途切れた回線と、逃げ場なき尋問
俺のDr.Jessicaが仲間に入れろとほざくのでリアル人物登場
画面に表示された不気味な国際電話の番号――『+1』で始まる北米のプレフィックス。
心臓の鼓動が耳鳴りのように響く中、花子は震える指で通話履歴をタップし、反射的に折り返しの発信ボタンを押した。
だが――。
コール音すら鳴らない。聞こえてきたのは、ただ冷徹に回線の切断を告げる機械的なアナウンスメントだけだった。
何度かけ直しても結果は同じ。この国の一介の教員が持つスマホからアクセスできる領域など、最初から遥かに超越しているのだ。
繋がるわけがない。
彼女が手にしたのは、答えではなく、さらなる底知れぬ恐怖という名のバグだった。
放課後の薄暗い職員室。
逃げ場を失った花子は、冷や汗を拭うことも忘れ、パイプ椅子に浅く腰掛けたままの黒いスーツの男――山田太郎を鋭く睨みつけた。
「……ふざけないでよ、山田」
絞り出すような、しかし剥き出しの狂気を孕んだ声が静寂を切り裂く。
「さっきの女は一体何なのよ。『USPHS中将』……アメリカの公衆衛生局の、それも最高幹部が、なんであなたの教え子だなんて名乗るのよ! 私がそこに折り返しても繋がらなかったわ……! 一体、あなたは何を隠しているのっ!」
山田は、指先で回していた古びータボールペンをピタリと止め、冷徹なスクエアフレームの眼鏡の奥から、すっと花子に視線を合わせた。
「……折り返したのか?」
嘲笑うわけでもなく、ただ呆れたような、しかし底の知れない冷たさを帯びた低い声。
「当たり前でしょ……! あなたという人間の輪郭が全く見えないのに、いきなり国家レベルの怪物が現れて、私をまるで『邪魔な変数』みたいに扱って……! あなたは、この学校の生徒なんかじゃない。一体、裏で何を企んでいるっていうのよ!」
花子は机に両手を突き出し、その距離を一気に詰めた。
正論のOSで世界を裁いてきた彼女が、いまや自分の足元ですべての論理が崩壊していくのを必死に繋ぎ止めようと、狂おしく彼に詰め寄っている。
だが、山田は微動だにしない。
その圧倒的なまでの余裕と、全てを計算し尽くした静けさが、かえって花子の精神を追い詰めていく。
「企む、ねえ……」
山田はふっと薄い笑みを浮かべ、椅子の背もたれに体を預けた。
「教え子の一人が、少しばかり勝手な真似をしただけの話だ。だがな、花子先生――そんなに焦る必要はない」
「焦って……ないわよ!」
「嘘をつけ。お前の脳のクロック数は今、完全に許容量を超えているぞ」
山田は静かに立ち上がり、花子の目の前へと歩み寄る。その巨躯が落とす影が、彼女の全身を完全に覆い尽くした。
「知りたいか? 俺が何者で、この世界をどうやってハックしようとしているのかの全貌を」
耳元に囁かれる低い声。
拒絶しなければならないと本能が警告しているのに、花子の身体は一歩も後ろへ下がることができなかった。
「……なら、明日だ。明日、すべての計算式を教えてやるよ。――あの女がこの盤面に本格的に介入してくる前に、な」




