カジット伯爵の館4
真面目な顔になったラムサスは言った。
「まず、君に頼みがある。ライカという魔法使いと共にこの町をこのまま出て行ってはくれないだろうか?」
「え?・・・どういうことでしょうか?先ほど伯爵と話した内容と違いますが・・・」
「まぁ驚くのは無理もない。君は一度下のフロアを見ているから知っていると思うが、ここには生活が出来ないような者を救うため宿泊や食事などを賄う設備がある。伯爵様には寛大とはいえ、大事な一人娘の為にそれらを容認してくれている。まぁ、そこに至るまでも結構大変だったんだがね。それはいいとして、もしこのまま君たちがお嬢様を完治させてしまったら下のフロアにいる160名を超える者たちはどうなると思う?」
「みんながみんな生活できない人達ではないのでは・・・?」
「どうかな。確かに一部の者は回復魔法の使い手だから多少働き口はあるかもしれない。が、あくまでそれは一部。それ以外の大多数は突然寝る場所もない、食事もない生活になってしまうんだ。それは何としても避けたいと思うのが人情だろ?」
「それが本当なら、そうですね」
「おや?心外だな。疑うのかい?君はあのフロアにいる者たちの身の上話を聞かなかったのか?」
確かに、キーマはスラム出身と言っていた。
が、コミュ障の俺がそんなにたくさんの人達と話なんてするわけないじゃないか。
キーマだって話しかけてきてくれたから、話せただけなんだから!
と自身満々に言えないか。
「しかし、このままお嬢さんを放置していいとは思えないのですが?」
「確かに、お嬢様は気の毒だ。だがしかし、現状のシステムがあればお嬢様は苦しむ時間はごく短く、場合によっては苦しみが始まる前に回復魔法によって癒されているんだよ。最後にもう一度君が上級回復魔法をかけて完治したと宣言し出て行く。これで君たちは自由になれる。そして君たちが出て行った後発作が起きれば再度今の看護体制に戻る。そうすれば行く当てのない人達も救われる。どうかな?」
「せめてダイナさんがある程度魔力をコントロールできるようになるまで待つことはできないのでしょうか?」
「ふふ・・・人族が魔力をコントロール出来るわけないじゃないか。もちろん君が人族だということは知っているがそれは産まれた時からその力があったのだろう?それを人は天性の才能というのだよ。そしてそれは誰しも持っている力ではない」
うーん、天性の才能というか・・・転生の才能ではあるかもしれないが・・・。
「そうかもしれませんが・・・少しでも制御できれば発作を抑えられるかもしれないんですよ?」
「逆だな。魔力とは本来危険なものだ。中途半端に齧ることでケガをしたり命を縮めたりすることもある。このようにね」
そういうと、ラムサスさんは自分の右腕を差し出すとみるみる肌が爛れていった。
「これは・・・?」
「魔力に悪い力を付与して腕に留めただけでこうなる」
「こんなことができるなんて・・・あなたは?」
「おや?気づいていなかったのかい?私は見ての通り魔族だよ」
見ての通りって、全然見た目じゃ分からんよ!魔族なら角生やしておくなり尻尾があるなり個性をアピールしてくれよ
「では、あなたならダイナさんに魔力の扱いを教えることもできるのでは?」
「もちろんそう考えた時期もあった。しかしね、私は若いころに人を一人殺しているんだ。私の初めての人族の友達だったよ。その頃私は魔力の扱いに関して己惚れていた。なんでもできると思っていた。そして簡単に人に教えてしまったため、魔力の扱いを制御できずお嬢様と同じキュリーゼフ病にかかり最後は死んだよ。あれは私が殺したも同然なんだ。もう二度と同じ過ちを繰り返すつもりはない!そして君にも同じことをしてほしくない!」
爛れた右腕が今度は元通りに戻っていく。あ、回復魔法を使ったのか。
「そんなことが・・・」
「私はお嬢様を決して死なせない!それにカジット家を衰退させない!さらにゴカジの町を繁栄させて見せる!今の私はそう想って生きているんだ。キュリーゼフ病の治療法は現在世界中を探し回っているからいつかきっとお嬢様も治るだろう。それまでに私は町の人達のために仕事を作り生活させていくだけの基盤作りをして、この町の経済状態も健全なものにしていかなければならない。」
「なるほど、あなたの仰りたいことは分かりました。一度仲間とも相談してまた来ます。それでいいですか?」
「ああ、構わないよ。そのまま戻らず旅立ってくれても問題ない」
「ライカはここに呼んでくれているんですよね?」
「そうだった、少し待っていたまえ」
そういうとラムサスさんは出て行った。
しばらくすると、ドアにノックがあった
コンコン
「はい、どうぞ」
俺しかいないから返事をする
ガチャッ
入ってきたのはライカだった。
「ライカ!」
「ケン!やっと会えたね」
そういうとライカは胸に飛び込んできた。
もはやフライング・・いや、やめとこう。
「よかった、無事だったね」
「うん、ライカこそ。あれからどうなったか教えてくれる?」
