時間の講義
コーヒーを啜りながら、山田は不敵に笑った。
「花子先生、今から言うことは俺の教え子の一部、世界でも数名しか知らない超極秘の事実だ。時間について正しい情報を教えてやる。一度しか言わないぞ。メモは取るなよ」
「時空についてはアインシュタインの書物で読んだわ! あなたはそれを壊すの?」
「壊すんじゃない。分解するんだ。時間と空間は、もともと別々の次元の代物なのさ。……ハイゼンベルグの不確定性原理は知ってるよな?」
「量子論において位置と運動量を同時に確定することは不可能、ってことでしょ?」
「そうだ。花子先生がさっき口にした”時間”と”空間”も、まったく同じ法則で成り立っている。一方を観測すると、もう一方の座標がぼやける。……さて、今お前が観測しているのはどっちだ?」
花子は戸惑いながらも、「……コーヒーが見えてるから、空間?」と答えた。
「正解だ! 我々は覚醒時、空間しか認知できない。だから時間が消える。では、空間認知能力を失ったらどうなる? 例えば――睡眠時だ」
「睡眠時……? 時折、夢を見るくらいだけど」
山田はニヤリと笑った。
「その夢こそが時間旅行なんだよ。訓練すれば、自在に過去や未来へ旅ができるようになる。今夜から試してみな。現に、2100年の花子先生はこの座標に向けて、見事にメッセージをピンポイント狙撃してきただろ?」
聞いたこともないあまりにめちゃくちゃな理屈に、花子は思わず頭を抱えた。
“授業料としてココは花子先生の奢りな!極秘情報の対価にしては安いだろ?”
だが、山田は満足げに笑うと、伝票をひょいと花子の方へ押しやった。
「授業料として、ここは花子先生の奢りな! 極秘情報の対価にしては安いだろ?」
「ちょっと、人の話を聞きなさ――」
文句を言いかけ、ふと花子は思い直した。
本当に彼は、高校生の頃からこの異次元の思考で未来に飛んでいたのかもしれない。――私も、やってみよう。
胸の奥で、じわりと熱いものが広がる。
焼き魚定食とコーヒーの代金なんて安すぎる。今や彼女の脳内は、世界の支配者になったかのような高揚感とワクワクで満たされていた。




