週末の美術館
花子は朝からチケットを握りしめ、開館を待ちわびていた。レンブラントの自画像を愛する山田が、この企画展に足を運ばないはずがない。
開館と同時に人の波に押し込まれるようにして会場へ入り、彼が好んで挙げていた自画像を順に巡ったが、次第に胸の奥から何かが込み上げてきた。
全盛期のレンブラントは富と装飾に彩られ、どこまでも絢爛で美しい。だが、それと対極にある晩年の姿は、身を剥ぎ取られたかのようにやつれた老人にすぎない。
「何よ、これ……」
人間は誰しも自分の老いや衰えを認めたくなく、隠したがる生き物だ。だが、彼は一切の虚飾を剥ぎ取り、そのままの己と真正面から向き合い続けた。生涯筆を置かないその信念と精神の強さは、もはや人間の枠を超えている。
「――はぁ。山田がこの男に惹かれる理由が、ようやくわかったわ」
死の直前に描かれた自画像の前に立ち尽くし、「ここで終わるのか」と胸を突かれて涙を流していると、背後から不意に肩を叩かれた。
振り返ると、そこには山田が立っていた。
「――花子先生も、レンブラントが好きになった?凄い男だよな。」
「好きとか、そういう次元の問題じゃないわよ……」
言葉を詰まらせながら、花子は再び絵を見上げた。これらの作品は、単なる絵画ではない。一人の男の壮絶な人生そのものが、そのままキャンバスに刻み付けられている。それを絵筆一本で表現し尽くすなど――。




