演算された支配と、静かなる撤収
Jessica悪役にしてしまった。喜ぶだろうな!彼女も変態だから
「公認ストーカー? 勝手にやってろ」
山田は冷ややかに鼻で笑い、微塵の動揺も見せずに言い放った。
「俺がお前をハーバードへ送り込み、UC MedicalからUSPHSの頂点まで駆け上がらせたのは、偶然でも何でもない。お前が将来の俺の右腕として機能することを初期段階から逆算し、その通りの軌道にハックしただけだ。……何か、俺のアルゴリズムに矛盾でもあったか?」
言葉が出なかった。
国家中将としてのプライドも、狂おしいまでの執着も、すべてはこの男の描いた巨大な設計図の掌の上で泳がされていたに過ぎなかったというのか。
隣でそのやり取りを聞いていた佐藤花子は、戦慄と恐怖、そして沸騰するような驚愕に全身を強ばらせていた。
――今の自分のこの絶望的な精神状態を一言で表現する単語など、この国のどの国語辞典を開いても、脳内ライブラリをどれだけ高速検索してもヒットしやしない。目の前で繰り広げられているのは、人間同士の会話ではなく、もはや神とシステムの領域の対話だった。
国家権力を背負った怪物が目の前にいるというのに、この黒いスーツの男は少しも怯むどころか、逆に相手を完全に手玉に取っている。
形勢不利と見たか、ジェシカはふっと妖艶な笑みを消し、冷徹な視線を隣の花子へとスライドさせた。
「なるほどね……。で、そちらの彼女は? 佐藤花子先生ですよね。太郎先生の私設の『先生』ポジション気取りかしら。どうしてこんな場末に、この人がいるのかしらね?」
――ピクリ、と山田の眉が動いた。
「おい」
山田が、音もなく椅子から立ち上がった。その圧倒的な気配に、ジェシカの護衛たちが反射子的に身構える。
「気分が悪い。ジェシカ、言ったはずだ。俺の会話に勝手なノイズを割り込ませるなと。……忘れたのか?」
冷え切った声が、バーの空気を完全に凍りつかせる。
「俺は帰る。花子先生、こんな国家規模のバグに付き合う義務は一切ない。一緒に店を出るぞ。……会計はいい。ココは俺の店なのだからな」




