剣気
夏真っ盛り。
いつものように剣術の稽古をしていた。
何度も素振りをしているといつもよりも研ぎ澄まされていく実感があった。
それは素振りを繰り返すほどに鋭さを増していった。
体内の魔力の流れはいつもよりずっとスムーズに流れている。
そして自分の体だけではなく持っている木刀にも体内と同様に流れていた。
午前中の訓練では特に【身体機能強化】は使っていない。
素振りを続けていくと体と木刀に薄い膜が出来、淡く輝いているように見えた。
ユイを見ると同じような状態になっていた。
そんな状態にアスラも気づいたようだ。
「お前たち、ちょっと模擬戦をやってみろ」
ユイはジーナと、俺はリンダとの模擬戦だ。
アスラの「はじめ!」の掛け声で模擬戦スタートだ。
俺はとりあえずまっすぐに、上から振りかぶって切りかかった。
いつもよりずっと鋭い一閃ではあったが、リンダは見切っていたようで剣で受け止める。
その瞬間、相手が俺の一撃を受け流そうとしているのが分かった。
そのため剣をすぐに引いたら、リンダは予想と違う動きのため微妙に体制を崩した。
いつもなら隙でもなんでもない程度の崩れ。
しかし、微妙に重心が右に寄っているのが分かったので逆の左から一閃。
リンダはかろうじて俺の剣を受けることが出来たが、一撃の衝撃をうまく逃がすことができずさらに体制を崩した。
再度左からの一閃を首筋のところで寸止め。
「ま、まいったにゃ」
「よし、そこまで!」
「急にどうなってるにゃ」
確かに今までのリンダとの模擬戦での勝率は4割程度。
それもだんだん負け越しが増えていっていた。
それがここまであっさり勝てたのは久しぶりだった。
横を見るとユイもあっさりジーナに勝利していたようだ。
「今日はなぜか剣が自分の手足みたいに動くんだ。それに剣を交えると相手の状態までなんとなく分かるというか。。。」
「それは剣気を纏っている状態だな。一流の剣士は常にそういう状態にある。お前たちが早くもそれに目覚めるとはな」
「剣気ですか・・・」
「剣気を飛ばして離れた敵に攻撃することもできるし、剣気を貯めていつもよりも威力のある一撃を出すこともできる」
「魔力の扱いと似ているものを感じます」
「なるほど、それで剣気に目覚めるのが早かったのかもな。剣気を極めることが剣の道を極めることに通じる。これからも精進するように」
「「はい」」
「ずるいにゃ!私たちもそれができるようになりたいにゃ!」
「よし、よく言った!素振り500回追加だ!」
「ぎゃーーーー」
いきなり稽古の量が増えたことに渋い顔をするジーナとリンダ
「それもただ振り回すだけではダメだ。一回一回しっかり集中して振るんだぞ」
「わかったにゃ!」
それでも俺とユイの急激な強さに魅せられたのか、素直に素振りを開始した。
俺達も剣気を纏っている状態で素振りを続けた。
稽古が終わるといつの間にか剣気は消えていた。
その日以降、稽古の途中で剣気が纏える時とダメな時があったが、
少しずつ纏えることが増えてきた。
夏が終わるころには大体毎日纏えるようになった。
そのころにはジーナとリンダもたまに剣気を纏えるようになっていた。
夏の間、昼間ライカに泳ぎ方を教えるときはジーナとリンダにも教えていた。
そのため、見た目犬と猫なのにクロールで泳いでクイックターンまでできるようになっていた。
また、ライカと一本杉平原で魔法の実験をしている時には
ジーナとリンダは水風呂で模擬戦をしていたらしい。
聞くと、外は暑いから。ということだった。
水の抵抗をものともせず動けるようになっていたのでかなりいい訓練になっていたようだ。
そのため、夏が終わるころにお互い剣気を纏って模擬戦をすると、やはり負けることが増えていた。
あの二人の上達スピードは羨ましい限りだ。
夏が終わるころと言えば、うちのお風呂が村中で話題になっていた。
噂を聞きつけた村人がうちにお風呂に入りに来るということが恒例となっていた。
もちろん、男女時間帯をずらして入ってもらっていたが、
俺達は子供特権で誰が入っていても問題なく入れた。
女性が入っている時に俺達もたまたまお風呂に入るということが多かったかもしれない。
たまたまだよ。
おかげで村中の女性の裸体を拝むことが出来た。
たまたまね。
それにお風呂を借りに来た村人は何かしら手土産を持ってくることが多かった。
そのため、うちの食卓はいつもよりも豪華になった。
お風呂効果が食卓にまで影響を及ぼすとは、意外な収穫だ。
夏が終わる頃ということは、ジーナとリンダとのお別れの時期でもあった。
獣族の大移動でそろそろ南に来ているかもしれないからだ。
俺達も精霊都市シーマまでお見送りに行きたいとお願いしてみたが、
シーマ以外の場所に移動している可能性もあることから却下された。
それにもう少し大きくなったらシーマには連れて行ってあげると言われた。
ジーナとリンダはみんなにお別れの挨拶をすると、アスラと一緒に旅立っていった。
俺達はまた会おうと約束をして旅立つ二人を見送った。
1か月ほどしてアスラが帰ってきた。
どうやら獣族はシーマの近くに来ていたようですぐに見つけることが出来たらしい。
無事にジーナとリンダも家族の元に引き渡すことが出来たようでなによりだ。
こうしてジーナとリンダは親元に帰っていき、俺達は日常へと戻っていった。




