自信の正体
俺のcall sign晒してしまった
美術館を後にし、駅へと向かう山田の背中に声を飛ばす。
「――ねえ、山田」
追いついた花子は、息を整えながらも、その冷徹な瞳で男を問い質した。
「あなたはどうしてそんなに揺らがないの? 高校をクビになり、進学塾も廃業、要は無職でしょ? どんな絶望的な盤面でも、まるで最初から勝敗が見えているかのように動じない。……その『圧倒的な自信』の根拠は何なのよ」
振り返りもせず、ただ前を見据えたまま、山田は冷ややかに鼻を鳴らした。
「自信、ね……。そんなフワッとした代物にすがってるから、お前はいつまでも俺の掌の上なんだよ、花子」
「なっ……」
「順番がすべて逆だ。凡人ほど、『自信がついたらやる』『不安が消えたら動く』なんて寝言を抜かす。だが、そんな保証が最初から用意されている盤面なんて存在しない。……やるべきことはただ一つだ」
山田は足を止め、しかし振り返ることなく言い放つ。
「まず設計図を描き、見切り発車でもいいから動いてみる。バグが出たら即座にコードを書き換え、泥水をすすりながらデバッグを繰り返す。その糞みたいな失敗と修正のループを、血を流しながら何万回と積み上げた果てに――気づいたら、『まあ、今回もどうせ何とかなるだろ』っていうデータが脳に蓄積されているだけだ」
それが生きるということだと言わばかりに、山田は冷徹に続ける。
「綺麗事の正論じゃバグは直せない。……自分の手でエラーを叩き潰した回数だけが、お前を支える唯一のリアルになる。お前も、安全な観覧席から降りて、泥まみれのデバッグを始めてみろよ」
「……っ。追いついて見せるわよ。だから、連絡先をちょうだい?」
連絡先といっても、携帯電話すら持っていないこの男に聞くだけ無駄と知りつつ、半ば捨て鉢に質問を投げた。だが、返ってきたのは予想の斜め上を行く答えだった。
「――JA7WNYだ。もう一度言うぞ、ジュリエット・アルファ・セブン・ウイスキー・ノベンバー・ヤンキー。用があったらCQを出せ。録音している」
何の事やらさっぱり分からないが、要するにこれが奴なりの「連絡先」なのだろう。後でジェシカにでも聞いてみるとしよう。




