三者面談
三者面談。その響きだけで現役の教師なら胃が痛くなるイベントだが、相手が“あの佐伯”の親ともなれば、それはもはや地雷原の踏破に等しい。
待合スペースで「佐伯様」と呼ぶと、いかつい父親と、どこか疲れ切った母親が重い足取りで教室に入ってきた。
「――それで、ご両親は佐伯くんの進路についてどのようにお考えですか?」
震えを隠しつつ切り出した花子に対し、父親は鼻を鳴らし、吐き捨てるように言い放った。
「こんな出来損ないの進路なんて知るか。第一、剛がこんなバカになったのは、すべて学校側の指導不足、環境の責任だ」
息を呑むような責任転嫁。その瞬間、花子の胸中でカチリと何かが音を立てて切り替わった。恐怖ではない、怒りでもない。――冷徹なまでの「確信」だ。
花子は無言のまま、先日の小テストで佐伯が書き殴ったレポート用紙を取り出し、机の上に叩きつけた。
「あなた方の仰る『出来損ない』が、こんな論文書けるとお思いですか?」
見せつけられた答案を一瞥し、両親の顔色が凍りつく。だが、現実を受け入れたくない父親は、顔を真っ赤にしてテーブルを叩いた。
「でっちあげだ! こんなのインチキに決まってる!」
その瞬間、脳裏にあの男の言葉が鮮烈にリフレインする。
――『どーせ無理』をこの世界から完全になくすことだ。
そうだ。この両親は、誰よりも身近な存在でありながら、我が子に「どうせ無理」という呪いをかけ、可能性の芽を自ら踏み潰している元凶に他ならない。
ならば、ここでその呪いをコードごと書き換えてやる。
花子は小さく息を吸い、しかし揺るぎない、芯の通った声で教室の空気を制した。
「剛さんは、これだけの知識、文章力、そして物事を構造化する問題解決能力をすでに兼ね備えています。どんな難関大だって、正しく設計し直せば十分に突破できる――私は、そう確信しています」
思いがけない教師の断言に、母親が震える声で呟いた。
「大学、なんて……お金がかかるでしょうに。恥ずかしながら、ウチにはそんな余裕なんて……」
その弱音を、花子は一刀両断する。
「お父様が日々納めている税金は何のために支払っているのですか? お母様が買い物のたびに払っている消費税もそうです。国に搾取されるままではなく、国立大学の学費として回収し、元を取ってやろうという発想には至りませんか?」
理路整然と、しかし圧倒的な熱量で突きつけられた正論に、両親はもはや反論の言葉を失う。父親は気まずそうに目を泳がせ、母親は下を向いたまま小さく呟いた。
「……持ち帰って、検討します」
それだけ言い残すと、二人は逃げるように教室を去っていった。
静まり返った教室に、夕陽が斜めに差し込んでいる。
窓の外――そこに彼の姿はなかったが、花子は誰もいないガラスの向こうに向かって、ぽつりと問いかけた。
「……山田くん、これで、よかったんだよね?」




