カジット伯爵の館2
通路を少し進むと行き止まりになっており、扉が左右にそれぞれ一つあったので当番を出しているという右の扉を入ってみた。
そこは学校の教室の倍くらいの広さのある部屋だった。
入って右側は大きな黒板があり、そこには当番表と思われるものが書かれていた。その横には一人の兵隊がイスに座っている。
正面の壁には窓がいくつもあったが、すべて鉄格子がはめられていた。
部屋の中は大きな柱が4つあり、それいがには長椅子があちこちに置かれている。
一人で座っている者、二人組で何か話している者、数人のグループで何か話している者などいろいろだったが大体40人位のいろんな種族と年齢層の人がいた。
そして左の壁には扉が一つあった。
おいおい、なんだこの空間は。こんなにたくさん人がいる中に放り込まれたらコミュ障の俺は困っちゃうじゃないか!
とりあえず当番表に俺の名前が出ていないか確認してみるか。
黒板の前まで歩いて行き書いている内容を見てみると4×4のマス目の表が書いてあった。
一番上の行から、14時・16時・18時・20時。下3つの行はそれぞれ人の名前と思われるものが記載されている。黒板の上には時計があったので時間を見ると、今は14時30分過ぎ。となると一番左の列に書いてある人が今の当番ってことか。
あー、いつの間にかお昼も過ぎちゃってたか。そういえば朝もお昼もご飯食べてないなぁ・・・。
そんなことを考えると、お腹がすいてきた。
「よお、にいちゃん。新入りかい?」
黒板を見ている俺に声を掛けて来たのは一人の少年だった。見たところ俺より背も高いがハイティーン位の子供のようだ。この世界ではもう子供じゃないかもしれないが。
「そうです。今ここに来ました。ケンと言います」
「お?礼儀正しいな。いいとこの子かな?俺はキーマ。こう見えてもここに来る前は冒険者だったんだぜ」
「それは偶然ですね。僕も冒険者ですよ」
「ヘー、偶然だな!まぁ分からないことがあったら教えてやるから何でも聞きな!」
「分からないことだらけではありますが・・・食事ってどうしているのでしょうか?」
「食事?ああ、それならついてきなっ!」
そういうと部屋の端から端まで移動して扉を開けた。
扉の先はまたしても同じ位の広さの部屋の中に今度はテーブルとイスがいくつも置かれているところだった。こっちに20人くらいはいるだろうか・・・。
「ここが食堂。んでこっちだ」
そういうと食堂の反対側までどんどん歩いて行く。
反対側の壁は一番左側に縦横1メートルほどの鉄格子がはまったところがあり、その横には高さ1メートル位のところが台になっており、そこに高さ20センチ程ぽっかり穴が開いていた。
キーマは鉄格子のところに行き、向こう側にいるおばちゃんに向って声を掛けた
「すんませーん、食事を2つお願いします」
そういうと、中で食事を作ってくれたようで長方形のお盆に乗った食事が二つ出て来た。
俺とキーマはそれを受け取ると開いているテーブルを探して座った。
出て来た食事はパン・サラダ・ゴカジ芋と野菜の煮物だった。あっ、よーくみたら極少量の肉っぽいものもあった。
「大体朝8時くらいから夜は20時まで食事はここでできるぜ」
「なるほど、ありがとう。じゃあさっそくいただきます」
そういうと、俺とキーマは食べ始めた。
「んで、当番表に名前はあったのか?」
「いえ、なかったです」
「という事は、3時間以上は時間があるってことだな」
「そうだと思います」
俺は遅めの昼食だったため、ガツガツ食べた。キーマも負けじとガツガツ食べていた。
「キーマさんは・・・」
「ああ、俺の事は気軽にキーマって呼んでくれていいぜ」
「じゃあ、キーマはいつからここに?」
「ん?俺は1年半くらい前かなぁ。冒険者になる前は日々の食事もままならなかったからな。それに比べたらここは天国だよ。まぁ当番にあたってハズレのタイミングだと結構ツライんだがな」
「当番ってそんなにツライの???」
回復魔法使うだけじゃないの??
