指示書
夜の静寂を切り裂くように、花子は自宅のポストから一通の茶封筒を引き抜いた。消印も宛名もない。ただ表に、無機質な筆跡で――『指示書』とだけ記されていた。
差出人は言うまでもない。山田だ。
封を切ると、中から一枚の便箋が滑り落ちた。そこには、あいつ特有の、まるで世界を嘲笑うかのような軽快かつ圧倒的な筆致でこう綴られていた。
『花子先生、お疲れ様。
何をやっても空回りして、すべてが他人のせいにしか見えない連中を見たことがあるだろ? 先日の同窓会で顔を合わせた、あの変わり映えのしない連中さ。あいつらに限って口を揃えてこう言うんだ。「あの頃は良かった」ってな。
だが、俺がそんな敗北者のセリフを吐いたことがあるか? ない。絶対にない。
何故なら、俺にとって今この瞬間が人生で一番面白いからだ。それってつまり、生き方の違いだろ? だが、あんな退屈な学校じゃ、そんな生存のプロトコルなんて一文字も教えてくれない。
だから、俺の進学塾を畳む。――いや、それをそっくりそのまま引き継いで、今度は花子先生が迷えるガキどもにその「生き方」を教えてやってくれ。
花子先生ならできる。
もし失敗したらどうするかなんて、無駄なエラー処理を考えるな。――責任は、すべて俺が取る』
花子は便箋を握りしめ、暗い部屋の中で冷徹に、しかしどこか歓喜に似た笑みを浮かべた。




