二日酔いの教壇
翌日。教室に足を踏み入れた瞬間、生徒たちが血相を変えて詰め寄ってきた。
「佐藤先生! 山田さんが、なんだかものすごくアルコール臭いんです!
――そんなこと、こっちが一番知っているわよ! だって、今朝の3時まで私とサシで飲んでたんだからな。
無意識のうちに言い訳めいた庇護の言葉が喉まで出かかった、その瞬間だった。
「――佐藤(花子)先生。校則は校則だ。全校生徒に対する示しがつかん。何か厳罰をくれ」
自席の机に突っ伏していたはずの山田が、まるでゾンビのようにムクリと起き上がり、冷徹な目を光らせた。
少年法、刑法、果ては憲法第13条の幸福追求権まで完璧に引用して、昨日今日の間柄である私を理路整然と論破しておきながら、次の瞬間には「自ら処罰を望む」だと……!?
ますますわからない。この男の脳内構造はどうなっているんだ。
こっちだって、昨夜のつきあいのせいで激しい二日酔いだというのに……どうしてくれるの狂ったこの人間は!
「花子先生は二日酔いかもしれんが、俺は2日目も酔ってる。この違いは大きい。要は飲酒運転だ!ダメだろ!」
何なのこの男は、自分に厳しすぎる!生徒達のチクりを平然とかわして自分を処罰してくれって!そもそも酒の席に誘ったのは私なのに。Jessicaとのいざこざはあったけどきっかけは間違いなく私!その罪を全て背負おうとして居る目の前の”山田太郎”って男! ――何なのこの男は。自分に厳しすぎやしないか? 生徒たちの告発を平然とかわし、自ら処罰を乞うなんて。そもそも昨夜の酒の席に誘ったのは私だ。Jessicaとのいざこざの因果を含め、きっかけは間違いなく私にある。その罪のすべてを一人で背負い込もうとしているというのか――。
目の前の『山田太郎』。
名前こそ日本中のどこにでも転がっているモブのデフォルトだが、中身はこの上なく狂ったイレギュラーの中のイレギュラー。こんな男の背中に、すべての罪を一人で被せるわけにはいかない。
生徒たちに真実を告げようと、花子が息を吸い込んだ、その時だった。
「――先生、すまん。胃酸の代謝メカニズムが破綻した。ちょっと保健室に行ってくる」
口元を押さえてフラリと席を立った山田は、絶妙すぎるタイミングでその場から消え去った。