「そりゃそうだぜ?3人で順番に回復魔法をかけ続けるんだ。1時間魔法を使いっぱなしなんて時には終わったらヘトヘトになってしばらく動けないぜ」
「あれ?当番って2時間じゃないの?」
「いや、1時間だぜ」
「だって、当番表には2時間毎になってたよ?」
「当番は1時間。そのあとの1時間はたぶん女性フロアから当番が来るんだと思うぜ」
「ああなるほど。じゃあ1時間3人で順番なら一人当たりの持ち時間は20分。そこまでキツイの?」
「まぁやってみれば分かるよ。結構キツイぜ」
あー、そっか。見たところ駆け出しの冒険者だから魔法に慣れてないのか。
「そっか。そういえばさっき冒険者になる前はって言ってたけど、何してたの?」
「俺はこの町のスラム出身なんだよ。聞きたいか?」
「えと・・・少し・・・だけ」
正直聞きたくない。が、聞いてしまったので微妙な返事をした。
「まぁそうだろうな。スラムの子供は汚くて野蛮なんて思われてるからなぁ。。。でもな、実際はそうでもないんだぜ?俺のいたグループは人数が多いほうだったから揉め事なんてほとんどなかったし縄張りも広かったしな。一般人に迷惑なんてかけてないと思うぜ?綺麗か汚いかと言われたら、ちょっとは汚かったかもしれないけどな」
「ははは・・・」
なんて返したらいいんだよ。
「でもな、2年前に兵隊がやってきてな。回復魔法を使えるなら屋敷で面倒見るって言われてたわけよ。俺はその時魔法なんて使えなかったんだけどすぐに冒険者になって魔法を覚えてここに来たってわけよ」
「回復魔法を使えない他の子達はどうなったの?」
「なんでも、魔法を使えない子供たちにもなんか仕事をさせて報酬を出すみたいな話もあったなぁ・・・。俺はすぐに魔法を覚えるのに必死だったから詳しくは知らんけどな。でもスラムのみんなはそれで食べていけるようになったはずだ」
なるほど、そうやってスラムの子供達に町に不法侵入している人や回復魔法を使える人が隠れていないか見張りをさえていたんだな。
「スラムと兵隊って敵対してるんじゃないの?」
「ああ、そうだぜ。だがスラムの子供ってのは逞しいんだ。兵隊だろうがなんだろうが利用できるものはなんでもするんだぜ。まぁ反対したグループではどこかに連れていかれたみたいな話も聞いたことがあるけどな。まぁ俺の話はそんなもんだ。で、そっちは?」
「僕はサイージョ村出身でバリっていう港町で冒険者になったんだ。そしてシーマからこの町に来た。兵隊に見つからないようにこの町に入ったんだけど見つかっちゃってここに来たってわけ」
「兵隊に見つかるなんてドジなヤツだなー」
「見つからないようにはしてたつもりだったんだけどね。おかげで仲間とも逸れちゃったんだ」
「仲間はどうなったんだ?」
「一人は女の子で回復魔法を使えるからこの屋敷のどこかにいると思う」
「ああ、女性フロアにいるのか。ってことはコレか?」
小指を立ててニヤニヤしながら聞いてくる
「そういうんじゃないよ。村の幼馴染みだよ」
ライカは子供だからね。俺達の間にそういう感情はないだろう。
「ほう・・・可愛くないのか?」
ニヤニヤ顔で聞いてくる
「すっげー可愛いよ!」
いつも一緒にいたから忘れがちだけど、ライカは可愛い。なんせ転生して二度目の人生を歩んでいる俺が言うんだ、間違いない。
「そうか!片思いなのか?」
「だから、そんなんじゃないって」
「じゃあそういうことにしといてやるよ」
そんな話をしていたらいつの間にか二人とも食事は終わっていた。
ってか、終わってからも話し続けていたわけだけど。。。
