(03-5)いいスタート
週末。
明里はいつものように赤峰神社でお手伝いをしていた。
掃き掃除をして、賽銭箱の周りを整えて、社務所の簡単な片づけを終える。一通り終わると自然と足は社務所の縁側へ向かう。そこが明里と神主さんの小さなくつろぎの場所だった。
「高校生になりました」
湯呑みを手にしながら明里が少し誇らしそうに言う。
「あぁ、そうでしたね、うんうん」
神主さんは穏やかにうなずく。
「今度のクラス、男子がいるんです。五人だけですけど」
「それはそれは。新鮮でしょう」
明里はくすっと笑った。
「それで、部活も始めるかもしれなくて。天文部です」
「天文部?」
神主さんの眉が少し上がる。
「はい。月もよく見えるし、星のこともちゃんと知りたいなって思って」
「明里さんらしいですね」
そう言われて、明里は少し照れたように笑った。
「でも……そうなったら、ここに来る回数が少し減るかもしれません」
ぽつりと正直な気持ちをこぼす。
神主さんはすぐには答えず境内の方へ目を向けた。若葉が芽吹きはじめた木々が春の光を受けている。
「弥生というのはね、如月で芽吹いた草木が一斉に伸び始める月です」
「……」
「芽が出たままでは育ちませんから。伸びる時期が必要なんです」
明里は静かにその言葉を受け止めていた。
「明里さんにとっても今はそういう時期なんでしょう。ここに来られる時間が減ったとしても、それは前に進んでいる証です」
神主さんは柔らかく微笑む。
「いい高校生活の、いいスタートですね」
明里は胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
「……はい」
境内を渡る風はまだ少し冷たいけれど、確かに春はもう動き出している。
明里の中でも何かが静かに、そして確かに伸び始めていた。