「そうだね。ケンと別々に連れられて行ったあとはね、まず回復魔法を使っていたとかっていう目撃情報があったらしくてね。それで事実確認?みたいな感じで聞かれたの。それで使えるよって答えたらこの屋敷の別のフロアに入れられて。そこでは回復魔法が使える女の人がたくさんいたんだけど、なんか当番制で順番にこの屋敷のお嬢さんを癒すみたいな事だった」
「この屋敷に来てからはたぶん俺も同じだな」
「そっか。それで一度当番になってお嬢さんのところへ行ったんだけどね。別に病気でもなんでも無さそうだし、他の人も一度も回復魔法は使わないし。なんだかよく分からない感じだったよ」
「それはきっと俺が当番に行った後じゃないかな。夜中だった?」
「そうそう」
「なら間違いないね。俺が【大回復】を使ってみたんだ。するとその後一度も発作をおこさなかったって聞いたからね」
「そっかぁ」
「それで、今朝もう一度当番になった時にもまだ発作起こしてなかったから回復魔法の効果なんだと思う。で、その当番の時にカジット伯爵に呼ばれてね」
「お嬢さんを治してあげる代わりにこの館の出入り自由、パーティーメンバーを含めた町の出入り自由ってのを約束してもらったんだ。それでまずはライカと合わせてほしいってお願いしたらここに来たってわけ」
「そっか、いろいろあったんだね。でもどうやって病気を治すの?【大回復】で治ったの?」
「いや、それがね。たぶん治ってないと思う。発作が起きるまでの間隔が長くなっただけで原因とかよくわからないもん」
「じゃあどうやって治すの?」
「お嬢さんに魔力を扱えるようになってもらおうと思ってね。そうすれば不自然な流れも故意に自然に流してやることができるようになるでしょ?」
「そうだけど・・・どうやって?」
「昔ライカにしたの覚えてる?魔力の存在を認識させるために俺の魔力をライカの体内を巡らせたやつ」
「ユイと一緒にやってくれたやつね、もちろん覚えているよ。あの時の衝撃はすごかったもん」
「ライカは才能があったのからその後自分でコントロールできるようになったけど、村の子供たちにも試したけどダメだった、あれね」
「そうだよ、お嬢様は人族なんでしょ?認識できるのかな?」
「それがね、病気のせいで不自然な流れになった部分を感じ取ることが出来ていたし、一度魔力を流したら何かしら感じ取ってはいたから不可能じゃないと思うんだ」
「それはすごいね!だったらボクも手伝うから覚えてもらおうよ」
「そう思っていたんだ。だけど、さっき伯爵の側近でラムサスって人とあったんだ。彼は魔族でもちろん魔力の流れを感じ取れるし扱うこともできる人だったんだけど、その人の話だと安易に魔力の流れを教えてしまうことに反対された」
「え?どうして?」
「それが、過去に人族に教えたことによって魔力が暴走して最後は亡くなってしまったらしいんだ。だから同じことが起こる危険があるというんだよ」
「でも、、、だったらどうするの?」
「どうしようか困ったなぁと思って。でも、とりあえず一度みんなの所に戻ろうかな。できれば同じ魔族のレンにも話を聞いてみたいし」
「そっか。じゃあ一度船に戻ろうか」
「そうしよう。行くよ!」
俺は立ち上がると部屋を出た。ライカもすぐ付いてくる。
部屋を出たところに兵士がいたので館の外まで案内してもらった。
館を出たところで困った。どこだここ。
連れてこられるときは馬車に乗っていたのでどうやってここまで来たのか分からない。
「どうやって帰ろうか・・・」
とりあえず現在地が街はずれであることは分かった。奥にすすんでも山があるだけでだし。
ということは町はこっち・・・だよね。
領主だから町の真ん中に館があるのかと思っていたが端っこに館を作るなんて意外と遠慮がちな領主なのかな?
「分からないけど、町の方に歩いてみようか」
「そうだね」
そういって俺とライカは歩き出した。
「その、レンってあれからどうなったのかな?」
「それは俺も心配しているところだ。ギルドで登録した後俺達と合流できないからユイのところに戻ってくれてればいいんだけど」
「奴隷が嫌で逃げ出しちゃったとか、ないかな?」
「奴隷がイヤってことは無いと思う。本人の希望が奴隷だったわけだし。それにとりあえず逃げ出そうとはしてないみたい。ほら、契約のこと覚えてるでしょ?」
「ああ、そっか。でもその契約が発動してほしくないな」
「そうだね」
「ユイやジーナ、リンダも心配してるだろうね」
「一応、ウンディーネを使ってユイに伝言を頼んでいるんだ。まぁユイがウンディーネを召喚してくれないと伝言は伝わらないわけだけど、なんとなくちゃんと伝わってるような気がするから大丈夫だと思うよ」
「え?精霊様にそんなことを??」
「うん。あの屋敷でね。でもあの屋敷あっちこっちに【禁魔法】の魔法陣が敷かれてたからウンディーネのやつすぐに戻っていったんだよねー」
「えー、、、。まったく、精霊様にそんなこと言うの、ケンくらいだよ」
「ご主人さまーー!」
お?
