花子、未来への旅
花子は自宅に戻ると、一人きりの反省会を開いていた。
今日一日、山田を捕縛したところまでは完全に計画通り。だが、レンブラントの壮絶な人生の語りから始まり、山田が繰り出すあの変な理屈に気圧され、結局は自分の意見を何一つ言えなかった。
――悔しいが、山田の言う通り「時間旅行」とやらを試してみるか。
ベッドにうずくまり、「未来へ」と強く念じながら意識を沈める。
……次に目を覚ましたとき、彼女は市役所に立っていた。どうやら婚姻届を提出している場面らしい。
窓口の職員が、信じられないものを見る目で激昂していた。
「山田太郎と山田花子……? おい、ふざけているのですか!」
すると、隣に立っていた山田が、冷徹な声で言い放った。
「見たまんまだ。怪しいなら戸籍を遡ればいいだろう。それとも、我々の名前を侮辱したいだけなのか? 調べるのはそちらの仕事だ、こっちは税金払ってるんだ。それができないなら、今すぐ税金を返還してもらうぞ」
――何年経とうが、この男の口の悪さは一ミリも変わっていない。
えっ、ちょっと待って……私はこの男と結婚するの?
急激な動揺に襲われた瞬間、スッと夢から覚めた。
薄暗い部屋、見慣れた天井。
「……これが、空間認知の切り替わり?」
自分の心臓の音を聞きながら、花子はかすかな笑みを浮かべた。少しだけ、あの男の言っていることが分かった気がした。




