どーせ無理
秋刀魚の身をつつきながら、山田は平然とした調子で切り出した。
「花子先生、もし良かったら――俺の仲間にならないか?」
「……私を?」
「花子先生が母校に戻ってくるのは想定外だった。そのせいでジェシカに見つかったんだぜ? 責任くらい取ってくれるよな」
軽口の裏で、山田の瞳の奥の色が変わる。
「俺は昔、高校に居座り、進学塾から優秀な部下を学会、財界、政界、法曹界に送り込んで世の中の盤面ごと書き換えることを企てた。もっとも、その計画は一度破綻したがな。ジェシカ以外の連中は今も世界中でそれぞれの盤面を回しているが……一つだけ、空席のままのポジションがある」
視線を逸らさず、山田は花子のスペックを淡々と冷徹に評価する。
「花子先生は人柄、判断力、頭脳、どれをとっても申し分ない。あんたに任せたい仕事の定義はシンプルだ――世の中から『どーせ無理』という概念を完全に消し去ることだ」
秋刀魚の小骨を箸で避けながら、山田は続ける。
「世の中の大人は、ガキどもに向かってすぐに『どうせ無理だから辞めとけ』と吐き捨て、その希望を奪っていく。だが、そこに正確な代替案を提示さえすれば、絶望は瞬時にエネルギーへと変わる。『だったら、こうしてみたらどうだ?』――そうやってガキどもを導き、道を切り拓く。それが絶対的な信頼を生む。要は、俺がこれまでやってきた演算プロセスを、そのまま引き継いでくれればいい」
正論だ。――いや、正論すぎて恐ろしいほど未来のログを先回りしている。
だが、そこに微塵も「悪意」のノイズはない。
目の前にいるこの男は、誰よりも深く傷つき、誰よりも世の中に絶望しながら、それでもなお、一歩も引くことなく未来を構築し続ける『真の勇者』に他ならなかった。
幾度も翻弄されてきた頭脳が、静かに、しかし確信に満ちた着地点を見出す。
「――それで? ゴールは何処なの」
山田は微かに口元を緩め、未来の初期条件を突き放すように言い放った。
「『どーせ無理』をこの世界から完全になくすことだ。――まずはそこが、最初のマイルストーンだな」




