(01-6)小豆粥
繭玉飾りがひと段落したころに部屋の戸口から母の声がした。
「できたよー。あったかいうちにどうぞ」
振り向くと、湯気を立てたお椀を盆に乗せた母が立っている。ほんのり甘い小豆の匂いが部屋に広がった。
「ホントは朝に食べるものなんだけどね。今日は特別ってことで」
そう言って母はにこっと笑う。
「あ、これこれ。去年もここで食べたよね」
楓が思い出したように言う。
「うん、覚えてる。なんか落ち着く味」
美智もお椀を受け取りながら頷く。
「小豆粥って明里の家でしか食べたことないかも」
その言葉に祖母は少しだけ目を細めた。
「そうかい。最近は作らん家も増えたんやろうねぇ」
どこか懐かしむような、少し淋しそうな声だった。
明里は小さく息を吹きかけてからひと口すくう。やさしい甘さと米のとろりとした感触が体の奥にしみていく。
「赤い色の食べ物にはね、昔から魔除けの意味があるんよ」
祖母がぽつりと言う。
「小豆粥は邪気や疲れを払ってくれる。正月の締めくくりに体と心を整える食べもんなんや」
「へぇ……」
楓と美智はなんとなく背筋を伸ばしてお椀を見つめる。
「じゃあ、テスト前に食べたらいいかも」
美智が冗談めかして言うと、
「それは毎日作らなあかんなぁ」
と祖母がくすっと笑い部屋の空気がやわらいだ。
明里は黙ってもう一口小豆粥を口に運ぶ。
旧暦の一月がこうして静かに身体の中に収まっていく気がした。




