺の視線に気づいたライカがジーナとリンダの解毒に向かった。
「これしきで捕まえたと思っているとは、君はやはり子供だな」
「降参しないならこれで終わりじゃないですよ?いけっ!ふぁんねる!!」
俺は【火結界】にさらに魔力を込めて結界内部で火の玉をあちこち飛ばした。
「なにっ!?うがああああ!!!」
炎の壁に阻まれて中の様子は見えない・・・が、魔法ががっちりヒットした手ごたえはない。
「なかなか面白い魔力の使い方をするじゃないか」
俺の全方位攻撃を受けながらまだ余裕があるのか・・。
こやつ・・・やりおる・・・。
「ならこいつはどうかな!?」
俺はさらに魔力を込めると地面から吹き上げる炎の威力が増し、範囲を狭める。
回避できるスペースがほとんどなくなったところに結界上部から炎の塊が落ちる!
「な・・・うがあああああああ」
今度はきっちり手ごたえがあった。
全ての炎が降り注ぎ終わった後、その場には人型の炭の塊があった。
あら、やりすぎちゃったかな??
と思っていると、塊にヒビが入りそこからバラバラと地面に落ちた。
そして中からラムサスが出て来た。
「はぁ・・・はぁ・・・。この程度で俺の強化した溶岩植物を抜けると思うなよ!はぁ・・・はぁ・・・」
「溶岩植物?」
「そうだ。溶岩地帯に生息する植物の中でも、溶岩の中にも自生している植物を研究し強化したものだ。そこらの岩や鉄よりも硬くなり火耐性も上がっているのだ!お前の出すひょろひょろの火などなんともないわ!」
「そんな事言ってる割に、肩で息しているだね」
軽く挑発してみた。
と、同時にジーナとリンダの様子を伺うとライカの解毒魔法で体調は復帰したようだ。
「危ない!!後ろっ!!」
ライカが叫ぶ。
俺はとりあえず横っ飛びで回避行動をとる。
と、背後から【火球】が飛んできた。
ライカの声に反応しなかったら背中に直撃していたじゃないか。あぶねぇ。。。
「ラムサス様!援護します」
見ると、ダイナさんの侍女をしていた二人がこちらに向かって走ってきていた。
走りながらも小声でブツブツ言っているので、何か魔法の詠唱をしているのだろう
「こっちは任せてにゃ!」
リンダの掛け声でそっちを見ると、ジーナとリンダが再度ラムサスに斬りかかっていた。
あっちは任せて、俺はこっちの相手をするとしますか。
走ってくる二人の侍女に向けて手を差し出す。
「【魔法弾】×2」
見えない魔力の塊の弾は相手に反応される前に侍女の足に命中、その場で倒れこんだ。
「続いて、【火結界】」
侍女が倒れこんだ周囲を炎で覆い、動きを封じた。
とりあえずこっちはこんなもんか。
ジーナとリンダの攻撃はちょくちょくヒットしているようだった。一方、ラムサスの攻撃はまともにヒットしていない。今度はさっきと違い十分押しているようだ。
しばらく様子を見ていると明らかにラムサスにダメージが累積し二人の攻撃を捌けなくなってきた。
ジーナとリンダの剣撃はラムサスにヒットしている・・・が切れないところをみるとまだ服の下に溶岩植物?でも入れているようだ。鎖帷子代わりにしては火耐性もあるしいいな・・・。ちょっと欲しい。
しかし、切れないと言っても剣撃による打撃によってラムサスの体力はどんどん削れているようだ。
「はぁっ!!!」
「にゃぁっ!!!」
「うがっ!!」
うーん、このまま続けてもいいけどそろそろ
「ジーナ!リンダ!下がって!!【魔法弾(マジックバレット】」
「ぎゃああああ」
俺の掛け声とともにジーナとリンダが間合いを取ると同時にラムサスの左の膝を魔力の塊が貫いた。
どうせズボンの下にも溶岩植物で防護しているだろうから少し強めに魔力を込めたんだけど・・・
膝から下が吹っ飛んでしまった。。。
どんどん血が出ている・・・・
「ああああ!!ああしがああああ!!!!」
これはひどい・・・やりすぎだよ。。。
とりあえずダイナさんの病気を治すために死なれては困る。が、ただ回復してしまうとまた逃げられそうだし・・・。仕方ない。あまり気は進まないけども。。。
俺は痛みでのたうち回っているラムサスに近づき、ジーナとリンダに声を掛ける
「二人とも、こいつの手を捕まえてて」
二人に手を抑えてもらい、左膝を動かないように片手で太ももを抑える。
