花子先生の初講義
山田から引き継いだ進学塾、初日の今日は“社会科”。もちろん、生存の為の受験には関係の無い講義だ。
「屋根の着いた家に住み、冷蔵庫を開ければ食べ物がある環境――世界の上位何%に貴方達が居るのか分かる人?」
問題児の佐伯が、手も上げずに答える。
「そんなのみんな当たり前の環境じゃねーか」
話にならない。
「不正解です。それだけで上位25%。更に佐伯君、貴方が自由に使えるお金が財布に入ってるでしょ。それは上位7%。今朝起きてご飯を食べ、今生きている――この世を去った多くの人が、もう過ごせない1日を過ごしているんです」
教室内が静まり返る
「今日ここに居て、私の言葉を理解しているだけでも、学びたくても学べなかった人達を思えばどれだけ幸運か分かるかしら。夜道を1人で歩けて、蛇口を捻れば水が出る国、日本。ココに住めるのは世界の上位1.5%の人に許された幸運なのです」
人はつい自分に無いものを欲しがり、不幸だと感じてしまう。だが、既に持っているものをカウントすれば、どれだけ恵まれているか分かるはずだ。
「先ずは自分の足元を見ましょう。いきなりですが、コレから小テストを始めます。自分が既に持っているものをそのレポート用紙に書き出してください。一つにつき1ポイント。満点なんてありません。多い程、高得点とします」
教室の外で聞いていた山田が、窓ガラスの向こうでほくそ笑む。
――やっぱり、出来るじゃねーか。




