(02-1)節分
新暦ではそろそろ二月も終わりに近づく頃。明里の感覚ではようやく二月の始まりだった。
旧暦の如月。
赤峰神社の境内は冬の名残を含んだ冷たい空気に包まれている。
今日は土曜日。朝からのお手伝いが一段落し、明里は社務所の縁側に腰を下ろしていた。隣には神主さん。湯のみから立ちのぼる湯気がゆっくりと空に溶けていく。
「そろそろ節分ですけど……」
明里がふと、そんなことを口にする。
「ここは毎年何もしませんよね。どうしてですか?」
神主さんは少し考えるように間を置いてから穏やかに笑った。
「昔はね、豆まきをしていた時期もあったよ。でも今はどこもかしこもイベントになってしまっただろう? 人を集めるための節分、っていうのも……なんだか妙な気がしてね」
明里はうなずきながら境内を見渡す。静かなこの場所で拡声器や特設舞台が並ぶ様子は確かに想像しづらい。
「そもそも節分は本当は年に四回あった行事なんだよ。春・夏・秋・冬、それぞれの始まりの前日が節分。今は春だけが残ってしまったけれど……それも少し淋しいものです」
「そうですよね」
明里は膝の上で手を組んだ。
「豆をまくのは『魔を滅する』っていう語呂合わせですよね」
「うん、それもあるね」
神主さんは頷きつつ少し声の調子を変えた。
「でもね、使う豆は必ず炒った大豆だ。生の豆だと芽が出るだろう? 災いが芽吹く、なんて言い方もする。だから芽の出ない豆を使うんだよ」
「……なるほど」
明里は静かに息を吐いた。言葉の一つ一つがゆっくりと胸に落ちてくる。
季節の区切り。
目に見えないものへの配慮。
そして、
人の都合ではなく巡りそのものを大切にする考え方。
「如月はね」
神主さんがぽつりと続ける。
「寒さが一番厳しいけれど、その分、春に向けて準備が進む月だ。表には見えなくてもちゃんと動いている」
明里は縁側の先に残る薄い雪を見つめた。




