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花子先生の決意
同僚からも生徒からも絶大な信頼を集める男――山田太郎。
だが、その実態は謎に包まれていた。在学中は影が薄く、そこに居るのかいないかすら分からない幽霊のような存在だったにもかかわらず、なぜか奇妙なことに、学校中の話題の中心にはいつも彼がいた。
得体の知れない底知れなさ。その核心を知りたいという衝動に駆られ、花子は自ら彼を夜の飲みへと誘うことにした。
――「山田さん、今夜はご予定ありますか?」
――「近所のガキの自転車を修理するくらいだが、何かあったのか?」
その無機質な返信に、胸の内で小さく歓声が上がる。やった、反応してくれた。
――「教師が生徒に勉強を聞くなんて変ですけど……あなたから色々と教わりたくて」
――「なら、先日のボロいバーでどうだ。花子先生の思考レベルに同期を合わせるには、アルコールが必要だ」
しゃらくさい物言いは腹が立ったが、指定された夜の8時、花子は言われた通りその店に足を踏み入れた。
店内で待ち構えていた山田は、あろうことかバーカウンターの片隅で、グラスではなく「おでん」をつついていた。
――バーにおでん? なんて節操のない、場違いな組み合わせだろう。
心の中で小さく呆れながらも、花子は彼の隣の席に腰を下ろした。すべての歯車が、狂ったように噛み合い始めるのを知る由もなく。