ちなみに、食事を受け取ったところへ食器を返却して次の扉を開けた部屋が寝室だってこともキーマに教えてもらった。寝ている人は20人くらいだろうか。広さは同じ位のスペースに3段ベッドがたくさんあるから全部を見て回ったわけじゃないけど、おおよそそのくらいだ。
食堂からもう一つの扉を進むと水場があった。まぁ、用を足すのと体を清めるための場所だ。
「ここには全部で80人くらいはいるのかな?」
黒板のあるフリースペースと呼ばれていた部屋の空いている椅子に座っている時、キーマに話しかけた。
「そうだなぁ、たぶんそのくらいだろうな」
「女性フロアにも同じ位の人数がいるのかな?」
「知らないけど、そーじゃね?」
「両方合わせても160人位だとしたら、どうなのかな?」
「どうって、どういうことだよ?」
「この町の回復魔法を使える人ってそのくらいの人数なの?」
「ああ、そういうことか。俺がここにいる間に何人も兵隊に連れていかれてたのを見たから、もっとたくさんいたはずだ。特に最初の半年は多かったな」
「連れていかれたってどこに??」
「さぁな。でも一度連れていかれたら二度とここには戻ってこないな」
「町に帰ったの?」
「どうかなぁ・・・。全部ではないがだいたい連れていかれるヤツってのは、兵士に反抗したり無理やりここを抜け出そうとして見つかったヤツだったりだからな。何事もなく町に戻ってるってことはなさそうだぜ」
「なるほどねぇ」
反逆罪とかなんとかでよからぬ事になってるんだろうな・・・。
「さてと、俺は当番が終わったところで疲れているからそろそろ休むよ。またな」
「わかった、おやすみキーマ」
そういうとキーマは寝室へと向かっていった。
俺は一人になったのでなんとなく窓際の椅子に腰かけて外を眺めてみた。
窓から見える景色は敷地内に運動場くらいの庭がありそこで兵士が訓練していた。
よーく見ると、訓練を指導しているのは白い服を着た兵士で訓練しているのは黒い服を着た兵士だ。
さすが兵隊。指導している人のいう事にはキビキビ動いている。
視線を動かして敷地の外を見ると、すぐ山があった。
兵隊使って自分の娘のためにヒーラーを軟禁したりしてる横柄な伯爵の館って言うくらいだから町のど真ん中にあるのかと思っていたけど、街並みはここから見える範囲にはなさそうだ。もしかして、街はずれとかなんだろうか。それとも反対側に町があるのかな?
そんなことを考えながらボーっとしていたら俺もだんだん眠くなってきたので寝室に移動して開いているベッドに潜り込んで寝た。
目が覚めるとすっかり暗くなっていた。
黒板のあるところまで戻ると、当番表が更新されていて遂に俺の名前も書かれてあった。
それによると、さっそく22時かららしい。
時計を見ると19時50分になっていた。てことは、次じゃないか!
当番なのはいいとして、時間になったらどうすればいいのかな?
キーマにでも聞こうかな。。。
いや、すぐ近くに兵隊さんがいるから聞いてしまおう。
「すみません、当番の時間になったらどうすればいいですか?」
「ああ、それならその扉を出て、目の前の扉を開けて中で待っていなさい」
そういえばここに来る前にまだ入っていない扉があったな。
そこが病人のお嬢さんがいるところなのかな。
「分かりました」
さてと、当番になったらあっちに行くことは分かったけどそれまでどうしようかな。
んー、何か忘れているよーな。。。
あ!
晩ご飯!!!
確か20時までとかいってたな。
今何時だ!?
再び時計をみる。
19時57分!!
よし、間に合う!
