(01-4)バレンタインデー
節分の次はバレンタインデーがやってくる。
教室の空気はいつもより少し甘い感じ。
「やっぱ手作りだよねー」
「えー、失敗したら最悪じゃん」
「でも市販だと本気度低いって言われない?」
「私、まだお年玉残ってるし市内まで出てデパート行こうかなって思ってる」
「え、わざわざ? 中学生で?」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
好きな男子の名前が小声で飛び交い笑い声が弾む。女の子同士で渡す“友チョコ”の話も混じってはいるけれど、やっぱり中心にあるのは「誰に」「どうやって」だった。
その輪から少し離れたところで明里は楓と美智の方を向いた。
「ねえ、十二日うち来る?」
唐突な一言に二人は顔を見合わせる。
「え?」と楓。
「まさか……明里がバレンタインチョコ一緒に作ろう、とか?」と美智が半分冗談で聞く。
明里はきょとんと首をかしげた。
「チョコ? 何だっけ?」
「え?」今度は二人が声をそろえる。
「あれ? 去年も来たから今年も来るのかと思ってた」
明里は当たり前みたいに続ける。
「おばあちゃん、楽しみにしてるよ。繭玉飾り。今回もお友達連れてくるのかって」
「……繭玉……」
楓が一拍おいてはっとした。
「あ! 正月の、あれだ!」
「そうそう!」と美智も思い出したように笑う。
「柳の枝に丸めたお餅つけるやつ! 去年、明里の家でやったじゃん」
教室のあちこちでは「誰に渡す」「告白どうする」なんて話がまだ続いている。でも二人には特別気になる男子がいるわけでもない。時間だってある。
「……まあ、いいよね」
楓が肩をすくめる。
「行く行く。繭玉、意外と楽しかったし」
「うん。おばあちゃんにも会いたいし」と美智も頷く。
「ほんと?」
明里の顔がぱっと明るくなった。
「じゃあ決まりね。十二日は一緒に帰ろう」
二人は意味を完全にはわからないまま、でも、何となく「明里らしい」と思いながら笑っていた。




