国家権力の降臨
ボロいバーのカウンター。
湯気を上げるおでんの出汁の匂いと、場末の酒場の薄汚れた空気が混ざり合う中、山田はマイペースに箸を進めていた。その隣で、花子は「この男はいったい何者なのだろう」という言語化できない違和感と緊張感に喉を詰まらせていた。
その時――。
カラン、と乾いたドアベルの音が、店の静寂を暴力的に引き裂いた。
「……っ!?」
花子が反射的に振り返った瞬間、息が止まった。
そこに立っていたのは、この古びたバーの空間が物理的に歪んでしまうほどの、圧倒的な異物感と威圧感を纏った女だった。
身に纏うのは、凛としたUS空軍の制服。その肩には、眩い光を放つ金星の『4スター・アンド・バー』の肩章が燦然と輝いている。頭部には、USPHS(米公衆衛生局士衛隊)のエンブレムが入ったキャップ。そして、その両脇には黒いスーツを纏った無表情な屈強な護衛が2人、完璧な警戒態勢で従っている。
――Dr. ジェシカ・アカネ・アキミツ。
国家の最高機密とバイオセキュリティーの頂点に君臨するその女が、国家中将としてのフル装備を身にまとったまま、場末のおでん屋に足を踏み入れたのだ。
店内の空気が一瞬で氷点下に凍りついた。
バーの親父は持っていたグラスを落としそうになり、花子は恐怖と圧倒的な格の違いに、椅子から滑り落ちそうになる身体を必死に両手で支えるのが精一杯だった。
だが、当のジェシカは、周囲の人間など存在しないかのように冷徹な瞳を巡らせ、まっすぐカウンターの端――山田の隣へと歩を進める。
護衛の男たちが一瞬で周囲を制圧するように位置取り、その中央でジェシカは美しく、しかし底知れない笑みを浮かべて山田を見下ろした。
「――見つけたよ、エンジニアさん」
ジェシカの低く澄んだ声が、静まり返った店内に響き渡る。
「こんな寂れた場所で、おでんなんかをつついて隠れていたって無駄さ。……私の『公認ストーカーの権利』、そろそろ更新の時間じゃないのかい?」




