(03-6)部長
放課後、明里たち四人は屋上に立っていた。授業の終わり際、新城先生に「放課後、屋上に四人で来て」と言われたのだ。
屋上?
職員室じゃなくて?
胸の奥に理由のわからない不安がふわりと浮かぶ。階段を上り扉を押し開けると、春の風が一気に吹き抜けた。
何もないただの屋上――
そう思った瞬間、楓が声を上げる。
「あれ……なにあれ?」
屋上の隅に小さな白いドームがぽつんと建っていた。
「え、部屋?」
「屋上にこんなのあったっけ……?」
四人が戸惑ったまま立ち尽くしていると、そのドームの扉が開き中から新城先生が顔を出した。
「あ、ちゃんと集まってるわね。じゃあ、こっち来て」
何事もなかったように手招きされ、四人は顔を見合わせながら近づく。
「これはね、天文台。天体観測用のドームよ」
「……天文台?」
「前に天文部が使ってたの。今は部がなくなっちゃったけどね。誰も使わないのももったいないからたまに私が使わせてもらってるの」
「先生が……?」
「え、じゃあ先生、星見てるんですか?」
「大学時代の友だちと、ね」
話が次々に投げ込まれてくる。
天文台。
先生が使っている。
大学時代の友人。
――で、肝心の私たちの天文部の話しは?
四人の頭の中は「?」でいっぱいだったが、新城先生はそんな様子を気にも留めずあっさりと言った。
「五人いれば部活として認めるって話だったわよね」
全員がごくりと息をのむ。
「確かに今は四人。でもね……」
少しだけ間を置いて先生はにっこり笑った。
「あなたたち四人での天文部活動、認めます」
「……!」
「せっかくドームもあるし、使わないほうがもったいないでしょ。それに、やる気のある部活は応援したいもの」
一拍遅れて、四人の顔が一気に明るくなる。
「ほ、本当ですか!?」
「ありがとうございます!」
「やった……!」
「ちなみに顧問は私ね」
さらりと付け加えて先生は胸を張る。
「大学では天文学と地球物理学をやってました」
「……え! すご……」
「なんか……かっこいい……」
夕子が小さくつぶやくと、先生は少し照れたように笑った。
「じゃあ、今日が天文部の第一歩ね。これからよろしく、みんな」
屋上に、春の風と四人の明るい声が混ざり合う。
さっそく四人はドームの中へ足を踏み入れた。外から見るよりもずっと広く、丸い天井が思っていた以上に高い。
「意外と広いね……」
「四人なら全然余裕だね」
中央に鎮座しているのは黒くて大きな天体望遠鏡。学校にこんなものがあったなんて誰も知らなかった。
「わー、なんかすごい……」
思わず声が揃う。
美智が一番乗りで覗き込む。
「……あれ? 真っ暗」
「え、どれどれ」楓も顔を近づける。
その様子を見て新城先生が苦笑しながら手を挙げた。
「はいはい、いったんストップ。気持ちはわかるけどね」
望遠鏡や棚に並んだ機材を見回しながら先生は続ける。
「使い方はこれから少しずつ教えます。今日はまず確認だけ。今日からここがあなたたちの部室であり活動場所です。大事に使ってね」
「はい」
四人の返事がきれいに重なった。
「じゃあ、ひとつ決めなきゃね」
先生が少しだけいたずらっぽく言う。
「部長は誰にする?」
一瞬の沈黙。
そして、三人の視線が一斉に明里に集まった。
「……え? わ、わたし?」
思わず声が裏返る。
三人は当然のようにうなずいている。断る理由も別の名前も浮かばない。その場の空気に背中を押されるように明里は小さく息を吸った。
「……わたしが、やります」
「決まりね。椎木さん、部長よろしく」
そう言って、先生はドームの鍵を明里の手にそっと渡した。
「じゃあ、あとは自由に見ていいわ。またね」
先生が去りドームの中には四人だけが残った。中をぐるっと見回したり外に出て屋上を歩き回ったり。
ドームを見上げて。
また中に戻って。
意味もなく笑って――
明里は鍵を握りしめながら胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
天文部ができたこと。
ここが自分たちの場所になったこと。
そして、
自分がその部長になったこと。
弥生。芽吹いたものがこれから伸びていく月。
弥生の空は今日も静かに広がっていた。




