(01-5)小正月
二月十二日は旧暦の一月十五日。
家に着くと、明里がいつものように声をかける。
「ただいまー」
「おじゃまします」
楓と美智が少し揃えた声で続く。店先には甘いあんこの匂いが残っていて、奥からは小さく鍋の音がした。三人はそのまま店を抜け奥の部屋へ向かう。
「おばあちゃん、連れてきたよ」
「おやおや、今年も来てくれたんかい」
布団の脇に座った祖母の顔が明るくなる。机の上には白い団子と色とりどりの紙、枝がきれいに並べられていた。
「もう準備してくれとったんや」
「昨日からちょっとずつな。手ぇ動かすの楽しみで」
三人は座り込んで団子を丸め枝に結びつけていく。作業をしながら話題は自然と学校のことへ移る。
「今度の数学、絶対むずいよね」
「英語も小テスト多すぎ」
「明里は相変わらず落ち着いとるなぁ」
「だって今日小正月だもん」
そんな他愛のない会話の合間に楓がふと手を止めた。
「ねえ、おばあちゃん。小正月ってことはさ……大正月もあるの?」
祖母は少し笑ってうなずく。
「あるよ。今のみんなが言う元旦、あれが大正月」
「じゃあ、小正月は?」
「一月十五日。最初の満月の日やね」
「へえ……」
団子を枝に結びながら美智が首をかしげる。
「でも、なんで“小”なんだろ」
「大正月はな、男も女も家族みんなで新年を迎える日。でもその後は、昔は特に女の人がずっと忙しかったんよ」
「忙しい?」
「正月の準備に、客の世話に、片付けに。だからな、小正月は一段落つく日」
祖母は少し間を置いて穏やかに続ける。
「女正月、って言うこともある」
「……女正月?」
楓と美智が顔を見合わせる。
「なんか……変な感じ」
「ね。正月に男用とか女用とかあるの?」
「今の感覚やと、そう思うやろねぇ」
祖母はくすりと笑う。
「でもな、その頃の人らにとっては“休める日がある”ってのが大事やったんよ」
明里は黙って繭玉を結びながらその言葉を聞いていた。
忙しさが一息つく日。
満月の光の下で区切りをつける日。
「……だから小正月、なんだね」
ぽつりと明里が言うと、祖母は満足そうにうなずいた。
「そうそう。よう分かっとる」
枝に揺れる繭玉はまだ素朴で不揃いだけれど、部屋の中はいつの間にかやわらかくあたたかな空気に包まれていた。