俺は急いで食堂に行き、鉄格子のところでご飯を注文した。
「すみません!食事をお願いしまーす!」
「はいはい、そんなに慌てなくも大丈夫だよ。ちょっと待ってな」
食堂のおばちゃんってのは前世含めていい人が多いのかな。
しばらくすると、定食が一つでてきた。
「今日までの食材剰らせたらもったいないから大盛りにしておいたからね。食べ盛りなんだからしっかり食べるんだよ!」
「わあぃ、おねーさんありがとぅ!」
「あら、おねーさんだなんて嬉しいねぇ!じゃこれはサービスだよ!」
そう言って出て来た定食のお盆の上にミカンぽいものがのせらせた。
「ありがとーございます!」
子供扱いされたら子供っぽい返しになってしまうのは、この世界に来てから慣れてもはや条件反射になっている。
俺は大盛り定食をテーブル席に持って行くと、寝起きとか関係なくガツガツと食べた。
ゴカジ芋中心に他も野菜が入っている野菜炒めにゴカジ味噌で味付けされていた。これはご飯が欲しくなる。
が、ここにはパンしかない。
贅沢言ってても仕方ないのでもちろん美味しく頂きました。
食事が終わってしばらくまったりしていた。
周りを見てみたがキーマはいなかったし、他に顔見知りもないし俺は黒板のある部屋でボッチだった。
少しすると、当番は所定の位置に行くようにっていう兵士の声かけがあったので俺はフリースペースを出て反対側の扉を入った。
そこは上がる階段がある部屋だった。
ただ、普通の階段よりもずっと段数が少ない・・・半分くらいだろうか。
その階段の下のところに椅子が3つ置かれていた。
他の当番の人がそこに座っていたので、俺も並んで座ることにした。
「当番は入れ!」
時計が22時を指すころ、階段の上から声が掛かった。
他の当番の人達について俺も階段を上がった。
段数が半分位なので、半階上に部屋があるようだ。
部屋に入ると中央に品のいいベッドに寝かされたご息女さん。たしかダイナさんだったっけ。
その両サイドに御付きっぽい侍女。
壁の右側には窓があり丁度正面にはこちらと同じような扉があった。
こちらの扉と正面の扉に兵士が一人ずつ。
左側にも扉があったがそちらには兵士はいなかった。
扉を入ってすぐ、壁際にある椅子に座るよう言われたのでその通りにした。
「お、今回は容体が落ち着いてるぜ」
当番の一人が言った。
「そのようだ。ついてるぜ」
もう一人の当番がそれに反応して小声で言った。
その時、兵士の視線がこちらに向いたので二人とも黙ってしまった。
どうやら今は落ち着いているらしい。
その後も15分くらいは落ち着いていたが、突然ベッドが揺れた!
「ぅぅ・・・」
「当番はこちらへ」
侍女の人に言われて俺達3人はベッドの傍まで行った。
ダイナさんは見事に病人って感じで色白で瘦せ細っており、、、てか窶れていると表現したほうがいいか。
そしてまさに今、肌が爛れはじめていた。
「じゃあ俺から行く。光の精よ、癒しの力となれ!【小回復】」
そういうと、最初に小声でしゃべっていた当番が手を差し伸べて魔法を使った。
爛れ始めた肌が魔法により癒されていく。
「ぅ・・・ぅ・・・ぅ・・・」
しばらくすると、肌は元通りになりダイナさんは落ち着いた寝息になった。
「ふぅ・・・とりあえずこれで大丈夫だろう。次は頼んだ」
そういうと、魔法を使った当番は椅子に戻って座った。
しかし、何の前触れもなくいきなり肌が爛れだすとかすごい病気だ。
魔力の流れが影響しているって言ってたけど、魔力の流れなんて見えないからどんな事が起こっているのか分からない。次に発作が起こった時はもう少し注意して見てみよう。
そう思ったらすぐだった。
「ぅ・・・ぅ・・・」
ダイナさんが苦しそうな声を出した。
これと言って見た目の変化はない・・・よな?
「たぶん、これからだ。発作の予兆みたいなのが分かるらしくてな」
そういうと、もう一人の当番がいつでも回復魔法を使えるように構えていた。
「ぁ・・・あああああああ」
苦痛のうめき声と同時に腕が痙攣し始めた
「光の精よ、癒しの力となれ!【小回復】」
構えていた為すぐに魔法を使う当番。
「ぁ・・ぁ・・・・・はぁ・・はぁ・・・」
ダイナさんはそれでまた落ち着いた。
「これで大丈夫だろう。次は頼んだぜ」
そういうと、俺を残して壁際に行くと椅子に座った。
次発作が起こったら俺の番ってことか。