「おや?」
「レン!!どうしてここに??」
「ご主人さま、探しましたよ!」
「いろいろあってね。よくここにいるって分かったね」
「ギルドで登録したあと宿に戻ったらご主人様いないからしばらく待っていたんです。でも戻ってこないから探しまわったんです。なんか、兵隊に連れて行かれたなんて話も聞きましたし。それで兵隊の詰め所を回って一番遠いここまできたんです。そしたらご主人様の気配があったのでもう嬉しくて嬉しくて!!」
なんと、そんなにサガシテくれたのか。
「そっか、急にいなくなって悪かったね。何やら反逆罪だかなんだかの罪状で連れてこられちゃって。でもま、とりあえずそれらのことはなんとかなったんだ」
「そうですか!さすがご主人様です。では、これからどうするのですか?」
「それなんだけどねぇ、、、カジット伯爵の娘がキュリーゼフ病でね。その治療をしてたんだけど根本的な治療法ってないものかと考えたりしていたんだ。で、レンや他のみんなにも一度相談したいからまずは船に戻ろうかと思う」
「キュリーゼフ病・・・それはまた珍しい病気ですね。ではまずは船に戻るのでしたら港へ道案内しますね!」
「うん、頼むね」
「はい!こちらです」
俺達はレンの道案内に従い港へと歩き出した。
「あ、そういえばレンはユイと合流してなかったんだね」
「はい、船に行けば会えると思いますがまずはご主人様を探すのを優先しました。まずかったですか?」
「いや、いいんだ」
ということは、ウンディーネの伝言を聞いたユイとは入れ違いになったか?
ちょいとウンディーネに聞いてみるか。
俺はチョーカーの水印に触り魔力を送る。
すると水印が光りチョーカーから外れて人型になっていく。
『はいはーい。やっとあの居心地の悪い空間からでてきたのねー』
「ああ、てか精霊でも【禁魔法】って苦手なんだな」
『苦手っていうか、別にこの私の力を制限なんて出来るはずないじゃない。ただ居心地が悪いだけよ』
「それを苦手って言うんじゃ・・・まぁいいか。それよりも、この前の伝言ってユイに伝えてくれた?」
『えっと、なんだか面倒な事になってるから数日待っててくれってやつなら伝えたわよ?』
「えと、それ端折りすぎじゃないか?レンをそっちで引き取るとかそういう部分は伝えたのか?」
『えーっと、どうだったかしら・・・』
おい、なぜ明後日の方を見ながら答える?
「俺の目を見てしっかり答えてもらおうか!」
『だ・・・だいたいね!この精霊様をメッセンジャーにしようってのがそもそもの間違いなのよねっ!』
こいつ・・・こんな簡単なことも伝えれないのか。。。
「ねぇご主人様。ご主人様は人族なのになんで召喚魔法を使えるのですか?」
「ああ、このダメ精霊の物欲で使えるようになったんだ」
『ちょっと!!ダメ精霊とは聞き捨てならないわね!しかも物欲~?どういうことよ!!』
「お前、俺の魔力が欲しくてこの印付けたんだろ?」
『うっ・・・』
「へぇ・・・でもそれにしても精霊様を召喚できるなんてすごいですね!」
『なによ、この子ちょっとは見どころありそうじゃない!』
ウンディーネがレンの周りを飛び回っている。
自分をほめてくれる人が珍しいのか。。。
「いえいえ、私はただの性奴隷ですから」
「え?ちょっとまて。レン、これ見えるのか?」
「はい?見えるというか、、、精霊様っていうのは感じますよ」
「いや、でも今会話してなかったか?」
『ふふん。この私と会話できるのは心が綺麗な純粋な子供っていうことね!ちなみにあんたは違うからね!』
「でもレンって中身は18禁でいっぱいだし、子供でもないぜ?」
「ちょっとご主人様!僕はいつだって純粋に性なる道を突き進んでいますよ!」
「それが18禁なんじゃねーか!ってかウンディーネ!めんどくさいから俺のパーティーメンバーにだけは姿が見えるようにしてくれないか?」
『もぅ・・・仕方ないわね。じゃあメンバーがそろった時に呼びなさい』
「わかった、そうするよ」
『それまでにしっかり魔力を送るのよ!じゃあねっ!』
そういうとウンディーネの体が光、どんどん小さくなると俺のチョーカーに戻った。
「いいなー、レンには精霊様が見えたんだ」
そうなのだ。心が綺麗で純粋なライカには見えていないのだ。やっぱりあいつのいう事は間違っている。
「見えるというか、存在を感じ取れるんですよ。魔族なのでみんなよりそういう感覚は鋭いかもしれません」
「ライカ、安心しろ。今度みんなにも見えるようにしてもらうから」
「うん、楽しみにしてるね!」
とりあえず分かったことはウンディーネはやっぱり使えない子だということだ。
いや、ちょっとそんな予感はあったんだけども。。。
それはともかく、伝言がきちんと伝わっていないということはユイ達はおそらく船にいる。
まずは合流しよう。
「じゃあ、帰ろうっか!」
「うん!」
「はい、港はこちらです!」
そうして俺達はレンの道案内により無事に港に辿り着くことができたのだった。




