2人の女の共犯関係
静まり返ったカウンターの端。
山田が去った後の圧倒的な真空地帯で、佐藤花子は乾いた喉を鳴らし、震える勇気をかき集めて国家中将を見据えた。
――“Could I ask you a question, ma'am?”
(……質問してもよろしいですか、中将閣下)
場違いなほどたどたどしくも、剥き出しの執着を乗せたその問いに、ジェシカの唇にふっと妖艶な笑みが浮かんだ。威圧感がスッと霧散し、彼女はまるで気さくな同僚に話しかけるかのようにグラスを傾ける。
「そんなに畏まらないでちょうだい。さっきはちょっと脅しすぎたかしら……ごめんなさいね。――少し、妬いていたのかもね」
「……妬いて、いた?」
「そう。貴方も、山田先生についてもっと知りたかった。だから彼を直接この場に誘い、その口からすべてを聞き出したかったのさ。……だけど、私が乱入したせいで、あなたのその作戦は完全にパァよ。違うかい?」
ジェシカは愉快そうに目を細め、氷の浮いたグラスを揺らした。
「でもね……分かっているはずよ。彼は最初から、すべてお見通しだった。だからこそ、あんな風に怒ったふりをして店を飛び出したのよ」
「……っ」
「知っているでしょう? あの人は、自分の口で自分の過去や本音を語るような野暮な真似は絶対にしない。増して感情に任せて行動するなんて愚かな事は絶対にしないの。彼が感情を見せるのは絶対に演技、わかるでしょ?」
冷徹な中将の瞳の奥に、かつて少年時代の山田に人生のコードを書き換えられた「教え子」としての狂おしいまでの執着がちらつく。
そして、その言葉の意味を咀嚼しながら、花子の胸の内で何かが決定的に音を立てて書き換わっていった。
敵対するはずの二人の女の間に、奇妙な、あまりにも歪んだ連帯の回路が繋がる。
「……少し、飲みましょうか」
カラン、とグラスとグラスが乾いた音を立ててぶつかり合う。
国家の闇を背負う女と、地方都市の狂気にとりつかれた女――こうして、誰も予測できなかった最悪で最高な「新しい友達」が、ボロいおおでん屋のカウンターで静かに誕生したのだった。