そして右手から
「【火球】」
小さめの火の玉が左膝を焼いた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああ」
傷口は焼いて止血するという荒業だ。
血は止まったけどラムサスは泡を吹いて気絶してしまったようだ。
うん、ですよね。。。
しかし、気絶したのは好都合。しっかり武装を解除しておこう。
何やら薬品を使ったり服の下に植物を巻き付けていたり俺達の知らない知識で何かされるのはもうゴメンだ。
「ジーナ、リンダ、こいつの武装を剥がすから手伝って」
「どうするにゃ?」
「持っている物を没収するのと、服の下の植物も外しちゃおう」
というわけで三人で武装を解除した・・・といえばまだ聞こえはいいんだけど実際には服を脱がせただけなんだけどね。
ちなみに、服の下には予想通り植物が巻き付けてあった。しかし全身ではなく関節部分は動きが疎外されるからかそこにはつけていなかった。右膝も見てみたけどやっぱりここにもなかった。膝あてみたいになってたら左膝も吹っ飛ばなくて済んだかもしれないのに。まぁ上に着ている服が執事服だから仕方ないか。
その他にもよく分からない粉末が入った袋なんかも内ポケットに隠し持っていた。
「よし、武装も取り上げたし起こして話をするか。【水弾】」
ラムサスの上で水の玉を作り出し射出せずそのまま落とす。
「ぶはぁっ!!!」
いきなり顔に水をかけられて意識を取り戻したようだ。
「さてラムサスさん。とりあえずこれを」
流石に中庭で下帯一丁姿ってのは申し訳ないので、適当な布を被せてあげよう。
かなり怯えた表情になっている。
「俺を・・・どうするつもりだ?」
「簡単な話です。まずはダイナさんの病気を治してもらいましょうか」
「し・・・しかしあれは2年かけて続けた実験・・ひっ!!分かった!!!分かりました!!」
目の前で火の玉を作り出してみたらとても素直になってくれた。
脅したわけじゃないんだからねっ!
おとなしくなったラムサスを兵士に引き渡した。
流石に今の戦闘で消耗しているだろうから【小回復】をかけてあげたので左膝以外はある程度回復したはずだ。【小回復】では欠損部位までは修復できないようだ。なので土魔法を使って松葉杖を作ってあげた。
もちろん、【大回復】を使ってあげれば欠損部位も回復するだろうけど、自分のやらかした事を反省する意味でしばらくそのままにしておこうと思う。
その後、ラムサスはダイナさんから悪魔の芽を取り除く作業に取り掛かることになった。
後で伯爵にもそのことを伝えるとそれで構わないということだったし。ダイナさんを治療した後の処遇ってやつは全て伯爵にお任せした。いろいろ酷い事をしてきたとはいえ、その被害を被ったのはこの町の人達が中心だ。だからこの町の管理者に任せるのが筋だろう。
また、ダイナさんの侍女をしていた人たちはラムサスの子飼いの者・・・というよりはそれぞれ家族や恋人を人質に取られるような状況だったそうで、それらの解放によりもうラムサスに付き従うこともなくなった。ただ、脅されていたとはいえ伯爵の館からは追放されることになったようだ。まぁ、看護スキルもあるし魔法も多少使えるようだったしくいっぱぐれることはないだろう。
今後この町の管理だけどラムサスに任せていることが多かったらしいのでそれらを一から再構築となるそうで伯爵はしばらく忙しくなるなと言っていた。治安にも力を入れるし流通も適正になるよう手配するそうだ。ちなみにスラムについては新たに孤児院を作ってそちらで対応する。そこの世話係というか先生にあたる人物は軟禁されている人達のなかから希望者を募ってみるそうだ。
俺達はというと、ダイナさんから悪魔の芽を取り除く作業に10日程かかりその間はこの町に滞在してくれという伯爵からの話もあったのでそれまで滞在予定とした。
一通り伯爵との話し合いも終わり、俺とライカ、それにジーナとリンダとレンで一度船に戻る。
・・・レンはというと、実はこの屋敷に忍び込んでラムサスの研究していることや悪魔の芽について調べてもらっていたのだ。おかげでラムサスのやっていたことの裏が取れたので直接話をしたときに指摘できたんだよね。屋敷の中ではあちこちに【禁魔法】の魔法陣があったけど、無い場所も結構あったので【認識疎外】で結構自由に動けたそうだ。それでも魔族であるラムサスに気づかれないようにかなり気は使ったらしい。
そんな話を聞きながら船まで戻ってきた。
船に戻るとユイが出迎えてくれた。
「おかえり」
「ただいま!いろいろうまく行ったよ。だいたい予想通りだったしね」
「それはよかった。丁度夕食の準備も出来たところだから食事をしながら話を聞かせて」
「おなかすいたにゃーーー!!おさかにゃーーー!!」
「お肉たべたいーー」
相変わらずのジーナとリンダのやり取りを俺とユイとライカは苦笑しながら見守る。
「うん、わかったわかった。さあ、手を洗って食事にしよう」
「ところで、誰かお客様が来られているのですか?」
レンが気配を感じたようだ。
「そうだよ、そっちも食事しながら・・・ね」
「わかりました」
俺達は食事の用意が整った部屋に入ると、そこにはスピカとカイロスとフィルの三兄弟がいた。
「あ、おかえりなさい。こ・・この度はご招待にお預かり光栄で・・・」
スピカ君。言葉遣いがおかしなことになってるよ!
「いや、そんなに緊張しないで!普段通りでいいからね」
「は・・はい!」
用水路で話した時と全然違うじゃないか。人格変わったのかよ。。。
「にーちゃん変なのー」
「う、、、うるさい!」
言いながらフィルに拳骨をかます!もちろん本気じゃないけど。
「いったーーい!」
「まぁいつも通りに戻ったみたいでよかった。フィル・・よしよし。痛いのとんでけー【小回復】」
俺はフィルの頭を撫でてやりながら魔法を使った。
「すごーーい、もう痛くないよ!」
「じゃあ、そこの席について。みんなで食事にしよう」
こうして俺達のパーティー+スピカ達3兄弟で食事にした。
今回の館での騒動においてユイは何もしていないわけではなく、スピカ達と仲良くなりそして他のスラムなどについても調査で動いてくれていた。
なのでなぜここにスピカ達がいるかというと、仲良くなった結果ということになる。
レンと一緒に冒険者となったスピカだが魔族のレンとは違い、まぁ見事に駆け出しの新人冒険者。弟二人を養うような収入があるはずもない。しばらくは用水路に住んでいるという話だったけどせっかく知り合ったので簡単な魔法とかを教えてあげようと誘った結果だ。冒険者になる以上、というか冒険者でなくとも魔法が使えると何かと便利な場面は多いしね。
ちなみに、魔法を教えたのはもちろんユイだ。俺達が館でドタバタしている間に教えた。短い期間の間にスピカは風魔法の【風球】を、カイロスは【水球】を覚えることが出来たらしい。そしてフィルは【火球】を習得できてはいないものの、もう少しで使えるようになりそうなところらしい。兄弟でも得意な属性がバラバラなのは何か面白い。魔力自体の事も教えてみたけど三人とも理解できなかったようだ。人族=魔力が扱えないというわけではないはずだけどある程度適正みたいなのがあるのかもしれない。
食事の間、三人は冒険者である俺達の事をいろいろ聞いてきたので話してあげると、とても喜んだ。
そして館での出来事なんかも話してあげた。もちろん、孤児院設立の事も教えてあげたけどやっぱり三人一緒に暮らしたいそうでしばらくはスピカが冒険者として頑張っていくことになった。
であるならば、俺達があと10日間はこの町に滞在しているので、その間ここに来たらジーナやリンダは剣術を、ユイやライカは魔法を教えてあげることを約束した。
「魅惑の被虐の世界を教えてあげるよ!」
なんてことを言ったのはレンだったし、もちろん全力でスルーした。
食事の後は時間が遅いこともあって三兄弟には俺達の船に泊まっていってもらった。
船で寝るなんて初めての体験で三人ははしゃいでいたが、その前のお風呂でもかなりはしゃいでいた。
思春期真っ只中のスピカだけはユイやジーナやリンダを直視することができず、しかし少し見えてしまった女の子の裸に興奮して鼻血を出しレンに介抱されるなんてことはあったが、大事には至ってないので後々スピカが大人になった時にネチネチと話してやるネタってもんだ。




